12 後夜祭で…
体育館の後ろのほうの席は、まだ空いていた。
並んで席に座ると、後夜祭が始まった。
先生の出し物は寸劇で、習ったことがないけれど、見かけたことはある強面の先生も、実は面白い人なのかもしれないと思ったりもした。
芸能人の舞台は、二人組のお笑い芸人のコントだった。
とても楽しくて、たくさん笑った。
体育館でのスケジュールがすべて終わり、
「30分後に打ち上げ花火が上がります。」
というアナウンスが流れ、電気がつけられた。
さっきまで舞台以外真っ暗だったから、少し眩しい。
みんな花火をみようと、どんどん外へ出て行く。
体育館の前の方に出入り口があるから、一番後ろに座っていた私たちは最後のほうになっていた。
もう体育館には数人しか残っていない。
「黒田。ついてきて。こっちに穴場があるんだ。あそこからなら花火がよく見えると思うんだよね。こいよ。」
そういうと、私の手を掴んで歩き出した。
「ちょっと…え…?」
戸惑っている私を振り返ると、
「花火みよう。」
それだけ言うと、また前をみて歩き出した.
下駄箱で靴に履き替え、校舎の外にでた。
夜は少し肌寒い。
みんな校庭で見るようで、たくさんの学生が校庭に集まっていた。
私もそこへ行くものだと思い、校庭に向かって歩き出すと、
「そっちじゃないよ。」
と、また手を掴まれ、そのまま校庭とは反対の部室棟の方へと引っ張られていく。
「どこまで行くの?」
行き先が分からず戸惑っていると、
「もう少し先。」
歩くスピードは変わらない。
部活に入っていないから、校舎裏といえばゴミ捨て場くらいで、その奥の部室棟の方まで行ったことがなかったので、初めて歩く場所に少し緊張した。
時計をみると、もう少しで20時になるところだった。
「ついたよ。」
白坂に指差された場所は、部室棟を抜けた先、校舎とフェンスの間に林のように木が植えられ、その下に木製のベンチが二つ置かれていた。
「座ろう。」
「うん。」
白坂に促されるようにベンチに座ると、
ドンッ
ばばばばばばばっ
花火が打ち上げられる音が鳴り響いた。
「わあ、綺麗…。」
真っ暗な田んぼの上に花火がいくつも上がっていく。
学校の周りは田んぼが広がっており、遮るような高い建物は何もない。
「本当だ!白坂、ここ花火がよく見える!」
しかも、一人になりたい私からすると、誰もいない誰も見ていないところで見られる花火は最高だった。白坂が隣に座ったことにも気が付かないくらい、夢中になって花火を見ていた。
綺麗だな。秋にも花火が見られるなんて、嬉しい…。
遠くで「最後の花火が打ちあがります!みなさん、文化祭お疲れ様でした!」
文化祭実行委員長の挨拶が聞こえ、その声を合図に、一番華やかな花火が打ち上げられた。
花火の灯が消えると、人の声と、帰路へと歩き出す足音が重なってざわざわした音がここまで届いた。
「終わっちゃったね。私、花火って大好きなんだ。一緒に見てくれてありがとう。」
素直にお礼が言えていた。
白坂をみるとなんだか嬉しそうだった。
「いや。こちらこそありがとう。」
そういったきり、私を見たまま動こうとしない。
「どうしたの?」
声を掛けると、覚悟を決めたように一度うなずくと、今まで見たことのない真剣な顔で、
「黒田。俺…、お前が好きだ。付き合ってほしい。」
突然だった。
一学期の終業式のあの日、取り乱して白坂に掴みかかってしまった時以来、初めてこんなに長く二人で一緒にいて、本当は緊張してたまらなかった。
嫌われたとさえ思っていた。
それが、なに?突然?
パニックになっていた。
そして、
あまりに真剣な眼差しに、怖くなって思わずその場から逃げだしていた。
「黒田!」
白坂の声が背中に突き刺さる。
でも…。何?私のことが好き?付き合ってほしい?
それって何だっけ?私が言われたの?え?
ありえない ありえない ありえない…
心の中で何度繰り返したのだろう。どうしらいいいの?
一気に家まで走っていた。お母さんに「今日ご飯いらない。風呂入って寝る。」と言って、風呂にだけ入り、自分の部屋にすぐ入った。さっきまでのことが頭を駆け巡っている。
「どうしよう。逃げ出しちゃった。あんなに真剣に言ってくれたのに。」
初めて告白されたのは、5月の良く晴れた朝だった。
あの時はちょっとふざけた感じがあって、からかわれているのかと思った。
けれど、さっきのあれは、あの告白は全然違ったものだった。
ベッドの上で一人、膝を抱えて泣いていた。
私が赤山さんに初めて声を掛けた時より、絶対白坂のさっきの告白の方が勇気がいったはず。
それなのに、何も言わず逃げてしまった。
明日からどうしよう。
どう接していいのか分からない。私はどうしたいんだろう。
「私は白坂が好き…?」
言葉に出してみた。好きなんだろうか?何がなんだか分からない。
私の頭はパンクした。




