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第34話 商業都市ラメア

今話は少し文字数が多くなってしまいましたが、話しはあまり進んでないです、はい。

 

 とりあえず、ゴブリンロードをアイテムボックスへと仕舞い、奥の部屋へ行く。

 そして、そこに並べられていた人間(女)を火の魔法を用いて火葬した。


 そこは、とにかく悲惨だった。

 一目で死んでいるとわかる女性が全裸で地面に並べられていて、辺りを強烈な異臭が包んでいた。

 地面に落ちていたギルドカードや身分証を拾い、アイテムボックスへ入れておく。


「ゴブリンは倒しましたので、安らかに眠ってください」


 僕は手を合わせて、黙祷を捧げた。





「サーシャ。どう?」


 戻ってリオラの様子を伺うと、いくらかマシな顔つきになっていた。

 だが意識はなく、たまにうなされているようだ。


「ちょっとは顔色良くなった」

「そっか……よし。とりあえず、ここを出よう。リオラは僕が担ぐよ」



 リオラをおんぶして歩き洞窟を出た後、リーザたちの元へ戻った。


「おまたせ。なんとか間に合ったよ。でも、心はどうかわかんないな」

「そっかぁ。リラックスは掛けたの?」

「うん。それでも少し落ち着けるぐらいだからね。今後しっかりケアできるかが大切だと思う」

「私がずっと一緒にいてケアする、から平気」


 じゃあ、リオラはサーシャに任せるかな。

 あの洞窟の件と、この奴隷商人の件を報告しないといけないようなので、ラメアに着いたらギルドと衛兵の詰所に向かうことになる。

 衛兵というのが街の警察官みたいなものらしい。



 僕が考えなしに馬車を両断してしまったせいで、徒歩でラメアへ向かっている。

 奴隷商人──ザブンとかいうらしい、は縄で縛って引き摺っている。

 僕たちが洞窟に行っている間に目を覚ましたらしいが、エンリに再び気絶させられたみたい。

「私に手を出したらサーシャの首輪を縮める!」とか言ってたみたいなので自業自得だ。


 因みに、サーシャに着いていた隷属の首輪は、試しにマジックアウトを使ってみたら、ただの首輪と化してあっさり外れた。

 この魔法は、簡単に言うと様々な魔法を弾き飛ばすものだ。アイテムに付与されている魔法も例外ではない。

 リークの呪いもこれで解除できたし、結構汎用性のある魔法のようだ。


 そんなことをのんびり思いつつ、皆で話ながら30分弱歩いていると、街の外壁が見えてきた。

 帝都に比べたら小さいけど、それでも高さは全然見劣りしない。


「あれが商業都市ラメアの外壁みたいですね。ワイバーンの巣が出来やすい山が近くにあるらしく、比較的高く造られているようですよ」


 そんないつものエンリの説明を聞きつつ、門の前にできている行列に並ぶ。

 商業都市として有名なこの街には、堪えず商人や旅人がやってくるんだとか。

 外壁門の前にいるそれなりの装備をした者たちが、忙しなく動いてチェックしてから中に入れている。


 10分程待っていると、僕たちの番がやってきた。



「この街にはどんな用事で?」


 背中に槍を携えている門番のおじさんが聞いてくる。

 こういう場所では形式的な質問だ。

 つい「サイトシィーング」とか言いそうになったが我慢する。


「人に会いに行く途中で寄らせてもらったよ。半分旅みたいなものかな」


 正直に話す。茜に会いに行くことは別に隠すことではないし。

 できればここで、再び長距離の転移ができるまで魔力を溜めたいところだ。


「そうか。じゃあ、全員身分証を提示してくれ。なければ入町料として銀貨2枚だ」

「うん。これでいい?」


 彼女たちの分と僕のギルドカード4枚を渡す。


「なんだ。お前さんら冒険者か……ん!?なんだそれは!」


 僕がずっと引き摺っていたザブンを見つけて、おじさんは凄い剣幕で問いただしてきた。

 実は並んでいる間も、前後の人たちにヒソヒソ話をされていたのだが黙殺していた。


「あっ、これは犯罪者。この子のことを無理矢理奴隷にしたんだよ。…違法奴隷化っていう罪状があるんでしょ?」


 おじさんに説明しながら、後ろにいるエンリに問いかける。


「はい。この国での違法奴隷化は、極めて重罪です。最低でも鉱山奴隷でしょう。因みにこの場合は、犯罪者の入町料金は不要です。まぁ、この男は商業ギルドカードを持っていたので身分証にはなりますが」

