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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第4章:魔王の孤独と「本能寺」へのカウントダウン

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第16話:共犯者の決断と、神君伊賀越えの回避

「一緒に、誰も死なない新しい国を創りませんか」


俺の放ったその言葉が古寺の堂内に吸い込まれた後、重く、深く、そしてヒリヒリとするような沈黙が降りた。

外では初夏の夜風が境内の木々を揺らし、葉擦れの音が微かに聞こえる。遠くから聞こえていた堺の町の喧騒は、もう完全に途絶えていた。


家康は、正座した膝の上に置いた両の拳を固く握りしめ、じっと目を閉じていた。

その脳内では、凄まじい葛藤が渦巻いているはずだ。少しでも俺の計画に現実味のない破綻があれば、あるいは俺の言葉の端々に「天下を私物化したい」という野心による私欲が見え透いていれば、家康はこの場で大声を上げ、外の護衛を呼んで俺を捕縛し、信長に突き出していただろう。そうすれば、徳川家の安泰は確約されるのだから。


だが、これまでの数々の戦場と政治の場で見せつけられてきた俺の知略――現代知識という名の「オーバーテクノロジー」の数々を、家康は骨の髄まで知っている。明智光秀という男が、「勝算のない博打を打つような愚か者ではない」ことを、家康の武将としての本能が完全に理解していた。


そして何より、俺の提示した『一人のカリスマに頼らず、法と経済で国を豊かにする』という極めて論理的で美しいビジョンが、家康の心の最も深い部分を強烈に揺さぶっていた。

幼い頃から織田や今川の人質としてたらい回しにされ、身の置き所のない苦労を重ね、正室や長男を失う悲劇にも耐え忍んできた彼だからこそ、誰よりも強く、誰よりも切実に「終わらない平和」を渇望していたのだ。血みどろの戦国時代を終わらせるための、完璧な設計図が目の前にある。


やがて、長く感じられた沈黙が破られた。

ゆっくりと目を開けた家康の瞳には、迷いや恐怖は微塵もなかった。そこにあったのは、かつてないほど鋭く、そして澄み切った『統治者』としての決意の光だった。


「……明智殿は、本当に恐ろしい男だ」


家康は深く息を吐き出し、張り詰めていた肩の力をスッと抜いた。


「これほど緻密な盤面を用意され、しかも私が最も欲している言葉を突きつけられては、首を縦に振る以外に道はない。……もし私がここで断れば、この場で私を斬るか、あるいは堺の町ごと、徳川家康という存在を歴史から完全に消し去るつもりだったのだろう?」


家康が探るように、皮肉めいた笑みを浮かべて言う。その言葉には、すでに俺への底知れぬ畏怖と、同時に奇妙な信頼感が混じっていた。


俺は閉じていた扇子をパサッと優雅に広げ、心からの微笑みを浮かべた。


「まさか。貴方は私の大切な、ただ一人の友人ですよ。……それに、貴方ならこの日本の未来を、ご自身や徳川家の目先の損得ではなく、もっと高い視点から一番合理的に考えてくださると信じておりました。貴方は、そういうお方だ」


俺がスッと右手を差し出すと、家康は目を丸くしてその手を見た。

「これは?」

「南蛮の作法で、『握手』と言います。対等な者同士が、互いの手に武器がないことを示し、信頼を誓い合う契約の証です」


家康は俺の手と顔を交互に見つめ、それから深く、深くため息をついた。

そして、完全に覚悟を決めたように力強く右手を伸ばし、俺のその手をガシリと強く、骨が軋むほど固く握り返した。


「……承知した。徳川家は、明智殿の描くその未来の船に乗ろう。いや、乗らせてもらう」


二人の手がしっかりと交わされた瞬間、歴史の巨大な奔流が完全に元のレールから外れ、まったく新しい方向へと凄まじい勢いで向きを変えたのを、俺は確かに感じた。

武力による下克上の歴史は、ここで終わる。


「感謝いたします。これで、本能寺の後の最大の懸念はすべて消え去りました。後は、私が責任を持って泥を被り、魔王を世界へ放ちましょう」


俺が微笑むと、家康は手を離し、今度は現実的な問題へと顔を引き締めた。


「だが、明智殿が京で上様を討ったとの報せが畿内に知れ渡れば、上様の側近や残党が、血眼になって真っ先に同盟国であるこの私を狙うだろう。私はただちに、無防備なこの堺を脱出し、本国の三河へ戻らねばならん。……道中の安全は、明智殿が完璧に手配してくれるのだろうな? まさか、このわずかな手勢で、伊賀の険しい山道を逃げ隠れして帰れとは言うまいな」


史実の地獄を知らない家康が、冗談めかして笑いながら言う。

俺は心の中で(史実ではまさにその通り、伊賀の山中を死に物狂いで這いずり回り、何人もの忠臣を失いながら逃げる羽目になるんですよ)と苦笑しながら、自信たっぷりに深く頷いた。


「もちろんです。堺の港から三河までの海路には、すでに私と今井宗久殿が手配した『極秘の快速船』を用意してあります。船内には最高の南蛮料理と、ふかふかの寝台をご用意しております。波の音を子守唄にした、安全かつ快適な船旅をお約束しますよ」


史実において、家康の生涯で最も悲惨で過酷だった最大の危機『神君伊賀越え』は、俺の現代的な根回しと圧倒的な財力によって、VIP対応の豪華クルージングへと完全に上書きされたのだ。


「……何から何まで、本当に恐ろしい男だ。私の思考の、常に三歩も四歩も、いや、百年も先を行っている。頼りにしているぞ、明智『総理』」

「ええ。共に、新しい国を創りましょう、徳川『副総理』」


未来の役職名で呼び合い、二人は暗い本堂の中で再び力強く手を握り合った。

これで、本能寺の変の後に国内を一つにまとめるための、最大にして最強のカードが俺の手札に完璧に加わった。


古寺を後にする俺の足取りは、これから未曾有の大事件を起こす謀反人のそれとは思えないほど、羽が生えたように軽かった。

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