第四章-5 緊張途切れて
翌日、国賓たちを見送る場にアリーシャの姿は無かった。
居室に着いた途端、アリーシャは倒れてしまった。
極度の緊張と疲労、ベッドから起きることすら出来なかった。
国賓たちを見送るのはルークと宰相が行った。
太陽が高く上った頃、ネリーがベッドにいるアリーシャへ声をかける。
「姫様、起きられますか?
ご昼食の用意がございますが」
身体を起こし、アリーシャは答える。
「ありがとう、ネリー。今起きるわ」
重たい身体を起こし、トレーにのった軽食を食べる。昨日、部屋に戻ってから朝までの記憶は無かった。
「ルーク様からは、ゆっくりお身体を休めて頂くよう仰せつかっております。」
軽食を食べた後、温かい紅茶を淹れてくれる。
ネリーの選ぶ紅茶はいつもアリーシャの好みのものばかりだった。
紅茶を口にして、ほっと息をつくが、それでも気持ちは晴れない。
「情けないわね、寝ている場合じゃないのに」
本来であれば、来賓の見送りも、ルークと二人で行う予定だった。
それなのに、張り詰めいたものが一気に途切れて、倒れてしまうなんて――アリーシャは不甲斐なさでいっぱいだった。
「そんなことありませんよ!
初めての御公務、ご立派に努めておられましたよ」
アンナが即座に否定する。
「ありがとう、アンナ」
微笑もうとしたが、うまく笑え無かった。
その時、控えめにドアをノックする音がした。
「入りますよ」
聞き慣れた声にアリーシャは顔を上げる。
ドアを開け、入ってきたのはルークだった。
ネリーとアンナは一礼し、気を利かせて部屋を出ていく。
ルークはベッドの端に座ると、短く尋ねた。
「体調は?」
「もう大丈夫です。
ーーごめんなさい。
来賓の方の見送りに行けなくて」
「大丈夫な訳ないでしょう。
昨日あれだけ気を張っていたんです」
声を荒げることもなく、ただ事実を告げる口調だった。
それどころか――
「よく頑張っておられました。
今日は一日、身体を休めてください。」
そう言ってルークは立ち上がる。
「…また、様子を見にきます。」
アリーシャは咄嗟に呼び止めた。
「待って!」
思った以上に大きな声を出してしまい、自分自身も驚いた。
「貴方こそ、全然休んでないでしょう。
今日は早く戻ってきて寝てください」
ルークは目を見開き、一瞬、言葉を失ったように見えた。
そして、ほんの僅かに口元を緩める。
「……それは、夜のお誘いを受けていると取っても?」
想定外の返答が返ってきて、アリーシャは思わず全力で否定する。
「――違います!
…ただ、貴方にも休息が必要と言っただけです!」
真っ赤に赤面するアリーシャの反応が可愛くて、笑みがこぼれる。
「分かっていますよ。
倒れた貴方に無体を働く気はありません。」
そして、ドアをあけ、再びアリーシャへと振り返る。
「今日は早めに戻りますよ」
それだけ言って去って行った。
アリーシャはそっとベッドへ身を沈めた。
頬の熱さはまだ残っている。
でも、早めに戻ると、約束してくれたことが、嬉しかった。