「だそうだよ」

「なんとッ!もしや"疾風の三角形"の。それにこの男、ザブンではないか。ん?首輪が無い所を見ると、奴隷術を刻まれたか?」


 どうやらこのおじさんはサーシャのこともザブンのことも知っていたらしい。

 サーシャはコクリと頷いている。

 ザブンの方は、呼び捨てだし苦々しい表情をしている所を見れば、あまり良く思われていないことは明白だ。


 それから、このおじさんが言うように奴隷化には2通りの方法がある。

 隷属の首輪を着けて強制的に奴隷にする方法。

 もうひとつが、奴隷術という特殊なスキルを用いて奴隷にする方法だ。ただし、この場合には対象者の合意が必要な為、無理矢理にはできない。

 まぁ、脅せばあまり意味はないけどね。


「いや、首輪をつけられたよ。これが、その首輪。方法は言えないけど既に外した」


 そう言って、アイテムボックスから隷属の首輪を取り出す。


「ふむ。それは凄いな……今、どこから出した?」

「アイテムボックスだよ、時空属性の──」

「あっ、ケイ様!それは隠しておいたほうがいいです!」

「そうなの?でも……」

「これは驚いたな、アイテムボックスとは。お前さん、Fランクなのにやるじゃないか。あぁ、お嬢さん、心配しなさんな。俺は聞かなかったことにしておいてやるよ」


 どうやらアイテムボックスは隠しておいた方が良いらしい。

 なんでも、希少性が高い上に有用すぎて、知られれば余計なトラブルがやってくるんだとか。

 それ、先に言っておいてほしかったよね。

 このおじさんは優しそうだからたぶん大丈夫だとは思う。信用はしていないけど。


「よければ、ザブンは俺のほうから衛兵に引き渡しておいてもいいぞ。これは連中が喜びそうなニュースだからな」


 と、おじさんが言うのでお言葉に甘えてザブンを預ける。

 なんで喜ぶのかよくわからないけど、既にこの件はどうでもいい。

 因みに、あの黒ずくめの殺し屋や護衛の人たちは放置してきた。

 めんどくさかったからあえて触れないでおいた。

 リーザたちも特に何も言ってこなかったし。まぁ、結果だけ見れば何もされてないしね。



「よし。行っていいぞ。ザブンは俺が責任を持って引き渡しておく」

「うん、ありがと。じゃあ」


 おじさんに軽く手をふって別れると、サーシャの案内で冒険者ギルドを目指す。









 ◆◆◆◆◆



 賑やかな商店が並ぶ大通りを抜けて少し東に行った所に、冒険者ギルドはあった。

 こちらも外壁の傍に建っていて、東門から入った方が近い場所にある。

 この街の門は東西南北4つにあり、十字の大通りにそれぞれ繋がっている。

 この街の冒険者ギルドは、帝都程ではないにしても、それなりの規模で威光を放っていた。


 僕、リーザ、リオラをおぶっているサーシャ、エンリの順で冒険者ギルドに入っていく。

 中は、もう夕方とあって人で溢れていた。

 帝都のギルドに入った時も夕方で、いつも時間を間違えている気がするが、それは割り切るしかない。


 それなりの数いる為、一々入ってきた者を見ないのが大半だが、それでも何人かは値踏みするように視線を向けてきている。

 そして、サーシャとリオラに視線が移ると、困惑の表情を見せる。

 今が旬の"疾風の三角形"だが、いつものメンバーではないからだ。おまけに、リオラはサーシャの背中で寝ている(ように見える)。

 何人かの冒険者は、その一団が気になるのか、視線を外そうとせずに注視していた。



「とりあえず、並べばいいよね?」

「うん。一応、ギルドマスターに話した方がいいかな?エンリ」

「そうですね。ですが、Fランクでは取り次いで貰えないので、まずは受付で話すしかないと思いますよ。Bランクのサーシャさんでも厳しいと思います」


