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AWAYOKUBAーギャルゲは異世界で  作者: 成瀬葵
第一章  激動
8/11

第一章  7『翌檜かアスナロか』

 異世界で初めて友好的な相手との交流?

 ・・・っていうことでいいんだよな。俺は彼女のために人探しを手伝うことにした。全部が全部彼女のために何かがしたいというそんな思いでの今の状況だ

 ある程度会話もするし最初の方は写真に写っている少年のことで話がいっぱいだった。話も弾んだし、だけどそこから一周回ってしまうとこれはこれでかなりの重労働だ。


「・・・えっと、まだ食べるの?」


 得体のしれない食べ物をどんどん買ってきてはどんどん口の中に押し込んでいく様が彼女にはある。口の中パンパンで話しかけてもまともに言葉なんて喋れるわけもないし、ようやく話せると思ったらそそくさ次のを買いにく。

 悪循環を一周回ってすごい効率的だよちくしょう!


「あのさ、俺から言うのはすんごい恐縮なんだけどさ。人を探してるんだよね?その姿を見てるとどうにもそんな気分には見えないんだけど。」


 苦笑しながら代金を店主に渡す彼女に言う。

 俺が持っていた十円玉だ。ここでの十円玉はただの銅貨として使えるらしく、それはどこもかしこも共通しているようだ。それで気前が良かった俺は一つおごってやると気分が良くなったのか彼女のためにお金を使うようになって、挙句の果てには俺の財布はどんどん軽くなっていった。

 まぁ、お金で解決できることほど、簡単なものはないけど。(若干半泣き)

 ここでの生活が懸かってるんだけど、まぁこの子の役に立ててるんだったらいいかな。ただの金ずるみたいになっちゃってるけどさ。


「・・・腹が減っては戦はできないって言うでしょ?・・・だからこれは、そのための腹ごしらえ。」


 腹ごしらえの度を超えてるんじゃないかっていうほど胃の中に食べ物を収めていってるけど。まさかこの子が暴食キャラだとは思わなかった。

 スタイル良くてかわいいくせに、服に『アイラブ炭水化物』とかいうダサい服を日常で使ってる残念な子が頭に浮かんじゃうのは俺だけか?


「腹ごしらえ、ねぇ。」


 違和感が残りながら俺は、ハンバーガーのようなものを購入した彼女と肩を並べながらまた歩き始める。横では幸せそうにほおばる彼女の姿があった。

 こんなけ可愛い顔して食べてくれたら払う側も満足ってもんよ。


「おいしい?」


 母親の目線で朗らかに笑いながら聞いた。実際のところ見た目はまんまハンバーガーだし、とてもおいしそうだった。


「うん・・・。」


 幸せなひと時を堪能していた彼女は小さくうなずいた。視線はあれに集中していてまっすぐに一点を見つめている。まるで獲物のカエルを見据える蛇のようだった。

 そんな姿を見て邪魔をしてはいけないかなっていう気持ちになって、俺もまたうなずくように


「・・・まじか。」


 と、返答した。

 そんな俺を見て何を思ったのか、彼女は指についたケチャップのような赤い液体を小さくなめると、俺の目の前に先刻買ったばかりのものを差し出した。もちろん彼女がかじったやつだ。


「・・・よかったら、あなたも食べる?」


「・・・・・⁉」


 うっかり言葉をなくす。俺にも食べる?だって?しかも彼女の食べかけのやつを?彼女が一度口にした、彼女の唾液が付着したそれを・・・?


「どうしたの?・・・食べないの。」


「いや、食べたいのはやまやまなんだけど。」


 テンパってうまく言葉が浮かばない。『これが俗に言う間接キスっていうやつなのか』、なんていう言葉のせいで頭の中がいっぱいになってるせいでもあるんだけど。

 彼女にとっては自分だけ食べてて申し訳ないからっていうので差し出してくれてるんだろうけど、食べかけのなんて、ましてや美少女のやつだなんて。これは初の間接キスイベントっていうことなのか⁉ 

 それだったら異世界さんにマジ感謝だぜ!


