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第二章-4 ルーク・アリスターという男

自室に戻り、アリーシャはソファーに腰掛ける。

侍女のネリーがそっと紅茶をテーブルへ置いてくれた。


「……お疲れでございましょう、姫様」


アリーシャは長椅子に腰を下ろし、膝の上で手を重ねたまま、小さく首を振る。


「いいえ……ただ、混乱して…」


声に、困惑の色が濃く出ていた。

アンナが明るく微笑みながら、アリーシャへ声をかける。


「無理もありませんわ。突然のお話ですもの。

彼の方は子爵位ですし……本来であれば姫様との婚姻ができる方ではありません。

慎重になるのは当然です」


その言葉に、アリーシャの指先がわずかに強張った。

皇女が下賜されるのは、本来爵位の高い公爵や侯爵などの名家だ。

子爵位が選ばれるなど異例どころか、過去記録を遡っても例が無いだろう。


「ですが…」


ネリーは、静かに首を横に振った。


「宰相閣下が推挙なさるほどの方です。

何か、相応の理由があるのだと思います」


その理由がなんなのか、誰にもわからない。

――ふと、ネリーは視線を端に控えるエリアスへの向ける。


「フェルナー様、何かご存じありませんか?」


急に話を振られ、エリアスは一瞬動揺するが、平静を装いながら返答する。


「……詳しいことまでは、わかりませんが」


エリアスは、言葉を選びながら続ける。


「できたお方だとは聞いています。

近頃は、宰相殿の補佐のような役目も任されているとか。

剣の腕もかなりのものらしく、近衛騎士との手合わせで打ち負かしたそうです。

…皇国のご出身かどうかは存じませんが…、他国の情勢にもかなり通じておられると聞いたことがあります」


三人の視線が自然とアリーシャへと戻る。

だが、アリーシャも誰も何も言えなかった。

――しばらくしてネリーは、そっとアリーシャの横に膝をつき、硬く握られた手を両手で包み込む。

アリーシャはネリーに顔を向けた。

包み込まれた手が少しづつほぐれ、熱を取り戻していく。

――少し間を置いてから、低く静かな声で口を開いた。


「……すぐに答えられぬのは、当然でございます。

お気持ちのまま、よくお考えなさいませ。

姫様に、とって何が最善か」


アンナが視線を向ける。


「でも、姫様のお立場を考えますと――」


「アンナ」


ネリーは遮るように名を呼んだ。

声は強くない。

だが、迷いがなかった。


「考えることは、逃げではございません。

考えずに出した答えほど、よほど危ういでしょう」


アリーシャの胸に、静かに言葉が沈んでいく。

そして、ゆっくりと顔を上げた。


「……ありがとう。ネリー、アンナ」


その問いに、アンナは一瞬言葉を詰まらせる。

だがすぐに、いつもの笑顔に戻った。


「いいえ。

ただ……殿方は、目的を持って近づくものです。

疑うことも、身を守る術かと」


(……私はどうすべきなのだろう。気持ちのまま…)


夜は静かに更けていく。

アリーシャの心を置き去りにして。


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