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(WEB版)あなたのしたことは結婚詐欺ですよ【書籍三巻発売中】  作者: りすこ
書籍発売記念~番外編

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62/65

グッドラック ~オリバー船長の酒場語り~ ①

 WEBで応援してくださった皆さまへ


「あなたのしたことは結婚詐欺ですよ」

書籍3巻の発売になります!

お礼を兼ねて、船長の外伝を更新します!


全4話。

船長が酒場で語る昔話です。


それでは、どうぞ!


 よぉ、ブラザー。調子はどうだい?

 おまえさん、初めて見るな。

 ひとりで、飲みに来たのか?

 しけた面をして、どうした?

 酒を飲んで、何かをきれいさっぱり忘れに来たのか?

 

 ……まあ、言いたくなかったら、何も言わなくてもいい。

 そんな日もあるわな。


 それよりもおまえさん、いい酒場に来たな。

 ここの酒はまあまあだし、ツケもきく。

 安心して飲んでいいぞ。な?

 

 がははは!

 

 儂の名前は、オリバー。船乗りだ。

 なあ、ブラザー。

 せっかく隣の席同士になったんだ。

 儂の昔話を聞いてくれねえか。


 なあに。夜明けまでには終わる話だよ。

 

 

 ***

 


 まだ、儂がガキだった頃の話だ。

 儂はなあ。

 海を見てはワクワクしていた。

 あの青い地平線の向こうには、何があるんだと目を凝らしては、その先にあるものをいつも探していたんだ。

 

 大人の真似して、いかだを作っちゃあ、悪友たちと海に飛び出した。

 帆は悪友のパンツで、いかだを結ぶ紐はゆるゆる。

 船とは呼べねえ、玩具みたいな代物だったよ。

 

 でもよお。儂らにとっちゃ、船は船だ。

 いかだに乗って、手で水を漕いだな。


 ――俺たちの初航海だ! 大冒険してやっぜ、グッドラック!

 

 人差し指と中指をクロスさせ、グッドラックサインを太陽に向かって掲げた。

 まあ、全員が立った瞬間に、いかだはバラバラ。

 波に攫われて、あっさり沈没したけどな。

 

 がははは! 笑える話だろう?

 その後がひどくてよ。

 びしょ濡れになって帰ったら、かーちゃんにゲンコツをくらったんだよ。

 

「遊んでないで、狩りの手伝いをしな!」

 

 怒鳴り散らされたけどな。儂はちーっとも凝りなかったんだ。

 いつか海の向こうに行きてぇとは思っていた。


 そんなガキの夢はなあ。

 奴隷狩りという侵略で、かなっちまったんだ。

 

 突然、でっけえ船が海岸についてよ。

 小ぎれいな格好した背の高え白い野郎どもが上陸してな。

 「船に乗れ」と儂らを脅した。


 相手は、長い刃物を持っていてな。

 抵抗する者は、その場で切り殺された。

 

 大人も子どもも、男も女も、関係ねえんだ。


 船に乗るか。乗らないか。

 生きるか。――今、死ぬか。


 儂らには、それしか選択肢がなかったんだ。

 

 儂もまだガキだったからな。恐ろしくてなあ。

 船に乗った。

 

 船には、儂らみたいな人間がおおぜいいてな。

 狭くて臭くて、灯りなんてなくてなあ。

 ぬっとした汗の匂いが体に重くのしかかって、虫の羽ばたく音が耳にまとわりついた。

 

 船が出航すると、儂はえもいわれぬ不安に襲われたもんだ。

 これからどうなっちまうのか。

 体が震えて、か細い息ばかりを吐いていた。

 

 故郷の陸地がついに藍色の線になって、消えちまったときだ。

 誰かが大声で叫んで、そのまま白目をむいて死んじまった。

 ぐるんと上を剥いた目を見て、儂は思った。


 ここは地獄だ。

 死にたくねえ、って。


 儂の初船出はそんな、二度と思い出したくもねえ、記憶から始まったんだ。

 ははは。夢も希望もありゃしねえだろ?

 

 後で知ったんだけどな。

 儂らは商品だったんだよ。

 腕にナンバーの焼き印を押されたしな。

 

 ああ、安心しろ。

 今じゃ奴隷貿易なんて廃止されてる。

 

 お偉い先生が「奴隷貿易は悲劇」なんて言ってるけどよ。

 儂らにとっては劇でもなんでもないな。


 人生の一部だった。


 奴隷狩りにあった後の出来事は、まあ、お察しの通りだ。

 奴隷として連れてこられた島で、儂らはサトウキビを作らされた。

 砂糖を作って儲ける小ぎれいな奴らが儂らを管理してな。

 儂らは豚以下の生活をしていたんだ。

 

 飯はねえ。着るものも、家もねえ。

 医者はいねえ。

 死ぬ奴は多かったよ。

 

 だけどな。

 不思議とそこから逃げ出そうと思わなかったんだ。

 

 すぐそこに海があってよ。

 海に飛び込めば全部、終わりにできるってのに。

 儂はせっせと砂糖が入った袋を船に乗せていた。

 

 何も考えずに、歌ばかり歌ってたよ。

 たまに儂らを管理する奴らの目を盗んで、仲間と踊ったり、酒を飲んでいたりしたな。

 そうそうパンツを帆にした仲間もいてよ。

 そいつとは飲み友達だった。


 仲間とのバカ騒ぎが儂には楽しくてな。

 儂は海を死に場にしなかったんだ。

 

 多くの仲間を見送って、多くの仲間を迎えて。

 そうこうしているうちに、儂らを管理していた奴が変わったんだ。

 

 小ぎれいな野郎は商売に負けて破産したんだとよ!

 がははは! たまげた話だろ?


 ま。儂らはポカーンだったけどな。

 

 それでよ。

 新しい奴は、儂らに妙にフレンドリーな野郎でな。

 自分は商人だと名乗った。

 新しい船に乗って、西の王国に行くと言ったな。

 

「王国はいいところだ! 夢のような大金が手に入るぞ!」


 儂は馬鹿正直に浮かれた。

 砂糖を運ぶだけの仕事じゃなくなるだけで、有頂天だ。

 仲間は大手を振って喜び、残っていた全員で歌いながら船に乗ったよ。


 その船の中で、ぺっぴんさんがいてな。

 そりゃあ、おまえさん。アレだよ、アレ。

 男として、猛烈に口説いたさ。


 ま。相手にされなかったけどな。

 ビンタくらって、おしまいだったなあ。

 その時は。


 商人は気持ちのいい奴ではなかったな。

 結局、元と同じ。

 儂らは奴隷という商品になった。

 

 儂らは全員、言葉もなんにも通じない王国に連れてこられたんだ。


 王国といえば、おまえさんが今いる国だ。

 サイユ王国だよ。

 そして、儂らが来たのはここ、ポンサール領。


 ははは。ここからがすげえ話だ。

 砂糖を運んでいただけの儂が、おまえさんと飲めるまでになったんだからよ。

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