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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第1章:幼年・美濃編 ~チート赤ん坊、マムシを飼い慣らす~

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第17話:死の予言と、究極の兵器(硝石丘)(再改稿版)

「さあ、道三様。銀と鉄による国家改造のビジョンはこれくらいにして……次は、その鉄で作った筒(鉄砲)に込める、『最強の火薬』を無尽蔵に生み出す錬金術のお話をしましょうか」


俺(光秀)が、不敵な笑みを浮かべてそう切り出した、次の瞬間だった。


「……待て」


斎藤道三の、地鳴りのように低く冷酷な声が、俺の言葉をピシャリと遮った。

先ほどまで『灰吹法』の銀と『高炉』の鉄がもたらす途方もない未来のビジョンに目を輝かせていた商人の顔が、一瞬にして完全に消え失せている。

代わりにそこに座っていたのは、血の海を泳ぎ、騙し討ちで美濃一国を掠め取った戦国の怪物――『マムシ』の真の顔だった。


密室の空気が、急激に氷点下まで冷え込む。肌がヒリヒリと痛むほどの、濃密な殺気が満ちていた。


「火薬の妖術の話を聞く前に……一つ、明白にしておかねばならんことがあるな、十兵衛」


道三は胡座あぐらをかいたまま、蛇のような眼光で俺の全身をねぶり回すように射抜いた。


「お主、銀の図面を出した際、わしに対してなんと言った? わしの手腕を『高く評価している』? わしをパトロンとするに『足る器だ』と? ……まるで、己が主君を値踏みするような、随分と身の程知らずで偉そうな口を叩いたではないか」


道三は、俺の提示した圧倒的な知識に呑まれかけていた己のペースを、力技で引き戻しに来たのだ。

相手がどれほどの技術を持っていようと、主導権を握られることだけは絶対に許さない。少しでも調子に乗れば、容赦なく首を刎ねる。それが彼の下克上の美学だった。


「……一介の家臣の小倅こせがれが。わしを高く評価している、だと? 斬り捨てられる覚悟があっての暴言であろうな?」


一歩でも動けば、抜刀されて胴体を両断される死の淵。

だが、俺は瞬き一つせず、微動だにせずに言葉を返した。


「ええ。美濃一国を一代で奪い取った国主としては、百点満点の傑物だと、心から申し上げております。……ですが、それは『今だけ』の話だ」

「なんだと?」


「このままでは、あと十数年後。貴方様はご自身のご長男である『斎藤義龍よしたつ』様に裏切られ、長良川のほとりで、実の息子の手によって無惨に首を討ち取られて死ぬ運命にあります」


「なっ……!?」


道三の顔色が、この日初めて、明確に蒼白へと変わった。

史実において、道三は自分の後継ぎである長男の義龍を「暗愚である」と見下し、次男や三男ばかりを寵愛するようになる。それが原因で親子の間に修復不可能な亀裂が生じ、義龍は道三に不満を持つ美濃の国衆たちを味方につけてクーデターを起こすのだ。

それが、道三の命運を絶つ『長良川の戦い』である。


俺は脳内にある確定された歴史のデータを、いとも簡単に、そして残酷に突きつけた。


「貴様……言うに事欠いて、我が斎藤家が身内争いで滅ぶと申すか! 義龍がこのわしに牙を剥くだと? 妄言にもほどがあるわ!!」


チャキッ、という冷たい金属音が薄暗い密室に響き渡った。

道三が猛然と腰の大太刀の鯉口を切り、抜き身の刃が俺に向けられようとしている。


「妄言ではありません。道三様、貴方様は義龍様を『かつて追放した土岐氏の血を引く子かもしれない』と疑い、心の底で疎んじているはずだ。そして義龍様もまた、その冷たい視線に気づき、腹の底でドス黒い憎悪を育てている。……思い当たる節があるはずです。このまま放置すれば、あの男は必ず貴方様の寝首を掻きにきます」


図星を突かれた道三の目が、驚愕に見開かれた。

親子の間に潜む、他人には決して口外していない暗い感情のしこりを、この若造に完璧に見透かされているからだ。


「ええ、史実……いや、本来ならば死ぬ運命です。ですが、私がいればその運命は防げます。私が裏から手を回し、義龍様を経済的・政治的に完全に無力化して、反逆の芽を戦になる前に摘み取ります。……その代わり、私を貴方様の『裏の腹心』としてお使いいただきたい」


俺は刀を向けられたまま、懐からさらにもう一枚の、分厚い書状を取り出し、道三の前にスッと滑らせた。


「私が提示する未来の知識と技術に、斎藤家の持つ資金と権力を惜しみなく投資していただきたいのです。……そしてこれが、貴方様を天下無敵の存在にするための最後のピース。先ほど申し上げた『最強の火薬』の錬金術の全貌です」


道三は、大太刀の柄から手を離さないまま、片手でその書状を開いた。


「……今年、天文12年。はるか南方の種子島に、南蛮船が漂着し、『鉄砲(火縄銃)』という新兵器が伝来しました。遠距離から鉛の玉を火薬の爆発力で凄まじい速度で飛ばし、分厚い鎧をも貫通する魔法の筒です。……今は弾込めが遅いと侮られていますが、いずれ必ず、戦の形を根底から変えます」


