第五章-6 解ける
その後、二人で執務室へ戻り、ソファに腰掛けると、張り詰めていた空気が、ふっとほどける。
アリーシャは無意識のうちに、大きく息を吐いた。
ネリーとアンナが紅茶を用意してくれる。
「……先ほど、貴方がああ言った時」
ルークは一度、言葉を切った。
視線を外し、慎重に言葉を選ぶようにしてから、低く続ける。
「正直に言えば……嬉しかったです。
皇国のためだといったが、それだけじゃなく、俺が隣に立つことを選んでくれたようで」
胸の奥が、静かに震えた。
あの場で言葉を発した瞬間。
自分でルークを選んだという実感、――それが今になって、はっきりと輪郭を持って迫ってくる。
「……貴方こそ、怖くなかったですか?」
「怖かったですよ。
らしくなかったと思っています」
即答だった。
ルークは、苦笑にも似た微かな笑みを浮かべる。
「だが、それ以上に……貴方が、逃げなかったことが、俺は…」
それ以上は、言葉にしなかった。
それでも、十分だった。
彼はそっとアリーシャの手を取る。
指先が触れ合うだけで、体温が伝わる。
アリーシャは、胸の内で何かがほどけていくのを感じていた。
(……彼は気づいているのかしら。
言葉遣いが変わったことに)
それは、一人の人として。
女性として。
そして、共に歩くパートナーとして、向き合われているという感覚だった。
ルークは、彼女を抱き寄せる。
強さを誇示するでもなく、逃げ場を塞ぐこともない。
ただ、同じ高さで、同じ温度で。
「……アリーシャ。
俺は、君は守られて生きるだけの存在とは思っていません。君だからこそ、想いを貫いていけると思っています」
その言葉は、誓いに近かった。
アリーシャは、静かに頷き、彼の胸に額を預ける。
聞こえてくる鼓動は、落ち着いていて、確かだった。
(……この人も、何かを抱えている?)
なぜ、最初から自分を尊重したのか。
なぜ、疑いも迷いも受け入れようとするのか。
その理由は、まだ語られていない。
けれど――彼が、容易な覚悟でここに立っていないことだけは、わかる。
*
その夜、二人は深く身体を重ねた。
だが、それは義務でも、証明でもない。
確かめ合うように。
触れるたびに、言葉にならない感情を分かち合うように。
求めれば、応える。
喜びを分かち合う。
その一つひとつに、アリーシャは感じていた。
(……大切に、されている。
それは、役割でも、立場でもない)
眠りに落ちる直前、胸の奥に、まだ微かな不安は残っていた。
――ルークが、何を背負っているのか。
けれど、どこかで信じている。
今はただ、この温もりを、確かなものとして受け取ればいい。
夜は静かに更け、二人は静かに眠りに落ちていった。




