最終話 さぁ、私の復讐を受けてもらいましょう
婚約式の日、私のために、遠い自国から皇帝レギオスが来てくれることになった。私は、その知らせに驚きはしたが、王女である私の立場を尊重してくれた訪問であることに嬉しく感じた。
「ようこそ、レギオス陛下」
「堅苦しい挨拶はなしでいいだろう。じきに妻となるのだから」
「そうですけど……、今日は、婚約式ですので」
婚約式の前に面会を申し出てきたレギオスに私は会った。初対面のはずのレギオスなのに、どこか懐かしさを感じ、皇帝とは思えないほど気安い話し方に私は驚いた。
「初対面ではないのだから、畏まる必要もない。あぁ、まさか、本当に王位継承のあるルーナ姫と結婚できる日が来るとは考えもしなかった。王の娘との結婚とは言われていたが……、もう一人の方だと思っていたからな」
「そうでしたの? 私たち、どこかで……」
「幼い頃、この国の王妃……、ルーナ姫の母とともに、盗賊に襲われた日のことを覚えていないか?」
私は、レギオスに言われたことを思い出した。そう、あれは、盗賊に襲われた私を母が庇って亡くなった日のことだ。危機一髪で私が助かったのは、とても強い青年が数人の従者と共に、盗賊と戦ってくれたからだ。
「あのときの方だったのですか?」
「思い出したか」
「えぇ、確かに。あのときは、お礼も言えず……」
「母を亡くしたことや盗賊に襲われたことで、とても取り乱していたからな。そんなことは、構わない。それよりも、こうして、縁を結べたことの方が、何より俺は嬉しい」
王位継承権を持つ私が、本来なら他国へ嫁ぐことはない。ただ、今回、王位を継ぐ意思がないことを示したことで、レギオスへ……隣国へ嫁ぐことが可能となったのだ。どうやら、レギオス自身が、私との婚姻を望んでくれていたようで、わざわざ婚約式へ参加してくれた。
「陛下、そろそろ」と侍従に声をかけられ、私たちは婚約式の会場で会う約束をし、レギオスはその場を後にした。私もすぐにでも準備にかからなければ、間に合いそうにないので、ハンナが後ろでそわそわと落ち着かない様子で窺っていたことに気づいてはいた。
◇
「私、第一王女ルーナは、隣国のレギオス陛下に嫁ぐことになりました。王位継承権を次なる王位にふさわしい人物へ譲りたく考えております。どうか、陛下に置かれましては、聞き入れていただきたくお願いいたします」
「あい、わかった」
私の婚約者として、当然のようにエリオットが選ばれるだろうとこの大広間にいる貴族のほとんどが考えていただろう。そのために、エリオットは教育をされ、爵位まで与えられていたのだから。
王が私を隣国へ嫁がせると言った瞬間の貴族たちのざわめきは、見事なものだった。その中で、平然としていたのは、先に話を聞いていたエリオットとユウリ、王妃と婚約の同意の意味を込め私の手の甲にキスをしたレギオスだけだった。
……さぁ、今こそ、私の復讐を受けてもらいましょう。前世で私の愛を踏みにじったあなた方には、それ相応の罰が必要ですもの。
私は、死に戻る前に見た火葬前のユウリの腹部のことを思い出した。ユウリは、嫁ぐ前に、エリオットと関係を結び、腹に子がいたのだ。そのことに激怒したレギオスは、躊躇なくユウリを殺した。お互いが望まぬ婚姻だったため、レギオスは、ユウリを手にかけることを厭わなかった。ユウリとエリオットの恋のために、何の罪もない私の愛すべき国民を両国の戦争に巻き込んだことへの復讐でもあった。
「先にもう一人の姫であるユウリの婚約を発表する」
そう言って、満面の笑みでユウリは前に出ていく。エリオットとの婚約を発表され、二人が手を取り合い喜んでいるのを私は冷めた目で見つめていた。
「さて、エリオットは、王位継承権を持つルーナの専属護衛騎士であったが、このたびの婚約で、ルーナは隣国へと向かう。ルーナの専属護衛騎士の任を解くゆえ、今までご苦労であった。褒美として、ユウリとの婚約を許可する」
「ありがたきお言葉」
「次に、ルーナの専属騎士でなくなったエリオットは、騎士の身分を剥奪。貴族同等の身分も喪失することになる」
「……えっ? 陛下、それは、どういう意味でしょうか?」
「そのままの意味だが? 前王妃に聞いておらぬか? ルーナの護衛のためだけに引き取られたと。もちろん、本来の騎士としての身分はない」
エリオットとユウリはお互いの顔を見合わせ、何が起こっているのかわからないという表情だ。
「ユウリに関しては、王より長年ルーナに仕えてくれたエリオットに婚約という形で下賜することとなったため、エリオットと同じく、ユウリの身分も平民となり、この王都から追放することとする」
「陛下!」
「なんだ? 王妃。そなたも、エリオットとの婚約を喜んでいたではないか」
「こんな仕打ち、誰が喜びますか! ユウリの婚約破棄を申し出ますわ!」
「これは、決定事項だ。覆ることはない。そなた、余に次の言葉を言わせたいのか?」
「それは……」
王妃は唇を噛み締め、それ以上の言葉は、出てこない。王妃から、再び、ユウリたちへと視線を向ける父の目は冷めたものたった。
「ユウリ自身が望み、私に申し出たことでもある」
「……そんな、お父様! 私を平民にするなんて! あんまりです!」
「ユウリが望んだことだ。幸せになるんだぞ?」
「お父様! 何とかしなさいよ! エリオット」
「ユウリこそ!」
王の侍従長がパンパンと手を叩いた瞬間には、大勢の貴族の中、罵り合うエリオットとユウリは、この場にふさわしくないと、衛兵たちに引きずられるように大広間から出され、城から追い出されていく。王妃だけは、この婚約に抗議を始めたが、「決定事項に逆らうでない!」と王に一括され、その場に崩れ落ちた。
「陛下、私から、王位継承権を持つ、私の弟をみなに紹介してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼む」
私が、「シーザー」と名を呼ぶと、私によく似た少年が駆けてきた。シーザー母子とは、今までは交流を持っていなかったが、私の婚約を機に後ろ盾となる約束をした。父ともすでに話をしていたため、すんなりと、その場で、王位継承権が移ることに異を唱える者はいなかった。
「……この策略は、あなたが考えたのか?」
「策略だなんて。私は、ただ、この国を任せられる者を父に紹介しただけにすぎませんわ。私とシーザーは、半分だけですが、姉弟ですもの」
私は、隣に佇むレギオスの腕に自身の腕を絡ませた。その様子を見た公爵……、シーザーの叔父が、「ルーナ姫様、ご婚約おめでとうございます。何時何時までもお幸せに!」と声を上げたので、他の貴族たちも、私の婚約を祝福してくれた。
噂では、戦争狂いの皇帝と言われていたレギオスだったが、実際、話してみると、噂話などあてにならないことがわかった。父もそれを知り、この婚約を喜んでくれた。
それから1年後、私とレギオスは結婚し、子にも恵まれ、ときおりケンカすることもあるが夫婦仲もよく、国民が羨むような幸せな生活を送ることとなった。
◇
あぁ、あの二人がどうなったかですって? ご想像にお任せしますが、婚約式の日以来、今まで王宮で贅沢三昧していた二人が、何も持たない平民になって、関係性がうまくいっていないという話は聞くまでもありませんわね。
かつて、愛し合ったエリオットとユウリのことなど、私の耳に入ってくることすら、ありませんわ。
……皆さま、ごきげんよう。
‐ END ‐




