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明智光秀:歴史改変録 ~逆行転生した歴史オタク、三日天下を永遠の覇権へ~  作者: 天音天成
第6章(エピローグ):大日本帝国の夜明け

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第1話:十年のデスマーチと、情報革命の朝

山崎の泥地で、羽柴秀吉率いる「神速の中国大返し」を、有刺鉄線と塹壕、そしてガトリング砲による『近代要塞戦術』によって完全に無力化し、天才の野心を「世界」へと放り投げたあの決定的な勝利から、瞬く間に十年の歳月が流れた。


時は文禄元年(1592年)。

史実の歴史書が示す通りであれば、この年は、権力の絶頂に立った豊臣秀吉が、老いと猜疑心からくる狂気に囚われ、何の大義もない「朝鮮出兵(文禄の役)」という地獄の泥沼に足を踏み入れた、呪われた年である。

何十万という日本の兵士たちが、極寒の異国の地で無意味な血を流し、国内の農民たちは重税と徴兵に苦しみ、西国の大名たちは疲弊の極みに達する。やがて豊臣家の滅亡と、関ヶ原の戦いへと続く暗いカウントダウンが始まるはずの、凄惨な時代だ。


だが、俺という未来からの異物バグが歴史の歯車に介入し、力技でその軌道をへし折ったこの世界線において、そのような無益な流血は一滴たりとも起きていない。


かつて応仁の乱で灰燼に帰し、血なまぐさい権力闘争と暗殺の舞台であった京の都――今や新政府(内閣)が置かれた大日本帝国の中心地たる『帝都』の朝は、活気に満ちた、やかましいほどの声で始まる。


「新しいかわら版の号外だよ! 琉球王国との関税協定、無事に改定締結! 南方の砂糖と香辛料が、明日からさらに安く手に入るようになるらしいぞ!」

「こっちは農業の特別版だ! 蝦夷地(北海道)の開拓村から朗報! 寒冷地用の新しい麦の品種改良が大当たりで、記録的な大豊作だってさ!」


朝靄あさもやが完全に晴れ切らない、綺麗に区画整理された石畳の大通りのあちこち。行き交う売り子たちが、真新しいインクの匂いをツンとさせた紙束を高く掲げて、威勢よく声を張り上げている。

彼らが手にしているのは、かつてのように絵草子屋の職人が一枚一枚木の板に文字を裏返しに彫って墨で刷るような、粗末で高価で手間の掛かる印刷物ではない。まだ紙質は粗いが、細かな文字が規則正しく並んだ、近代的な『新聞』の原型とも呼べる情報媒体だ。


俺が南蛮の宣教師たちが持ち込んだグーテンベルクの活版印刷機をベースにし、堺の優秀な鉄砲鍛冶や銀細工の職人たちに改良させた「国産活版印刷機」による産物である。

鉛とアンチモン、錫の合金で鋳造された無数の小さな金属活字を、職人たちが目にも留まらぬ速さで組み合わせて版を作る。そこに油性のインクを塗り、巨大な円筒形のローラーで和紙を改良した丈夫な洋紙に一気に圧力をかけて押し付ける。この機械の導入により、手書きや木版では不可能だった「安価で大量の情報の複製」が可能になり、まずは都市部を中心に『情報革命』の波が訪れ始めていた。


「たった十年で、よくぞここまで新しい仕組みを根付かせたものだ」と、のちの歴史家は感嘆するかもしれない。

だが、種明かしをしてしまえば簡単なことだ。これは決して「ゼロから十年で成し遂げた魔法」などではない。

俺がかつて、青年時代に天下布武の影で堺の街に秘密工房を作り、今井宗久の莫大な資本を投じて『十数年間』にもわたって地道な基礎研究と職人の育成を続けてきた、あの泥臭い技術の蓄積ストック。それが、日本の完全統一による「無尽蔵の国家予算」と「全国の物流網」と合わさることで、一気に表舞台へと解き放たれ、爆発的な開花ブレイクスルーを果たした結果に過ぎないのだ。


かわら版を買い求めた街角の茶屋では、朝飯の湯気とともに、人々の熱気に満ちた声が交差している。

上質な絹の着物を着た大商人だけでなく、パラフィン加工の帆布の前掛けをした職人や、少しばかり字の読める町人までもが、紙面を指差し、昨日の米相場の変動や、内閣が発表した新しい街道整備の法案、さらには世界経済の動向について、ああでもないこうでもないと熱く議論を交わしている。


「情報」というものは、もはや一部の特権階級や公家、武士だけが密室で独占し、民衆を無知なまま飼い殺して都合よく操作するための道具ではなくなりつつあった。

国家の真の発展において、最も強烈な推進力ブースターとなるのは「情報の開示と民主化」であり、そしてそれを読み解くための「教育」である。情報を正しく理解し、自らの頭で考える民衆が増えれば増えるほど、国家の経済基盤は爆発的に強固になるのだ。