「本当に食べてもいいんだよね?」


「・・・うん。」


 彼女から受け取る。おいしそうな匂いとともに目に映るのは彼女が一口かじったそれ。何の変哲のないはずなのに、彼女が口にしていたっていうことだけで俺の胸ははち切れそうなほどに高く大きく動き始めた。

 や、やべぇ。これが今俺の口の中に。ついに俺にも女の子と間接キスが出来る日が来たんだな。このまま一生こんなご縁がないかもしれない。ここは慎重に、もちろん彼女がかじったところを俺もかじりにいく!

 ここで反対側の部分を食べるとかいうチキンな展開を披露するわけにはいかない。

 ここには思春期真っただ中プラス引きこもりギャルゲオタクの俺がいるんだぞ。女の子とこうして会話が出来てるってことだけでもすごいことなのにこの最高の機会、女の子との間接キスイベントを逃すわけにはいかない!


「じゃあ・・・。」


 口に近づけていく。同時に俺の鼓動は急激にスピードを増し、体中に響き始めた。血液中を流れる血液の音がいつも以上に大きく聞こえて、目には彼女から受け取ったもの以外何も見えなくなっていった。

「(今ここに、彼女のかじりかけのやつを・・・口のなかに、いざ投入だ!)」

 そう心の中で思いつつ、一口かじりついた。

 かのように思えた。


「あっ、すまん。」


 右肩に少し強めな衝撃と共に、男の少し適当な謝罪の声が耳に届く。一瞬それのせいで目をつぶり体の力は指先にまで伝わらなくなった。つまり、大事な大事な彼女のかじりつきハンバーガーはかくして地面へと嫌な擬音とともに落ちていった。


「・・・・⁉⁉⁉⁉⁉⁉」


 地面にあるのは先刻までの形を成していない無残なものになった彼女のかじりかけハンバーガー。ハンバーガーなんてどうでもいい。そんなことよりも一番に思うのは間接キスイベントの消失だ。


「・・・・マジ・・・だろ・・・。」


 一瞬の絶句から小さくこぼれたのはその様な絶望を感じさせるかすれた声だった。

 すぐさま振り向く。

 人通りが多い道なうえに声しか聞こえなかったのでどいつがぶつかってきたのかなんてわからない。それなのに俺は負のオーラをバンバン醸し出してひきつった顔で辺りを見回した。


「俺の間接キスイベントを邪魔したやつは誰だ!」


 強めに肩の衝撃が伝わったからおそらく獣人なんだろう。それだったらさっきの獣人どもの仕業なのか?だとしたら精神的に嫌がらせしてきたぞ。っていうか殴られ蹴られるよりもこっちの方が肉体的にも精神的にもダメージ半端ないぞ!


「・・・ねえ、大丈夫?」


「大丈夫なわけあるか!大事な大事な君からもらったものを落っことされたんだぞ。」


 せっかくの間接キスイベントが台無しじゃないか。これはあれか?神様は簡単に女の子からご褒美がもらえると思うなよっていう意思表示なのか?

 だとしたら神様ぶっ殺す!


「どこに行きやがった!謝るにしても流れ作業のように言ってきやがって、俺は大量生産されてる車じゃないんだぞ!」


 自分でも何言ってるのかよくわからない。ただ怒りで一瞬頭がいっぱいになったのは俺でもわかる。無論俺の体なわけだし。

 行きかう人々にとったら俺のことなんて目にも映っていないんだろう。割と大きな声出してんのに振り返ってくれる奴なんて一人もいない。しかも横を擦れ違った人にとったら『どうしたこいつ』みたいに一瞬頭の中に流れるけどすぐ廃棄処分される感じだろう。


「・・・そんなに怒るほどのものなの?」


 小さくか細い声がすぐ横で聞こえる。

 ただ、彼女だけは俺の気持ちに寄り添ってくれているかのように言葉をかけてくれた。


「そりゃそうだろ。せっかくの間接キスイベントがなくなっちゃったんだぞ。」


「間接キス・・・?」


 尋ねて彼女は首をかしげる


「え、間接キス知らないの?この子、ひょっとして俺より恋愛経験ない感じ?あら、お母さん心配。」


 ふざけながら涙ぐんで言う。


「むっ。・・・し、知らないわけ、ない。」


 多少負けず嫌いなのかただの強がりなのか、彼女は即座にそう言い返した。

 そんな姿を見て、うわっめちゃくちゃくかわええ。なんて心の片隅に思いつつ俺は笑いながら言った。


「それ、知らいない人が言うやつだぞ?知らないのばればれじゃん。」


 続けて、今度はまた違う笑みを見せて


「君って少し抜けてるとことかあるんだな。全然笑わないし喋らないしで、ちょっととっつきにくい子なのかな、なんて思ってたよ。」


 無表情だし、基本無口だし、まぁそこんところもゲームの翌檜にめちゃくちゃ似てるんだけど。やっぱりこの子を攻略しろってオズは言ってたのかな。それが一番妥当な結論だろうし色々とつじつまが合う。

