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皇国のアリーシャ  作者: 岡井チマ
第一部 
13/103

第四章-5 緊張途切れて

 

 翌日、国賓たちを見送る場にアリーシャの姿は無かった。居室に着いた途端、アリーシャは倒れてしまった。極度の緊張と疲労、ベッドから起きることすら出来なかった。

 国賓たちを見送るのはルークと宰相が行った。太陽が高く上った頃、ネリーがベッドにいるアリーシャへ声をかける。


「姫様、起きられますか?ご昼食の用意がございますが」


 身体を起こし、アリーシャは答える。


「ありがとう、ネリー。今起きるわ」


 重たい身体を起こし、トレーにのった軽食を食べる。昨日、部屋に戻ってから朝までの記憶は無かった。


「ルーク様からは、ゆっくりお身体を休めて頂くよう仰せつかっております。」


 軽食を食べた後、温かい紅茶を淹れてくれる。

 ネリーの選ぶ紅茶はいつもアリーシャの好みのものばかりだった。紅茶を口にして、ほっと息をつくが、それでも気持ちは晴れない。


「情けないわね、寝ている場合じゃないのに」


 本来であれば、来賓の見送りも、ルークと二人で行う予定だった。倒れてしまったことが悔しくないわけではない。けれど、それほどまでに昨日は、ずっと気を張りつめていたのだ。


「そんなことありませんよ!初めての御公務、ご立派に努めておられましたよ」


 アンナが即座に否定する。


「ありがとう、アンナ」


 微笑もうとしたが、うまく笑え無かった。その時、控えめにドアをノックする音がした。


「入りますよ」


 聞き慣れた声にアリーシャは顔を上げる。ドアを開け、入ってきたのはルークだった。ネリーとアンナは一礼し、気を利かせて部屋を出ていく。ルークはベッドの端に座ると、短く尋ねた。


「体調は?」


「もう大丈夫です。ーーごめんなさい。来賓の方の見送りに行けなくて」


「大丈夫な訳ないでしょう。昨日あれだけ気を張っていたんです」


 声を荒げることもなく、ただ事実を告げる口調だった。それどころか――


「よく頑張っておられました。今日は一日、身体を休めてください。」


 そう言ってルークは立ち上がる。


「…また、様子を見にきます。」


 アリーシャは咄嗟に呼び止めた。


「待って!」


 思った以上に大きな声を出してしまい、自分自身も驚いた。


「貴方こそ、お疲れでしょう。……今日は、早く戻ってきて休んでください」


 ルークは目を見開き、一瞬、言葉を失ったように見えた。気遣われるとは思っていなかったのか、その表情からほんのわずかに緊張がほどける。


「……それは、夜のお誘いを受けていると取っても?」


 想定外の返答が返ってきて、アリーシャは思わず全力で否定する。


「――違います!…ただ、貴方にも休息が必要と言っただけです!」


 真っ赤に赤面するアリーシャの反応が可愛くて、笑みがこぼれる。


「分かっていますよ。倒れた貴方に無体を働く気はありません」


 そして、ドアをあけ、再びアリーシャへと振り返る。


「今日は早めに戻りますよ」


 それだけ言って去って行った。アリーシャはそっとベッドへ身を沈めた。頬の熱さはまだ残っている。でも、早めに戻ると、約束してくれたことが、嬉しかった。



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