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猛火の令嬢 悪役令嬢になるはずだった少女は魔物の血を浴びて笑う  作者: ひなぎかなこ


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2/2

第一話 ナルメア・グッドハードという令嬢

よろしくお願いします

大陸の中心に位置し、いくつかの港と豊かな山林をもつディレクト王国。

その王都には大陸どころか世界でも珍しいある組織があった。


王家直属の救国人材養成機関。


その名を、ディレクト学園と言った。




学園の中にある訓練場。上空から見て楕円状に壁がそりたち、雨が降った際などには屋根が魔法で開閉することで屋内で訓練ができるようになっている。

広さは100人の人が中に入ってもまだまだ余裕がある程で、そこには戦闘訓練などの授業で打ち込みなどに使う木製のカカシや、殺傷力のないペイント弾が打ち出される魔法道具など、さまざまな設備ものが用意されている。


授業の時は生徒たちの武器がぶつかる音や声で騒がしい場所だが、今は日が登るか登らないかというくらいの早朝ということもあって、たった一人の生徒しかおらず、まるで別の場所かのように静まり返っていた。


その生徒は本来子息――男子生徒に向けて解放されているこの場所に来るはずのない、女生徒だった。

動きやすい男物の粗末な服を着て、燃えるような赤い髪を後ろにまとめている。

一般的な他の女生徒に比べて筋肉質で背が高く、長い髪と男物の服の上からでもわかるほど豊満な胸を見なければ、女顔の青年といっても通用するだろう。

 

少女が腰に吊り下げていた剣を抜き、目の前に並べられたカカシに向かって構える。

訓練用に刃の潰されたそれは、一見すると物に叩きつけることはできても切ることはできそうもない。

だが少女が一度構えると、一瞬にしてまるで手入れが行き届きよく研がれた業物かのような鋭さを宿した。


「・・・ふっ!!」


少女が動いた。

ずらりと並んだ50体ものカカシの間をするすると動き、的確に一撃を叩き込んでいく。

あるカカシは横薙ぎにし、またあるカカシは剣の先で穿つ。鍛えてあるとはいえ女性であるその体から放たれたとは思えないような鋭い剣が、みるみるうちに哀れなカカシたちを切り裂いていく。

時間として10秒にも満たないくらいだろうか。

少女――ナルメアが全てのカカシの間を抜けた時には、カカシはみな元の形を留めてはいなかった。

ズタズタに割かれているもの、首の部分が吹っ飛んでしまったもの。カカシ達の死体の真ん中で少女は剣を元の鞘に収め、息を一つはいた。


「……やっぱり、動いていないカカシを切ったって訓練にならないわ。学園にベティの所の魔法式訓練カカシ『ヨケール君ver.3』を置いてもらえないかしら……」


ナルメアはぶつぶつと文句を言いながら、自分が切り捨てたカカシを片付け始める。

ある程度の耐久性を持つはずの木製のカカシは、バラバラになっていたとしてもそれなりの重量がある。

しかしナルメアは隅においていた自分の背丈より少し小さいくらいの背負子を背負うと、ひょいひょいとカカシの残骸を入れていく。

あっという間にカカシの残骸は片付き、それを見て満足そうに頷くと、ナルメアは背負子を改めて担ぎ直して訓練場を後にした。





ナルメア・グッドハードは侯爵令嬢だ。

国の東側にある広大な森と平原、そしてさほど大きくはないものの貿易を行うには十分な港を領地とするグッドハード家の次女として生まれたナルメアは、多少のお転婆はありつつも家族と領民の愛を一身に受け健康にすくすくと育った。

順風満帆だったナルメアの人生に翳りが見えたのは、七歳の時。

国で決められたスキル鑑定の場において、眉を顰めた司祭に自身のスキルを告げられた時だった。


スキルとはこの世界に生きる人すべてに神から与えられる特殊技能だ。

「炎魔法」「水魔法」のような魔法を強化するものや「農業」や「裁縫」「料理」のように生活に根ざしたもの、「剛躯」「人魚化」「無敵」のように自身の肉体や技術に神がかり的な力を与えるものに「ドラゴンテイマー」「動物語翻訳」など普通の人間では到底行うことができない異能を身につけるものなど、多岐にわたる。

どんなスキルが発現するかはランダムな上、同じスキルであってもその強さには個人差があるが、それでも多くの人々は自身のスキルに誇りを持ち、スキルを鑑定される七歳以下の子供たちは自身に眠る力に夢を膨らませる。


