第13話 ダークエルフ
俺たちの前に現れたアンネスと名乗った女は、只ならぬ雰囲気を纏っていた。
「ダークエルフッ!?」
「なッ!エルフ風情が邪魔するな!」
「いや、こいつ、魔王の側近とか言ったぞ?」
「魔王の側近だとっ!ぶっ殺す!」
そう言って、早速突撃しようとするロイドの首根っこを掴みつつ、俺は相手の強さを分析する。
ダークエルフねぇ。
エルフってのは、元々魔法に適正を持ってる奴等だ。
それが大きな憎悪を持ったり、悪に染まるとダークエルフっつう種族になる。
こりゃあ、普通のエルフよりもたちがわりぃ。
闇属性の適正を取得し魔力も跳ね上がるし、寿命もエルフの倍近く伸びる。
これだけメリットがあると、世のエルフたちは皆悪に堕ちてるかも知れねえ。
だがそうならないのは、大きなデメリットがあるからだ。
こいつらは感情の抑制が破綻し、頭のネジがどこか外れてやがる。
謂わば、暴走ロボットだ。
一度壊れると手がつけられず、暴れまわる準魔族扱いだ。
だが、知能はそのままだからたちがわりぃんだ。
それに、強い魔法を使える奴ってのは、たったひとりで戦況を覆す力がある。
普通のダークエルフだったらどうとでもなるが、こいつからはヤバいオーラをビンビン感じる。
こんなんが出てくるんだったら、無理矢理坊主を連れてくるべきだったかもしれねぇが、それは後の祭りだ。
接近戦を得意とする俺とじゃ、この間合いは相性もわりぃしな。
ここは───。
「カイルのじいさん!いるか?」
俺が後ろへ呼び掛けると、灰色のローブを着た男──カイルがブラッドホーンから降りてこっちにやって来た。
あの一件からかなり落ち込んでいたが、立ち直ったようだ。
「ここにいる!ありゃヤバいぞっ、アシッド!魔力が尋常じゃない。儂の魔力鑑定がエラーを起こしたぞ!」
「そこまでか。ここには、ほんの遊びのつもりで来たんだがな!仕方ねえ、カイル!奴を倒す!俺の援護を頼む!」
「心得た!」
まさか、これ程とはな。
カイルの魔力鑑定スキルは[Lv.3]のはず。
それがエラーを起こすということは、異常な魔力を検知したってことか。
「お前らは、遠回りしてミザイアへ先に行け!この女は、俺とカイルが相手する!」
俺がそう言うと、ロイドを筆頭にミザイアへ向かう騎士たち。
「ふふふ。行かせると思って?」
迂回しながらミザイアへ行く騎士たちに向かって、アンネスは薄い笑みを溢しながら手の平を向ける。
「ゴミはゴミらしく散りなさいな。ロックショック」
彼女が最後の言葉を発すると、電気を帯びた無数の小石が、騎士たち目掛けて飛来する。
雷属性を纏った石だ。その貫通力は凄まじい。
人間に当たれば数人まとめて貫く威力だ。
「土と雷の複合魔法だとっ!カイルッ!」
「分かっとる!ウォーターカーテン!」
一瞬にして、地面から大量の水が吹き出し無数の石を阻んだ。
魔力を過剰に注ぎ込んで放ったカイルの魔法だ。
だが、間に合わなかった少しの石が数人の騎士とブラッドホーンの体を貫いた。
「ぐわっ!」
「ウッ!」
「グッ!あ、あぐッ」
「ヒイイイィィィィィン!」
暗闇で石が見えにくい為、もろに直撃してやがる。
だが、致命傷にはなってねぇな?
このままじゃ、やべえ!
「ロイド!後ろを振り向かず全力で行け!」
俺は大声でロイドに騎士たちを託す。
あいつも皇子だ。頼むぜっ、将来の騎士団長!
「あら。よく防いだわね。それじゃあ次は」
そう言ったアンネスは、走り去る騎士たちの背中へ再び手の平を向ける。
「ふん!余裕こいてると死ぬぜ!」
俺は風の移動魔法を発動すると、アンネスの背後をとり剣を振り下ろす。
反応が遅い!近付けばこっちの──。
「あら、何をしたいのかしら?」
ぐっ、剣が届かねえ。
まさかこいつは、風の網を張り巡らせて相手の動きを封じる風網魔法、ウィンドネットか!
それにしても、なんだこの拘束力は……とてもダークエルフの魔力じゃねぇ!
「ふふ。死になさい」
「ロックブラスト!」
アンネスよりも一歩早くカイルが唱えた土属性の魔法が、アンネス目掛けて飛んでくる。
俺はなんとか風の網を断ち切り、寸での所でそれを躱すと、無数の尖った岩がアンネスに殺到する。
ドドドドドドドドドドドンッ!!
「やったか!?」
「いや、あれぐらいで死ぬなら苦労はないぜ」
徐々に砂埃が晴れ、視界が鮮明になったそこには、誰もいなかった……。
「ん?どこ行きやがった?カイル!」
「うむ。……探知を使っても反応がない。突然、消えたのか?」
「いったいどうなってやがんだ?」
「わからぬな。だが、いなくなったものは仕方ない。ロイド様たちを追おう、アシッド」
「……ああ、そうだな」
◆◆◆◆◆
「ふふ。この程度……あら?」
魔王アゼルヴァイスの側近アンネスは、無謀にも攻撃をしてくる2匹のゴミを掃除しようと思ったら、視界がガラッと変わっていた。
そこは、暗黒の部屋と呼んでもいいほどの漆黒が支配する巨大な空間だった。
「いつまで遊んでいるのだ、アンネス。既にあの街にいた、奴らの魂は奪った。これ以上、帝国を刺激するとあれが出てくる。そうなれば、お前でも拙いだろう?」
アンネスの正面、高い所にある豪華絢爛な椅子に座っている男がそう話しかけた。
「アゼルヴァイス様。魔力を大量に消耗する転移の魔法を使って頂いたのですね。ありがとうございます。ですが、今の私ならばあれが来ても"美氷"が来ても問題ありません」
ここは、大陸の最北にある魔族たちの支配領域『魔界』。
その南地方を支配する炎怒の魔王アゼルヴァイス。
数百年の時を生き、常に人類と敵対してきた五災魔王の一角。
頭から2本の角を生やし、全身が赤黒い大男だ。
五災魔王の中では新参だが、高い能力を持ち瞬く間に当時の魔王を屠り、その地位に就いた。
「フフ、これで最古の悪魔復活にまた一歩近付いた。アンネス、お前の目的も同時に順調だな」
「はい。これでまた、薄汚いエルフが数を減らしました。エルフの滅びのときは近いわ。うふふふ」
この世界を震撼させるほどの計画を口にするふたり。
だが、このふたりはまだ知らない。
今日この世界に、あらゆる『邪魔』を蹴散らす少年がやって来たことを。
次は、慧視点に戻ります。
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