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夏垣とは学年が違い、部活でもそれほど親しい間柄でもなかったので、転校したことを知ったのは、彼女が転校した少し後。すぐに知ることはできなかった。
僕が高校時代に所属していた新聞部は多くの部員と同じように顧問も幽霊みたいなもので、連絡が滞ることがままあった。
だから、僕が夏垣が学校からいなくなったことに気が付いたのは校内にある学校新聞を張り替えるとき。普段はこのときばかりは部活動に参加している夏垣がいなかったから、同学年の子に聞いて、初めて転校の事実を知った。
一応、連絡先は交換したのだから何か言ってくれれば、と思ったけれど、そこまで親しくなかったから仕方がない。
それに――もし、この日記に書かれていたことが事実ならば、この少し後に転校していったのだから、ちょっと知り合っただけの部活の先輩に連絡をするだけの余裕なんか、なかったのかもしれない。
「……まあ、本当ならだけど」
僕の独り言に誰が反応するでもなく、室内に消える。
この日記の中心部分にもなっている、烏取県混海駅前通り女児誘拐事件の犯人は、未だに捕まっていない。なんなら、被害者の笹間優羽も見つかっていない。
夏垣がいなくなって十年。つまりは、事件が発生してから十五年経った今も、何一つ新情報は出ず、事件は進展していない。
だから、僕の書いた小説も実際の事件を元にして作ったフィクションで、夏垣和花という人物も架空の人物だと思われているに違いない。……まあ、実際に、夏垣和花という人物はいないんだけども。
「流石に本名をそのままはなあ……」
いっそ本名をそのまま公開しても構わない、ということは書いてあったけれど、僕には抵抗があってできなかった。嘘に真実を少し混ぜると信ぴょう性が増す、とはよく聞くが、割合的には逆。
彼女の姉、夏垣和美が夏垣の本当の名前。首を吊るのを試みている姉は、本当は兄であり、夏垣に姉は存在しない。
姉妹ではなく、兄妹なのだ。
家族構成をあまりにもがっつり変えると後でつじつまが合わなくなるかと思い、兄弟姉妹の設定だけフェイクを混ぜさせてもらった。なので、四足歩行を始め犬のようになった母親と、ネズミの唐揚げをコロッケだと言い張る父親はそのまま存在する。
後は僕が、実際には新聞部の副部長であるにも関わらず、部長になっていたり。あと犬も豆しばじゃなくて普通の柴犬だった。
細かいところは変えて、でも、大筋は変わっていない。
彼女の母親が、非常に怪しいというところも。
少しばかりオカルトが行き過ぎて、現実味がないところも。
事件の解明を、夏垣自体も望んでいる。それは、本名や自分の素性がネットにさらされ、残っても構わないというくらいには。
ただ――あまりにも、母親が犯人ではないのかという恐怖に取りつかれ、彼女はいくつも不自然な情報を見落としているように思えた。