 彼女を攻略しようとしているときに異世界へと俺は召喚された。そして今はオズにここでギャルゲをしろって言われた。そして今目の前にいるのは翌檜そっくりな女の子。

 もし俺の推測が正しいなら俺は、この子のことを知っていくべきなんだろうな。

 まぁ。いまはかわいいの言葉しか浮かばないんだけど。


「・・・別に私はとっつきにくくなんてない。・・・どちらかというと、友好的でフレンドリーな少女。」


「それマジで言ってんの?」


 若干苦笑しながら言う。

ジョークを言ってるみたいな感じがこの子の抜けてるとこっていうことなんだろうな。無表情でも基本無口でも彼女と仲良くはなりたいしな。


「まぁ、とりあえず今ここに落ちてるこれは、後で掃除しておくことにしよう。」


 二人そろって視線を下に落とした。そこにあったのはハンバーガーとは言い難いものがあった。赤色のケチャップのような液体のせいで少し怖くも見えるそれはすぐさま撤去することにした。

ちなみにさっき食べてたやつはハングァーガーって言うらしい。なんかすんごい発音良くしていったみたいな感じだな、って思った。




※ 




「なあ。」


 返事を求めるように一人小さく呟いた。周りには相変わらず人が大勢行きかう姿が見える。そしてここはよくありそうな石で造られたいかにもって感じの橋の上だ。そんな中で俺は欄干に肘をつきながらたそがれていた。


「・・・なに?」


 平然とした顔つきで言ってるんだろうなと思える返答が彼女から届く。俺の目には橋から眺めることのできる少し小さくなった街並とゆるやかに流れる川しか見えていない。

 その理由としては今この状況に対して若干の嫌気がさしていたからだ。


「・・・手がかり全くないねー。」


 今度は空を眺めつつ言う。どこか気の抜けた声質にほんのりと嫌味を混ぜた言葉だった。眺めた空と言えば青空に少しだけかかる白い雲。快晴とは言い難いが太陽は元気よく光輝いていた。


「・・・うん。」


 ただうなずく声だけが聞こえる。しっかりと耳を傾けてないと聞こえないレベルに小さいそれは彼女の少しばかりの動揺なのかな?なんて思った。

 空は綺麗だ。ここから眺める街並みはとても美しい。ゆるやかに流れる川のせせらぎが・・・って、

「いやちょと待てよ⁉この状況はおかしいんじゃないのか⁉」

 ぐるりと半周体を回してただ橋にもたれかかる彼女に訴えかける。相変わらずの無表情な顔に少しの困惑が俺を襲ったが、すぐさま彼女の目を見つめた。美しい黒の眉毛にぱっちりと見開いた大きな金色の瞳。それが射貫くように俺を見据えた。


「・・・どこが、おかしいの?」


「今のこの暇すぎる状況のことだよ!」


 俺たちの人探しは順調に進んでいた。一枚の写真を手掛かりに目撃情報を徹底的に洗い出し、その末あってようやく彼女の探していた少年を発見する。それが理想の人探しだった。

 しかし、実際はこんな風にできたかと問われれば出来なかったと答えるのが正解だろう。ことの発端は彼女の暴食ぶりから始まり、幸せそうに食べている彼女の表情がいつにもなくかわいらしかったので俺の方も奮発しちゃったっていうわけだ。かわいい子はほんと罪だと思うよ。みんなの視線を独り占めにしちゃって、なんて羨ましいんだ!