俺は、先ほど語った『銀』と『鉄』のビジョンを、ここに繋ぎ合わせる。


「私の灰吹法で得た『莫大な銀』を使い、堺の商人から鉄砲の筒そのものを買い占める。そして、いずれ私の高炉で大量生産される『鉄』を使って、美濃国内で鉄砲を量産する。……これだけでも強大な力ですが、鉄砲には最大の弱点があります」

「……火薬、か」

「その通りです。火薬の主成分である『硝石しょうせき』は、この雨と湿気の多い日本の土地には、自然界には一切産出しません。南蛮からの輸入に頼るしかなく、商人に足元を見られ、莫大な金がかかります。筒だけあっても、火薬がなければただの鉄の杖です」


俺は一拍置き、密室の薄明かりの中で、まるで悪魔のように深く、蠱惑的こわくてきな微笑みを浮かべた。


「だからこそ、造るのです。……この【硝石丘しょうせききゅう】の製法を用いて」


「しょうせき、きゅう……? なんだこれは。人間の糞尿や、家畜の排泄物と書いてあるが……」

道三が、書状の記述を見て怪訝な顔をした。


「ええ。人間の糞尿や家畜の排泄物。それにわら、土、石灰、ヨモギなどを、雨の当たらない屋根の下で層状に高く積み上げます。これに定期的に尿をかけながら数ヶ月から数年発酵させると、土の中にいる目に見えない『硝酸バクテリア』の働きにより、アンモニアが分解されて『硝酸カルシウム』が生成されます。……これを水で抽出し、木灰(炭酸カリウム)と反応させて煮詰めれば、純度の高い『硝石』の結晶が抽出できるのです」


ヨーロッパでは古くから使われていたバイオテクノロジーだが、日本で本格的に導入されるのは数十年先のことだ。俺の脳内にある現代の化学知識が、そのプロセスをこの時代に完全再現させた。


「……糞尿や土から、火薬ができるだと……? そんな馬鹿な話があるか!」

「現に、南蛮人はそうやって火薬を量産しています。民の排泄物や土という、タダ同然の汚物から、戦の勝敗を決する黄金(火薬)を生み出すのです」


俺はゆっくりと立ち上がり、胡座をかいて呆然としている道三を見下ろすようにして言い放った。


「道三様。お気づきですか。これで、すべてが繋がったのです」


俺は扇子で、空間に巨大な三角形を描くように動かした。


「石見の【銀】で資金を潤し、高炉の【鉄】で無敵の兵器を量産し、そしてこの糞尿の【硝石】で無尽蔵の弾薬庫を作る。……銀、鉄、火薬。この三つのピースがすべて美濃国の中で完全に自給・循環するようになった時。美濃の斎藤家は、他の大名が束になっても絶対に手を出せない、日の本で最強にして無敵の『近代軍事国家』となります」


沈黙が降りた。

それは先ほどの殺気に満ちたものではなく、己の常識が根底から覆されたことによる、圧倒的な知の暴力に対する沈黙だった。


「……いかがですか、道三様。この明智十兵衛光秀の頭脳、買ってはいただけませぬか?」


道三はしばらくの間、微動だにせず、俺の顔と、手元にある書状を見つめていた。

その脳内で、凄まじい速度で損得勘定が行われている。

俺という人間の得体の知れなさを天秤にかけ、一歩間違えれば、俺が美濃を裏から乗っ取る猛毒の蛇になるかもしれないという強烈な警戒感。

だが、それを遥かに上回る、目の前に提示された「銀・鉄・火薬」という、天下を確実に獲れる絶対的な力への、抗いがたい欲望。


やがて、彼はゆっくりと大太刀の柄から完全に手を離した。

そして、うつむいたまま肩を揺らし始め……ククッ、という低い声は、やがて抑えきれない大爆笑へと変わった。


「……くっ、ふははははは! わはははははは!!」


稲葉山城の大広間にまで響き渡りそうな、腹の底からの豪快な笑い声。


「天の申し子か、それとも人を化かす恐ろしい悪狐あっこか! ええい、どちらでもよいわ! まさか、このマムシの急所(義龍)を突きながら、これほど巨大な天下の絵図面を広げてみせるとはな! 面白い、実に面白いぞ十兵衛! 貴様のその底知れぬ頭脳と悪魔の術、このマムシが丸ごと買ってやろうではないか!」


道三の目が、かつて下克上の野心を燃やしていた若い頃のように、ギラギラと狂気じみた歓喜の光に満ちて輝いていた。


交渉成立だ。


これで俺は、美濃の国主が持つ「莫大な資金力」と「絶対的な権力」という、戦国時代における『最強の手足』を手に入れた。

俺の脳内にある現代の科学技術や経済知識というチートを、ただの空論ではなく、現実の歴史にブチ込むための巨大な大砲が完成したのだ。


史実の悲劇を叩き潰し、最愛の妻・熙子を守り抜き、この国を永遠の覇権へと導くための絶対的な基盤。


(待っていろよ、義龍。そしていずれ尾張から現れる破壊の魔王、織田信長。さらには木下藤吉郎)


戦国の盤面は、今日この日を境に、一人の歴史オタクの手によって根底から完全に塗り替えられることになるのだ。

密室を出る俺の足取りは、羽が生えたように軽く、その胸の奥では、歴史改変の炎がごうごうと燃え盛っていた。

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