家族と共にスキル鑑定の場である教会を訪れた当時のナルメアも、まだみぬ自分の力に心を踊らせていた。

(ラティーシャお姉様の「光魔法」のように美しい力?それともお母様の「治癒力」のように優しい力?ああでもアルベルドお兄様のような「アーカイブ」でもいいかもしれない。私ってば物を覚えるのがてんで苦手なんだもの、侯爵令嬢としてこのままではいけないだろうし……)

あーでもないこーでもないと頭を悩ませながら、教会の長い階段を一段一段登っていく。

そうしてたどり着いた教会の一室で、豊かな口髭を蓄えた司祭に言われるがまま「鑑定」の魔法が施された水晶玉に手をかざす。

パァッと辺りが白く塗り潰されるほどの光が放たれ、司祭が目を細めて水晶玉を覗き込んだ。

「……」

じぃっと水晶玉を見つめる司祭にナルメアと家族の視線が注がれる。

沈黙が支配する部屋の中で張り詰めた緊張感に、ナルメアはごくりと唾を飲み込んだ。

どのくらいそうしていただろう。

「……ああ、やはり……これはなんと…………」

司祭が絞り出すような小さな声で何かを呟いた。

司祭がナルメアに向き直る。

その目にあったのは――深い深い憐れみ。


そして、司祭の唇がゆっくりと開かれる。

その口から重々しく告げられた言葉は、ナルメアの思いもしなかったものだった。


「……ナルメア・グッドハード嬢。あなたのスキルは、マイスターランクの『武器・防具使い』です」

「……え」

ナルメアの思い描いていた未来が、ガラガラと音を立てて崩れた。



スキルにはそれぞれにランクがある。

下からビギナー、ミドル、エキスパート、マスター、マイスターと区分され、ランクが離れているほど同じスキルを持っていてもその力に天と地ほどの差がある。

例えば「裁縫」のスキルの場合、ビギナーランクではスキルを使用したとしても一般の針子より作業が少し早いくらいだが、マイスターランクになれば全体に刺繍を施した手間のかかるドレスを一晩で縫い上げ、普通は触れることすら危ないドラゴンの鱗などの魔物由来の素材すら縫い込むことができるのだ。


その力の強力さと反比例するかのように、マイスターランクのスキルは所持者が少なく、教会が把握している限りでは全国民約600万人中50人もいない。

それ故に、ナルメアがマイスターランクのスキルを持ったことは喜ばしいことのはずだった――――ナルメアが、侯爵令嬢でさえなければ。


スキル、「武器・防具使い」。

身につけた武器や防具の力を引き出し、その武器に合わせた扱い方、身のこなし方を行うことができるスキル。

それもマイスターランクのものであれば、戦場の英雄になれるどころか武器を使った戦闘においては理論上伝承の勇者以上に戦うことができる――令嬢には全く必要のないスキルだ。

侯爵令嬢に、貴族の令嬢に求められるのは、貞淑さや慎ましさや気品、そしてある程度の教養を併せ持った淑女として家の利となる相手に嫁ぐか婿を取り、嫡男を産んで家庭を築くことだ。

そこに血生臭い武器や防具を扱う力など必要となるはずがなく、むしろ争いに役立つ力など令嬢にとっては欠点とすらなり得る。

ナルメアのような高貴な家に生まれた令嬢に必要なのは、無骨な剣ではなく優雅に顔を隠す華奢な細工の扇子であり、頑丈な鎧ではなく豪奢な刺繍の施されたドレスなのだ。


さらにナルメアにとって不運だったのは、つい先日国の第三王子と婚約を交わしたことだ。

もし相手がグッドハード侯爵家より爵位が低ければ、たとえナルメアのスキルが令嬢らしからぬものであろうとも他の利点を上げることで婚姻を続けさせることができただろう。

しかし相手は爵位が上どころかこの国の王族である。

王位継承権第三位とはいえ、婚約者であり将来は王族にその名を連ねることになるナルメアはそれ相応の品と格が求められる。

そんなナルメアにとってこのスキルの発現は、婚約を破談にされかねない事態だった。


どこから話が流れたのか、ナルメアのスキルの話は王都中に瞬く間に広まった。

元々、第三王子と婚約したナルメアを嫌う貴族も多かったのだろう。

周りからは「粗野なスキルの令嬢」「グッドハードの唯一の汚点」「性別を間違えて生まれた」などと揶揄され、茶会などの社交の場に出れば他の令嬢に距離を取られ影でクスクスと笑われる日々だった。


