第六章-2 夜の知らせ
それから数日、王城は表向き、何事もなく過ぎていった。
ルークは首都の近郊にあるサムロール領に視察のためジークと数名の騎士を連れて出かけていた。
アリーシャは一人執務を行なっていた。
そして、夕方、政務を終え、居室へと戻ろうとしたところで、一人の文官がアンナへと一通の短い書状を渡してきた。
封は簡素で差出人の名は、記されていない。
だが、内容を見た瞬間、誰のものかはわかった。
西のサムロール領について、急ぎ、姫に伝えるべきことがある。
王配殿下は、現在視察に出ていると聞く。
今は、余計な耳を入れたくない。
夜、庭で――君が案内してくれれば、それでいい。
アンナは、手紙を握りしめた。
宰相に伝える前に、姫様本人が知っておくべき内容かもしれない。
(……わたしが、動くべき)
そう思った時、自分が“誘導されている”ことに、アンナは気づいていなかった。
*
ネリーは、その夜、異変を感じていた。
理由は、はっきりしない。
ただ、カインとサロンで話した後から、アンナの動きがほんのわずかに違う。
声も、態度も、いつも通り。
だが、浮足立っているようにみえる。
「アンナ、姫様の湯の準備は――」
「はい、すぐに」
返事は早い。
だが、どこか上の空だった。
ネリーは、それ以上踏み込まなかった。
確かな根拠はない。
問いただす理由もない。
――それでも。
(……何を考えているの?)
その感覚だけが、胸に残った。