 だそうです。

 エンリが付いてきてくれて、ホント助かったよ。

 いや、もちろんリーザもね。癒し要員として。

 僕ひとりだったら、どうなっていたかわからない。

 たぶん全てを無視して、茜がいると思われるフィーリア王国へ行っていたと思う。

 睡眠も食事も面倒な手続きも──。



 僕たちは最も列を作っていた所に並び、しかしすぐに自分の番になった。

 一番早く列を捌いていた受付嬢だ。

 明るい黄色の髪をポニーテールにしている美人さんで、如何にもデキるオーラを漂わせている。


「ようこそ、当ギルドへ。……何か重要なお話でしょうか?」


 僕たちの顔を一通り見た受付嬢が、いきなりそんなことを言ってくる。

 普通は依頼か登録かと聞いてくるのに、それを省いて直球で聞いてきた。

 その観察眼に、僕は密かに舌を巻いた。

 マニュアル通りにならない柔軟な対応も僕好みだ。


「うん、彼女たちが受けた依頼のことで。ここで話せばいいのかな?」


 そう聞くと、受付嬢はサーシャとリオラをチラッと見る。


「時間がかかりそうですね。ここでは何なので奥の応接室で話を聞きましょう。ユミ!少しの間、ここをお願い」

「あっ、は~い!」


 後ろで別の作業をしていた他の受付嬢に受付を頼むと、僕たちを奥の部屋へ案内する。



 室内はそれほど広くはなく、3人掛けのソファがふたつ向かい合う形であり、間にローテーブルが置いてあるだけの簡素な応接室だった。


 奥のソファに、リオラ(肘掛けに頭を置いて寝かせている)とサーシャ、リーザが座り、その背後にはエンリが立っている。

 僕?僕はリオラの横に立っている。

 基本的にはサーシャが説明するので、僕は外野要員である。

 そして、デキる受付嬢は反対にあるドア側のソファに座った。


「それでは話を聞きましょうか。サーシャさんは知っていると思いますが、私は当ギルドのチーフを務めていますアンナと申します。以後、お見知りおき下さい。……つかぬことをお伺いしますが、あなたはどちらかの貴族様のご息女でしょうか?」


 受付嬢──アンナは、自己紹介をするとリーザに目線を合わせ唐突にそう聞いてきた。

 これには、リーザも驚いているようだ。

 今の服装は、どこにでも居そうな街娘のファッションだ。

 とても貴族の令嬢を連想させるような姿はしていないし、立ち居振舞いも結構抑えられている。

 後ろに控えているエンリが普通にメイド服(帝都皇宮のものではない)を着ているが、それだって貴族でなくとも富裕層ならメイドぐらいいるから理由にはならない。

 チラッと見たけど、鑑定系のスキルはもっていなかった。

 つまりは、この人の"人を見る目"は凄いということだ。


「秘密よ。それに、今は他に聞くべきことがあるんじゃないの?」


 一瞬だけ驚きを顔に張り付けたリーザだが、すぐに話題修正を図る。


「そうですね。では、サーシャさん。たしか、依頼は洞窟に巣食っているゴブリンの討伐でしたね。──今のリオラさんと、ここにはいないユアンさんのことも含めて、何があったか話して頂けますか?」

「うん。あの洞窟には───」


 サーシャがこの街を出てから戻ってくるまでの出来事を時系列でたどたどしく話していく。

 それを聞いている途中でアンナの眉間にはどんどん皺が寄り、サーシャの話が終わると、前にあるローテーブルよりも頭を低く下げた。


「サーシャさん。……申し訳ありませんでしたッ!」


 室内に、アンナの悲痛な謝罪が反響した。







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