しかし家族は失意に暮れるナルメアを受け入れ、口々にはげました。


父、ロベルト・グッドハードは快活に笑いながら言った。

「スキルが何だというんだ、私なんてビギナーランクの『泳力』だぞ!侯爵が人よりちょっと泳いだところで自慢にもならんし、そもそも泳ぐ機会がないしな!!ナルメア、ナルメアはそのままで十全に素敵なレディなんだ、こんなことくらいで王家から婚約破棄の礼状がきてみろ、その場で血判付きの返事を書いて叩きつけて、すぐさま使者を屋敷から追い出してやる!!」


母、フィオレー・グッドハードは興奮する父を諌めながら、女神のように微笑んで言った。

「この人の言う通りよ。あなたがどんな力を持っていたとしても、それでナルメアの魅力や価値が揺るがされるなんてことはないの。……ナルメア、私たちの愛しい子。何があろうと、あなたはこれまでもこれから先もずっとずっと、私たちの大切な家族よ」


兄、アルベルド・グッドハードはメガネの位置を直しながら、いつもの顰めっ面でナルメアに向き直って言った。

「全く、スキルが思っていたようなものじゃなかったからといつまで落ち込んでいるつもりなんだ。これに懲りたらそんなものを当てにせず、自分の力でこれからのための知識と作法を身につけることだな。さあわかったらすぐに今日の分の語学とマナー講義を……何だロッシュ、今話している最中で……何?『先日泣いて帰ってきたナルメアお嬢様のためにアルベルド坊ちゃんがポケットマネーで王都中の店から取り寄せた菓子や宝石や娯楽小説やらがあまりに多すぎてお嬢様の部屋に入りきら……』って何を全部バラしているっ………………え、ええい!早くいつもの間抜けヅラに戻れ、ナルメア!!!」


姉、ラティーシャ・グッドハードは「社交界の薔薇」の異名を欲しいままにする美しい笑みをたたえて、ナルメアを優しく抱きしめて言った。

「大丈夫よナルメア、悲しむ必要なんて何一つないの。お父様も、お母様も、アルベルドも、もちろん私も。あなたを嗤ったり嫌いになったりなんてしない。むしろ、ナルメアに悲しい思いをさせている方が私たちにとって辛いことだわ。……ナルメア、今まで言ってきた奴らはちゃんとお話ししておいたけど、もし次に性懲りも無く心無いことを言うような不届きものがいたら私に言いなさい。教えてくれれば、そいつらは次の夜会が始まる頃にはナルメアの前からいなくなっているから。……え?いやだわ、大丈夫よ、ちゃんと合法的に姿を隠してもらうだけだから。私がかわいいかわいいナルメアとの時間を削ってまで夜会やお茶会に出ているのはこういう時のためでもあるのよ」


家族にそう口々に励まされながら、ナルメアは改めて思った。

――ああ

――貴族の令嬢は……私は、このスキルを使っては……戦ってはいけないのだ。

父も、母も、兄も、姉も、使用人たちも皆……ナルメアのことを肯定してくれても、誰も「そのスキルを活かせ」とは言わなかったから。


その時、ナルメアは自分のスキルと――自分の中に浮かび上がった戦いへの興味を、心の奥底へと封印した。


翌日からナルメアは人が変わったように授業に打ち込んだ。

以前はサボりがちだったマナーレッスンや、退屈な語学や他国の歴史などの座学も文句一つ言わず励み、家庭教師がいない時間はアルベルドを訪ねて教えをこい、それ以外の時間も自室で予習復習を取り組むようになった。

今までの奔放さはどこへやら。

元々の覚えが良かったことも相まって、ナルメアは次々に第三王子の婚約者としてふさわしい知識と所作を身につけていった。

家族や使用人、そして領民たちはあまりの変わりように戸惑い、無理をしているのではないかとナルメアを気遣った。

しかしナルメアはいつも首を横にふり、「やるべき事をやっているだけ」だと令嬢らしい楚々とした微笑みを浮かべた。

……気を抜くと心の奥底から這い出ようとする本当の気持ちを押し殺しながら。



そんなナルメアに転機が訪れたのは、四年前の冬。

ナルメア・グッドハードが十三歳になったころだった。



王城から早馬や伝書魔法が飛ばされ、国中に王家からのある知らせが広められた。

それは――王都に王家直属の養成学校、ディレクト学園が設立されるという知らせだった。


近年、被害の拡大する魔物やその親玉である魔王への対処はディレクト国の中でも急務だった。

人智を越える力を振るい、人や家畜を襲い田畑を荒らし船を沈める魔物。

突如出現した人類の敵に対し、これまで王は城の兵を各地に派遣し、また民間のギルドに賞金を出すことで対処してきた。

しかし城の兵やギルドに渡せる国庫の金には限りがあり、それに比べて魔物は無尽蔵かのように湧き出してくる。

他国に助けを求めても、どこも自国の魔物への対処で手いっぱいでこちらまで兵を派遣する余裕はない。

おまけに最近では魔物の中でも特異な強さを持つものが数体出現し、数はまだ少ないもののちらほらと人間側が負ける戦場もあり、魔王の支配する地と程近い村々はすでに蹂躙され始めている。