 俺の愚痴のことはさておき、今この暇な状況がおかしい。

 彼女のために役に立ちたいとは言ったけど、彼女はお腹がすけば『なんか買って』と言ってくるし、俺はそれに対して『いいよー。』とのろけながら言っちゃうわけだし、すごい悪循環だよね、これ。

 逆に言えば今のこのひと時はその悪循環のつかの間の休息なのかもしれないな。


「・・・しょうがない。何も手掛かりがないんだから。」


「ま、まぁそうだけどさ。」


 確かに正論と言えば正論だ。一様手がかりは探そうと人に聞いてみたんだ。例えば彼女が買ったハングァーガーの店の店主とか、アイスみたいに冷たいデザート的なものを買った店の店員とか。あれ?全部あの子につき合わされて次いで感覚になってたんだけど。

 まぁ、あの子のおかげで手にはいった情報と言えばそうなんだけど。


「だけどさ、このまま途方に暮れてるっていうのは何て言うのか落ち着かないな。俺から手伝うって言ったけど、ここまでなんもないと役に立ててるのか少し不安だし。」


 捜査は難航している。

 それに対しては俺にも多少なりと非があった。


 まず、土地勘がない。

 これに至っては異世界召喚されたばかりなので許してくださいとしか言いようがないがこのあたりの道について疎い彼女にとっても痛手でしかない。二人そろってこの辺の地理をあまり知らないというのは本末転倒だ。

 彼女に至っては無駄になった時間は食事の時間に費やしたわけだけど、俺は一緒にお金も費やしてるんだよな。今ではほんと笑い話だよ。笑えないけどさ。

 そして、第二に文字が全く分かりませぇん!

 会話が通じるからこの世界の共通言語はてっきり日本語だと思ってたら、書き言葉においては全くの無知でしかない。アラビア語に近いと言えば近いそれは当然読めるわけもなく、それにおいても彼女は疎いのだという。

 つまり、二人そろってわからないことだらけというのが今のこの現状を作っているということなのだ。


「・・・今は人手が足りない。あなたがいるだけでも、私の親指分ぐらいには活躍してる。」


「そういえば親指がないと人間はペンすら握れずこれからの人生に大きく支障をきたすと聞く。つまり、親指こそが人生の核、ってなんか例えがびみょい!」


 あれなんだよな。この子は俺に親指くらいあなたは大事って言われてるんだよな。けなされてるのか褒められてるのか判断がしずらいぞ。

 まぁ、こういうところがこの子の性格なのだと思えばそれはそれでいいか。


「・・・あっ。」


 少女が思い出したのか言葉を漏らした。その意味はすぐさま口に出された。俺に向かってグサッと胸に刺さるお言葉を。


「・・・そういえば、さっきから全部私が、聞き取りやってる。・・・あなたはいつも私の後ろに隠れてただけ・・・。」


 ぞくっ、と悪寒が走る。痛いところを突かれたもんだ。次いで感覚で聞き取りをやってるのかと思えばちゃんと俺のことを見てやがる。頭の中は食べ物のことでてっきりいっぱいなんだと思ってたぞ。


「いや、まぁな。初対面の人と話すのはそれ相応の覚悟っていうのが必要なんだよ。」


「・・・でも、聞いた人みんな獣人じゃなかった。獣人に殺されそうになったのがトラウマになってるのだったら、気持ちはわかるけど・・・。」


「うっ・・・。」


 正直なところ単に人と話すのが怖いだけなんだ。そもそものところ今こうしてこの子と会話をしてること自体が俺の引きこもり生活のおいての快挙だし、加えて女の子だし。

 それに加えて初対面の人に物事を尋ねるだって?異世界さんハードル上げすぎよほんと。この一年間激しいコミ障坂を全力で駆け上っていったのがこの俺だ。母親でさえ一言も話さなくなった俺にそんなことが出来るとでも?

