Drop.017『 JUSTICE:U〈Ⅱ〉』【4】
「京、――アタシはね、無理も我慢も、これっぽっちもしてないわよ。――それと……、“オオカミが嫌い”だと言った事……、それを、アナタはずっと抱えていたのに……、アタシを大切に想ってくれて、本当にありがとうね。――そして、――ごめんなさい。――まさか、あの酷い言葉を、アナタにまで聞かせてしまっていたなんて……。――それに気付けず、ずっとそのままにしてしまった事も、本当にごめんなさい」
そして、法雨が静かに頭を下げると、京はそれを慌てながら制し、必死の様子で言った。
「そ、それは違います……っ!! それは、姐さんが謝る様な事じゃないです!! ――だって、ああ言ったもの、そう思わせる様な奴が、姐さんの過去にも居たから」
「いいえ。謝る事よ。――だって」
法雨は、“オオカミが嫌い”と、確かに言った。
しかし、“法雨が嫌うオオカミ”とは、京の事でもなければ、彼の仲間たちの事でもなく、勿論、雷の事でもない。
「だって、アタシは、――“アナタ”の事を、嫌いだと思った事はないもの」
「え……?」
「でも、そうなのに、――ずっと、あの言葉で、アタシは、雷さんとアナタを傷つけてしまっていたわ。――だから、ごめんなさい、と、言わせてもらったの。――ね。――そういうわけだから、この謝罪は、どうか受け取ってもらえると嬉しいわ」
「で、でも、俺は……」
「えぇ。――正真正銘、“オオカミ”ね。――そして、アタシを“都合の良い餌”にしていた“悪いオオカミ”でもあるわ。――でもね、それは、アタシが“都合の良い餌”になる事を受け入れてしまったからよ。――その事も、本当に、ごめんなさいね。――アナタたちは、きっと、アタシが拒んで、叱り飛ばしてさえいたら、“お利口さんなオオカミ”にもなれていたでしょうに……」
そんな法雨に、京は首を振って言う。
「そ、そんなの! ――あの時の姐さんには」
「それとね。――京」
「――?」
そんな京を笑顔で制すると、法雨は続ける。
「“アタシが嫌いなオオカミ”は、――別に居るの。――それも、もう縁のない、“遠い遠いトコロ”にね……。――でも、腹立たしい事に、どうにも、そのオオカミの中の一人が、いつまで経っても、アタシの中に色濃く残っててね……。――だから、つい、あんな風に言ってしまったのよ」
京は、その法雨の言葉に、未だ不安げな表情で問う。
「じゃ、じゃあ……、俺たちは……、――オオカミだったとしても、俺たちは、――こうして、姐さんに会いに来ても……、姐さんを傷つけたり、苦しめたりは、しないって事ですか……?」
法雨は、それに笑顔で応じる。
「えぇ。勿論」
すると、京は、安堵したように、幼げな笑みを零して言った。
「そ、そっか……。――なら……、良かったっす……」
そんな京は、酷く安堵したようにそう言い、またひとつ、心からの礼を法雨に贈ると――、それからはまたいくつものオーダーを重ねながら、法雨と共に、穏やかな一夜を明かした。
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そうして――、妙に穏やかな夜が、その日の役目を終えようとしていた、明け方の事。
その日は特別と酒が回りやすかったのか――、はたまた、気が抜けてしまったからか――、店で一夜を明かした末にカウンター端で眠ってしまった京に、法雨は、そっとブランケットを掛けてやる。
(――京を起こすのは、店仕舞いが済んでからいいかしらね。――それにしても、考え事は性に合わないタイプでしょうに。――それなのに、アタシの事まで色々考えてくれて、ありがとうね)
穏やかに眠る京に苦笑しつつ、法雨が心の内で礼を告げると――、その背へ、静かな声が言葉を添える。
「――法雨さんを“都合のイイ餌”に出来るとか、――ほんと贅沢な犬ッコロですよね」
そう添えたのは、法雨と共に店仕舞いをしていたユキヒョウ族のバーテンダー――桔流であった。
「ふふ。そうねぇ。――まぁ、もう二度と出来ない贅沢だけど」
法雨は、そんな桔流の言葉に静かに笑う。
法雨が、京たちに“贅沢な思い”をさせてやった“密会”については、彼らが共に雷に救われた後も、その事実がバーの従業員たちに明かされる事はなかった。
そして、それは、法雨の望んだ“理想の未来”でもあった。
――のだが、その望みは、とある晩をきっかけに、法雨を心から大切に想うバーテンダー――桔流に対してだけは、叶わぬものとなったのである。
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