このままでは、魔物に国が滅ぼされてしまう。

国や民を守るため王が選んだ次の一手は、今いる国民を鍛え上げることだった。


前述の通り、スキルは神から全ての人間に与えられ、その内容には戦闘や研究など魔物との戦いにおいて役立つものも多い。

しかし現状では既に名を知らしめているものを除き、高ランクのものであっても生業に活かすことのできないスキルであったため使用しなかったり、その者の現在いる環境が原因で表に出てくることが難しい場合がほとんどだった。


そこで王国が決断したのが、身分・出自を問わず優秀な者たちを集めてその技能を高め、国のために役立てる場と資格を提供することだった。


ディレクト学園は「学園」と名がついているものの、その実態は騎士を育成する騎士学校や魔術師を育成する魔術学校、化学や魔道を研究し皆のために役立てる学術院を合体させ、より実践的にしたものになる。

剣術や槍術などの武術や高等魔術を学びつつ、時には実際の戦場に派遣され兵の一員として魔物と戦闘を繰り広げる。

新たな道具や仕組みを開発し、教師陣や王城の文官たちの審査を経て早急に国中に広められる。

国にとってディレクト学園の生徒たちは学生であって学生ではなく、貴重で優秀な人材として扱われる。

国の内外で、直接的になるか間接的なものになるかの違いはあれど、魔物たちとの戦いでの戦力として活用される――――強制でなく有志を集うとはいえ、守るべき国民を駆り出さねばならないほど、ディレクト王国は追い詰められていた。


特に実際に戦わなければならない戦闘員は命の危険を伴うため、王国からそれ相応の報酬金が合わせて提示され、さまざまな事情で金銭的に余裕のない若者たちは「自分の力で大金を稼ぐことができる!」と続々と集まった。

そのほかにも、日の目を見ることがなかった自分のスキルを存分に活かしたい、戦地に赴くのは怖いがこれまでは考えられなかった高等な教育を受けたい、王直属の機関に入ることで将来への足がかりにしたい、と様々な理由で学園の扉を叩くものが跡をたたなかった。


しかし、それは平民に限った話だ。

金銭的に不自由なく、これまで平穏に貴族としての役割を全うしてきた多くの者にとって、「なぜ貴族である我々が戦地に赴かなければならないのか」「なぜ貴族である我々が領地の運営以外に働く必要があるのか」という考えが大きく、生まれの問題で屋敷の中に居場所がない者や、はみ出し者故に家族から半ば強制的に入学させられた者などごく一部の例外を除けば、貴族の令嬢や子息たちは誰も学園に向かおうとはしなかった。


ナルメアの家族も魔物の侵攻の恐ろしさは理解していても、自分たちが行く必要はないと考えていた。


しかし、ナルメアは違った。


(ディレクト学園には身分も出自も関係なく、優秀な者が集められて戦闘や研究に駆り出される)

(それはつまり――貴族の令嬢が、私が力を使って戦っても良いということ)


ディレクト学園の話を聞いたナルメアは、その日の晩の食事会で学園への入学を強く志願した。

もちろん家族は総出で反対し、自分たちの大切な大切な末娘を、むざむざと戦地に放り込むなど考えられない、考え直してくれと口々に言った。

しかし、ナルメアは一歩も引かなかった。

ぎゅ、と一度拳を強く握り、正面から家族と向かい合う。

「……この身に宿るスキルを告げられて6年余り、私はお母様やお姉様のような淑女になることを目指してきました。そうあることが自分のなすべきことなのだと、そう思ってきました。ですが、ある時気付いたのです。領民たちから届く魔物の被害報告を聞くたびに胸の内に沸き起こるこの思いは――――魔物と戦い領民を救うことができる力を持つにも関わらず、何もしようとしない私自身への怒りなのだと」