 聴衆の笑いものになっちゃうよ。


「初対面の人と話すの、怖いんだもん。」


「・・・子どもか。」


 相変わらずの無表情が少しだけ変わったかのように見えた。さすがの少女も落胆してしまったんだろう。自分の不甲斐なさが身にして感じるよ。


「初めて人にツッコまれた⁉君は俺の初めてをことごとく奪ってしまうんだな。なんて罪深き少女なんだ。」


「・・・別に私は、そんなつもりはない。健全で優しい少女。」


「ほんとかよ。」


 言って内心笑みをこぼした。

 で、結局これからどうするのか。これが今与えられている状況だ。聞いた話、音楽では付属和音から主和音へと移ることを『解決する』って言うけど、写真に写る少年の件を解決するには属和音という前置きが必要なんだろか。

 要するに俺が言いたいのは、今この状況を打破するというよりか、あえて今この時間を満喫するのが得策なのかもしれない。彼女とわけもわからず会話を楽しむのもいいしこの石橋から美しい風景を眺めるのもいい。

 あえて、この状況を楽しんで人探しにおいてのモチベーションを上げることにしよう。随分とめちゃくちゃな言い分だけど、俺が言いたいことはそういうことだ。

 主和音という本題の前には今の時間みたいなものが必要なのかもしれない。


「俺の中でいろいろ考えたけど、もうちょっとだけここにいようか。その方がいいと思うんだよな。君だって無駄に労力は使いたくないだろ?」


「労力・・・それは使いたくない。だったら、あなたの言うように、もう少しだけここにいる。」 


 彼女はそう言ってお腹をさする。


「お腹もすいてきたし。」


「まだ食うのかよ⁉。君の胃は四次元ポケットかなんかなのか⁉」


 驚き半面に期待が半面。

 彼女といることは楽しいし、幸せそうに食事を楽しむ彼女はものすごくかわいいし。

 そんなことを思いながらふと頭を何かがよぎった。それは俺にとってとても大切なもので、これからの俺の行動の展開においても必要なものだった。


「そういえば、お互い名前を聞いてなかったな。自己紹介とか最初会ったときはしてる暇なんてなかったしな。」


「・・・そういえば、そうだね。」


 俺は『では』と言いつつ、こほんと咳払いをして天を指さしてポーズ。その時の空と言えば青一色の快晴だった。


「俺の名前はイツキ・ミゾラ!名前の通り空のように美しく寛大な心を持ち、空を羽ばたく不死鳥のように可憐な姿を持った男だ!よろしくな。」


「どこからツッコめばいい・・・?」


「どこにツッコむ要素が⁉」


 そのまま彼女は嘆息して、質問を並べた。俺の疑問は当然ながらほっとかれて。


「・・・このあたりじゃまず聞かない名前。髪の色も黒いし、あと瞳の色も。服装だって、初めて見る・・・。どこから来た人?」


「もちろん俺は生まれも育ちも日本だぜ。ニートに厳しくおまけに引きこもりにも厳しい場所だ。」


 あえてここはマジのやつを言うことにした。俺はテンプレなんかに縛られない独創的な男だからな!


「ニッポン・・・?初めて聞く地名。カグデラからはどれくらいの近さなんだろう・・・。」


「カグデラ・・・ってここのことなのか?それなら日本はここからずーと先の場所にあるかもしれないし案外近いかもしれない。そこんところは俺も曖昧だからあまり信用してほしくはないけど。」


 耳にした四文字の言葉を頭で転がす。カグデラっていうのはここの国の名前なのかそれとも地名なのか、とりあえずここの言語はカグデラ語ということにしておこう。我ながらネーミングセンスは皆無だけど。


「カグデラは国の名前。今いるのは王都。つまり・・・ここはかなり国の中でも栄えてる場所でもあり、貴族や衛兵が多い場所。」


「それだけ聞くと俺はとんでもないところにほっぽりだせれたわけだ。『米がないのならパンを食べればいいじゃない』っていう言葉が流行してそうな雰囲気が今さら伝わってきてる気がする。」


 王都と言えば日本でいう東京みたいなものか。まぁ、ここでいう王都っていうのは東京みたいにオタクの聖地や経済の核とか、それだけじゃとどまりきらない情報や物がある場所だ。

 はっきり言って引きこもりゲーマにとって最も過酷な場所。衛兵もいるとか言うしそれもなおさら怖いよね。本来市民を守る正義の味方も俺みたいな服装かつ髪色をしているやつには冷たそうだし。それが異世界物のテンプレみたいなもんだろう。


