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学校で地味メガネな僕がバイト先ではシゴデキな件。~年上彼女との秘密の恋に、新人の同クラギャルが割り込んできた~  作者: acid-junky


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14/22

届かないブドウ糖、手放せない光の手

 夜の冷気が、火照った頬に冷たく刺さる。


 美月は、自分がどうやって従業員出入り口から立ち去り、店を出たのか、その記憶が曖昧だった。


(……あんなに、必死な顔。私には、一度も見せてくれたことないのに)


 駅へ向かう道すがら、街灯の光が滲んで見える。


 悠真がソラの手首を強く抑え込み、すがるような目で見つめていたあの光景。2人の間には、理屈を超えた、美月が入り込めない「絶対的な何か」があったように思えてならない。


 手にした紙袋の中には、脳内のスイッチオン状態が少しでも長くなるようにと、唯一の脳のエネルギー源であるブドウ糖を配合したゼリー飲料やラムネ菓子が入っている。

 渡せなかったそれが、今はひどく場違いで、重たい石でも入っているかのように感じられた。


 ようやく辿り着いた自宅の玄関のドアを開ける。

「ただいま……」

 奥から母親の明るい声が飛んできた。

「あら、美月。おかえりなさい。ご飯、今用意するね」

「……要らない。食欲ないから」

「え? あら、珍しい。何かあったの?」

 

 母親の心配そうな声を背中で聞き流し、美月は逃げるように自分の部屋へ駆け込んだ。


 ドアを閉め、明かりもつけないまま、ズルズルと座り込む。


「……何よ、あれ。……何なのよ、もう」


 バッグからスマートフォンを取り出し、メッセージアプリを開く。


 トーク画面の最上部には、いつもの『水瀬悠真』の名前。


『悠真くん。今日、バイト先に行ったんだけど……』

『昨日の今日で心配でそっち行ったんだけど。でも、白石さんと……』


 打っては消し、消しては打つ。


「どういうこと?」と、真っ直ぐに聞ければどれほど楽だろう。

 けれど、自分は万人から安心感と好感を持たれるアナウンサーを目指す人間。ただの高校生同士のバイト先でのやり取りに、ムキになって詰め寄るなんて――。


(……みっともない。そんなの、私じゃない)


 結局、一文字も送れないまま、美月は液晶の光を消した。


「……バカ。私のバカ……」


 悠真がソラに向けていた熱い視線に、恋愛的な意味がないことをひたすら願うしかない。美月は、自ら架した夢実現の呪縛に囚われた自分を、膝を抱えながら呪った。



 両手を掴み合った状態で5分ほど経つと、悠真はオンモードを維持できるレベルまで回復した。


「白石さん、あまりここに居過ぎると、店長や他の皆さんに怪しまれるので、ホールに戻って下さい」

 悠真はソラの手首を掴んでいた手を離し、そう促した。


「もう大丈夫ね?」

「はい、本当にありがとうございましたーーー色んな意味で」

「倒れる位具合悪そうだったのに、顔色戻ってるし……ホントなんだね。衝撃だわ」

 ソラは、自分の手をまじまじと眺めながら、つぶやくように言った。


「また、明日からのことはメッセージ送ります。ひとまず、今はホールに戻って下さい」

「ハイハイ、了解~じゃあね」

 ソラは立ち上がると、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、手を振りながら戻って行った。


 ソラを見送ったのち、悠真はふう、と一息ついた。


(これは……色々と整理する必要があるな)


 原理は全く不明だ。でも、ソラに触れられると、脳が回復するのは事実。

 ソラとの物理的接触時間を設ければ、ずっとオンモードでいられる。

 これは悠真のこれまでの生活習慣はもちろん、ひいては人生そのものを大きく揺るがす発見だ。


(周りに怪しまれず、定期的に白石さんに触ってもらう時間を設けるのはハードルが高いが……。でも、それをクリアしたら学校生活をオンモードで過ごせるし、そのままバイトも続けられる……)


 悠真はこれまで、自分のこの脳のせいで起こった悲しい出来事、理不尽な仕打ち、苦労した思い出を走馬灯のように思い出していた。


 一生、こういった苦労が付きまとってくると覚悟していた悠真にとって、ソラという存在は、暗闇の中に突如として現れた唯一の「光」に思えた。


(問題は、どうやって定期的に白石さんに触ってもらうか、だ。方法もだが、これは僕にとってメリットがあまりにも大きいが、白石さんのメリットが何もない、というのも……交換条件を出されるかもしれないが……少なくとも、僕の脳を使って白石さんに写真を送りつけた犯人を見つけることは、白石さんにとってメリットになるはずだ)


 ひとまず、明日も昼休み、例の教室で会って脳回復と今後の相談をしてもらうようお願いしよう、と悠真は決めた。



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