各地で相次ぐ魔物の被害、それはこのグッドハード家の領地でも起きていた。

村が襲われ人的被害が出た、特産品である家畜が大量に殺された、魔物と王国の兵の戦闘により堤防が崩れて畑が一面水浸しになり作物の半数がダメになった。

領民たちの訴えを聞き、グッドハード家は適切な支援と補償を行なった。

ナルメアも少ないながらも力になろうと、私物の宝石を幾つか売って補償金の足しにしたり、数少ない友人のツテを借りて食料や衣服、来年のための種籾など様々な必需品を大量に仕入れ、各地の支援に努めた。

そんな中、支援を受けてお礼を言う領民たちに笑顔で答えるたびに、ナルメアの心の中で燻るものがあった。


――もし私が魔物と戦っていれば、こんな被害は出なかったのに。

――もし私がスキルを使えていれば、この人も怪我をしなくて済んだのに。

――……スキルを使えていれば?

――戦える、魔物から皆を守れるスキルを使わずにいるのは、私自身なのに?


そんな中やってきた今回の知らせ。

一度火がついてしまえば、もう止まることはできなかった。


(守るべき領民のために持てる全力を尽くそうとしないで、何が淑女、何が侯爵令嬢なの、ナルメア・グッドハード!!!)


「私の持つスキルは関係なく、自分にできることを何もしようとしてない今の私は『侯爵令嬢』として失格です。……みんなの心配する気持ちはとても嬉しいです。戦場が、魔物と対峙し戦うのが危険なのもわかっています。殿下との婚約も安定している今、余計なことをするべきではないのかもしれません。……ですが、もう見て見ぬ振りは嫌です。防げたはずの悲しみを仕方ないことと飲み込むのは嫌です」


「――私は私に出来ることで、国の、領地の……大切な家族のためになりたいのです」


父親譲りのミントグリーンの瞳がぎらぎらと決意を漲らせている。

その目に射抜かれた一同は少しの沈黙の後、笑い、微笑み、呆れたようにため息をつきながらも口角を少しだけあげ、末娘の一世一代のわがままを了承した。




こうして、ナルメア・グッドハードは最低限の規定年齢に達した昨年、晴れてディレクト学園に入学することになった。

スキルや技能の優秀さを入学時に審査されているとはいえ平民だらけのこの学園で、しかも実際に戦地に駆り出される戦闘科にわざわざやってきた唯一の貴族令嬢であるナルメアは入学当初からひどく浮いていた。

一体どんな訳アリか、それともただの物見遊山のために金を積んで入ってきたのかと、ジロジロと不躾な視線を投げつけられた。


だが、そんな好奇の目をナルメアは己の力でねじ伏せた。


入学直後に行われたクラス決めのトーナメントにおいて、ナルメアは自らを侮り襲いかかってくる強力なスキルを持った男たちを悉く薙ぎ倒していった。

ある男がスキル「ドラゴン化」で大岩ほどの大きさのドラゴンになれば、臆することなく顔面に「加速」魔法の込められたアイアンブーツの一撃を叩き込み、回り込んだ背中にすぐさま剣の一閃を浴びせて地を這わせる。

またある男がスキルで火力を増した上級火魔法で襲い掛かれば、屈強な男でも構えるのに一苦労しそうなほど巨大な大剣を軽々と振り回してその風圧で魔法をかき消し戦意を失わせる。

そうして向かってくる男たちを苦戦する様子もなく次々と屠り、ついには同時期に入学した自身の婚約者でもある第三王子すらも死闘の末討ち果たしたその姿に、はじめはすぐに負けて泣いて帰ると揶揄していた周囲の声はみるみる小さくなり、代わりに応援に来ていたナルメアの親友である伯爵令嬢が歓声と声援とを会場に響かせていた。


さらにダメ押しとなったのが、ナルメアたちが初めて放り込まれた戦地でのことだった。

初めての実戦と殺意を込めてこちらを襲う魔物に同学年の生徒たちが怯えて足をすくませる中、ナルメアは親友の作り出した武器を手にして単身全線に飛び込み、魔物の群れを悉く切り倒し、踏み砕き、叩き潰し、ついには()()()()を成し遂げた。

誰一人死者を出すことなく戦いが王国側の勝利で終わる頃にはナルメアを侮るものはいなくなっており、代わりにある異名が口々に囁かれた。


尽きることのない闘争心と共に、何があろうと決して消えることなくどんな獲物をも飲み込み、なぶり、その血肉を糧として一層激しく燃え上がる。

恐ろしくも猛々しい――――「猛火の令嬢」だと。

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