「王都は場違いな気がするぜ。他に何か町がないのか?」


「王都からはすぐに上都であるシンライ、中都のコウリョ、あとは貧民街のクバラ。こんな感じだけど・・・そっちの方にも行ってみる?」


「そうだな・・・。行くとしたら貧民街もまた場違いな気もする。中都の、コウリョだっけ?そこに行ってみるのはどうだ?」


 貧民街と言えば思いつくのはスラムだ。小学校や中学校で社会の時間に写真で見にしたことがあるけど、言いにくいが今ここにいる王都とは真逆の世界観だ。暗く汚い街並みに愛想の悪そうな住民たち。

 かわいそうだなって思ったのが第一印象だった。そんなところに行くとなると俺はその場の空気に耐えれそうにないので行く気にはなれなかった。


「じゃあ・・・コウリョに行こう。その前に何か食べて。」


「ほいほい。」


 彼女の暴食ぶりは相変わらずのようだ。呆れるというか聞き慣れたというかそんな感じになった。それ故の返事だった。


「もちろん行くにしても君の背中にバッチリとひっついていくけどね。背後霊のように!」


「・・・できれば守護霊をやって。」


 彼女から鋭いツッコみを入れられ心なしか気分もよくなった。声は小さいけど俺の類まれたボケに対してしっかりとツッコんでくれる。将来は漫才師として活躍していけそうな気もするぜ。ま、異世界なんでねここ。漫才師になる以前にその職業があるのかどうかもわかんないしね。


「まぁ、これからよろしくだわ。結局言いたいことはそれぐらいかな。それで、君の名前は?」


 茶目っ気混じりの問いかけに彼女は少し視線を落として沈黙。さっきまで堂々とツッコみをしてくれた彼女の姿は全く目に見えない。その態度に『もしかしてほんとは名乗りたくないやつ?』と内心焦る。

 まぁ、たしかにこんな男じゃ名乗りたくもないわな。かっこ悪いところ見せちゃったし、聞き取りの方も彼女に任せっきりだし。

 弱腰になりかけていた俺は女の子のただのお荷物なんじゃないかと思い、遺憾という感情で心がいっぱいになりかけた。その時だった。


「ーーアスナロ。」


「・・・・⁉」


 不意の少女の呟きに俺はついつい驚いてしまう。プラスして彼女から聞こえた名前も。

 そんな俺に対して彼女はもう一度無表情に


「アスナロ、それが私の名前。」


『やっぱりか』そんな言葉が浮かんだ。なぜカタカナ表記なのかはさておき、今ここにいる彼女は間違いなく翌檜美晴だ。オズが言っていたようにここは本当にギャルゲの世界のようだ。

 そしてもう一つ確定したこと。それは俺が攻略すべき相手がこの子だっていうこと。メモリアルガールズで一番好きなヒロインを三次元で恋に落とすっていうのはめちゃくちゃ無茶ぶりだけど、俄然俺の心の火は難易度の高い相手程燃え上がる。楽しくなってきたじゃねぇか!


「やっぱりか。」


 笑みを浮かべながら彼女の顔を見据える。


「・・・やっぱりって、なに?」


 疑問を問われ、俺は首を横に振って


「いいや。別に何でもないよ。」

 

 アスナロ。彼女は俺にそう自分の名前を言った。

 『可愛い』の一点張りだった。

 腰まで届く長い白色の髪に、澄み渡る瞳がこちらを見据えている。一見クールな見た目はまるで錆び付いた鉄のようで、それでもどこか可愛らしい面差しと美しさが混合していた。

 身長は百六十センチもないほど小柄で華奢な体つき。黒や灰色などをベースとした服装と羽織ものは華美な装飾はなく逆に言えば少し貧相な感じも匂った。ゆういつ目立ったのは彼女の首にかかる一つのペンダントだった。それは金色の光沢に高価さを感じさせる。だが、そんなものさえただの添えものに過ぎなかった。


 服装こそ違うが彼女はあの子だ。俺が最後に攻略するはずだった翌檜美晴だ。それを今から現実世界で落とす。

 確かに翌檜はアスナロだ。それ以前に


「君にもやっぱり似てるな、ほんと。」


 澄み渡る青空、一人の顔が脳裏に浮かびながら俺はアスナロに『ふんじゃあ、何が食べたい?』と笑いながら言った。

 アスナロはうれしそうな表情を浮かべて『さっき落としちゃったやつ』と言うのだった。


少し日が開いてしまいました。予定としては、三日に一回更新できたらいいなと思ってます。

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