そのため、俺は内閣総理大臣に就任して真っ先に、国家予算の多くを旧来の軍事費から「教育支援」へと強引に回した。

いきなり全国民に義務教育などという現代のシステムを押し付けても、農村の貴重な労働力が奪われると激しく反発されるのがオチだ。そこで俺は、都市部から順次、かつての寺院などの空き部屋を利用した『寺子屋(初等学校)』へと国庫から多額の補助金を出し、「希望すれば身分を問わず、誰でも安価に学べる土壌」を作り上げた。

教える内容は、単純な読み書きに加え、アラビア数字による計算と複式簿記の基礎、客観的な歴史、そして日本が世界の中でどの位置にあるかを知るための簡単な世界地理だ。


当然のことながら、当初この政策を発表した際の反発は、暴動が起きかねないほど凄まじかった。

「農民や町人に文字や算術を教えれば、彼らは余計な知恵をつけ、必ずや為政者に歯向かい一揆を起こす」「武士の特権が失われ、世の秩序が崩壊する」と、古い価値観に囚われた保守的な大名たちは口を揃えて猛反発した。彼らにとって、無知な民衆を武力で脅して年貢を搾り取ることこそが、支配の絶対的な真理だったからだ。


だが、俺は内閣の持つ強大な資金力と、新しい税の優遇措置アメ、そして関税による経済封鎖ムチを巧みに使い分け、反対意見を『金と合理性の暴力』で少しずつ、だが確実にねじ伏せていった。

「領民が算術と文字を覚え、帳簿を読めるようになれば、領内の商いや農作業の効率が劇的に上がり、結果として大名の税収も増えるのだ」と、徹底的に数字で説き伏せたのである。

さらに「教育機関の設置を拒む領地には、内閣からの地方交付金を停止し、関所を通る物資に関税をかける」と脅しをかけたことで、大名たちも数年がかりで渋々、教育政策を受け入れていった。


俺自身、この十年間は文字通りの『デスマーチ(死の行軍)』だった。

史実の過労死バッドエンドを回避して平和な余生を送るはずだったのに、総理大臣室に籠りきりで毎日睡眠時間は三時間。山のように積み上がる法案に判を押し、汚職官僚を摘発し、少しでも早く国を近代化させるため、前世の社畜時代以上の血を吐くようなブラック労働を自らに課し続けた。

(この国を豊かに変えるのは、戦場で槍を振り回すより遥かにしんどいぞ、魔王様……)と、何度海外の信長を恨んだか分からない。


だが、俺のその十年にわたる地獄の労働の甲斐あって、

史実において、江戸幕府が民衆を縛り付け、国の近代化と発展を二百年以上も遅らせることになる悪しき「士農工商」という身分制度は、完全に固定化される前に、徐々に、しかし確実に形を崩し始めていた。


まだ武士の身分が完全に消滅したわけではない。だが、血筋や家柄が絶対だった時代は終わりを告げようとしている。

学問を修め、算盤と複式簿記を自在に扱い、正確に利益を弾き出せる者。あるいは、西洋の書物を読み解き、新たな機械の構造を発明できる才覚のある者。そうした才覚のある者たちが、農民や町人の出であっても、次々と国の役人や企業の技術者として登用される『実力主義社会への過渡期』が、都市部を中心に確実に芽吹き始めているのだ。


「さあ、急がねえと寺子屋の算術の刻限に遅れちまうぞ!」


丈夫なパラフィン加工の帆布で作られた頭陀袋ずだぶくろを肩にかけた子供たちが、屈託のない明るい笑い声を上げながら、朝の石畳の通りを駆け抜けていく。

彼らの年齢は十歳前後。すなわち、俺がこの内閣制という新しい国造りを始めてから物心がついた、『最初の新世代』の子供たちだ。


彼らの顔には、明日の食事を心配する陰りも、戦火に怯える恐怖も一切ない。古い戦国の常識など最初から持ち合わせていない彼らこそが、俺が十年の命を削って育て上げた、この国の最強の希望インフラなのだ。


かつて、落ち武者狩りや野盗が至る所に跋扈し、武士たちが己の欲望や名誉のためだけに刀と槍を振り回し、血みどろの殺し合いをしていた戦国時代の凄惨な面影は、急速に色褪せつつあった。

力ではなく、知識と経済が国を回し始める時代。

俺の愛する妻・熙子ひろこと、この子供たちが笑って生きられる、新しい平和な夜明けの時代が、確かにこの日本に根付き始めていたのである。

第6エピローグの第1話をお送りしました。

後14話(計15話)で完結いたしますので、最後までお付き合いいただけると幸いです!


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