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気づかれたくて、気づかれたくない

本人は普通に生きているつもりですが、

周囲はなぜか放っておいてくれません。


無自覚に刺さる系です。

 受付カウンター。


「……」


 黒木彩花は、書類に目を落としたまま、ペンを動かしていた。


 手は動いている。

 だが、意識はどこか遠い。


(……なんで)


(なんで、あの人のことばっかり思い出すのよ)


 昨日の夜。

 ほんの短いやり取り。


 無愛想で、そっけなくて。

 なのに――


(……なんであんなに、落ち着くのよ)


「彩花先輩?」


 隣から声がかかる。


「え?」


「大丈夫ですか?」


「あ、うん。大丈夫」


 慌てて笑ってみせる。


(集中しなさいよ、私)


 小さく頭を振る。


 そのとき。


「……やっぱり」


 落ち着いた声。


 振り向くと、真壁が立っていた。


「上の空ね」


「……そんなことないけど」


「あるわ」


 即答だった。


「同じところ、三回見てた」


「……」


 言い返せない。


「何かあった?」


 逃げ場のない問い。


「……別に」


 短く返す。


 でも――


 胸の奥が、わずかに熱を持っていた。


「……ふーん」


 真壁が目を細める。


「その顔、何かあるわね」


「ないってば」


 少しだけ強く言う。


 だが、隠せていないのは自分でも分かっていた。


「……彩花」


「なに?」


「今晩、空いてる?」


「……え?」


「飲みに行きましょう」


「暇だけど……急ね」


「たまにはいいでしょ」


 淡々としているが、どこか探るような気配がある。


「……まあ、いいけど」


 小さく頷いた。


 ◇


 夜。


 二人は会社を出て、街を歩いていた。


「で?」


 真壁が横目で見る。


「何があったの?」


「……だから、何もないって」


「嘘」


 即答だった。


「分かりやすすぎ」


「……」


 言葉が詰まる。


「その“原因”、どんな人?」


「……」


 一瞬だけ迷う。


 でも。


「……別に」


 視線を逸らす。


 そのときだった。


「……あれ、ウチの現場よね」


 真壁が足を止める。


「どうしたの?」


「前」


 視線の先。


 灯りのついた場所。


 そして――


 一人、黙々と作業している男。


「……」


 彩花の鼓動が、少しだけ速くなる。


(……いる)


 あの人だ。


「……知り合い?」


「……うん」


 小さく答える。


「……ふーん」


 真壁の目が細くなる。


「行く?」


「……え?」


「気になるんでしょ」


「……別に」


「嘘」


 また即答だった。


「顔に出てる」


「……」


 否定できない。


 気づけば。


 足はもう、そちらへ向いていた。


(……なんで行ってるのよ、私)


 分からない。


 でも、止まらない。


 ◇


 近づくと、岩田が作業をしていた。


 無駄のない動き。

 必要なことだけを、淡々と。


 そのとき。


「……あ」


 岩田が顔を上げる。


 視線が合う。


「……あ」


 彩花の足が止まる。


「……こんばんは」


「ああ」


 短く返す。


 それだけなのに、なぜか安心する。


「……あなたが」


 横から真壁の声。


「彩花の“原因”の人ね」


「……」


 空気が変わる。


「……何の話だ」


「とぼけないで」


 真壁が一歩踏み出す。


「彼女、変わったのよ」


「……」


「あなたに会ってからよね?」


 鋭い視線。


 だが。


 岩田はほんの一瞬だけ間を置いた。


「……知らないな」


 視線を外す。


「俺は何もしてない」


 あっさりとした否定。


 それなのに――


(嘘じゃない)


 そう思えてしまう。


 そのとき。


「……あ」


 岩田がふと声を出す。


「前髪、切った?」


「……え?」


 思考が止まる。


「少しだけ」


「このあたり、軽くなってる」


「……」


(やっぱり、この人だけ)


「……似合ってる」


 さらりと、言う。


「……っ」


 顔が一気に熱くなる。


 何も言えない。


 横で。


「……なるほど」


 真壁が小さく呟く。


(これは、変わるわね)


 そして。


(この人……何者?)


 評価が、確実に変わる。


 一方で。


(……なんでこんなに恥ずかしいのよ)


 彩花は、それどころではなかった。


 そのとき。


「……それと」


 岩田が真壁を見る。


「……?」


「髪」


「……え?」


「少し傷んでるな」


 淡々とした口調。


「毛先、乾燥してる」


「……」


 真壁の表情が止まる。


「トリートメント、変えた方がいい」


「……」


(なんで分かるの……?)


 自覚はあった。


 でも、誰にも言われたことはない。


「……具体的には?」


 気づけば、聞いていた。


「保湿重視」


「乾かす前にオイル」


「……」


 それだけなのに。


(……的確すぎる)


 真壁の中で、何かが変わる。


「……分かりました」


 小さく頷く。


「ああ」


 興味なさそうに返す。


 一方で。


(……なんで真壁さんまで)


 彩花は、少しだけ複雑な気持ちになっていた。


読んでいただきありがとうございます。


本人はただ見えてることを言ってるだけなんですが、

なぜか周りが勝手に評価していきます。


このあともじわじわ崩れていく予定です。


引き続きよろしくお願いします。

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