グッドラック ~オリバー船長の酒場語り~ ①
WEBで応援してくださった皆さまへ
「あなたのしたことは結婚詐欺ですよ」
書籍3巻の発売になります!
お礼を兼ねて、船長の外伝を更新します!
全4話。
船長が酒場で語る昔話です。
それでは、どうぞ!
よぉ、ブラザー。調子はどうだい?
おまえさん、初めて見るな。
ひとりで、飲みに来たのか?
しけた面をして、どうした?
酒を飲んで、何かをきれいさっぱり忘れに来たのか?
……まあ、言いたくなかったら、何も言わなくてもいい。
そんな日もあるわな。
それよりもおまえさん、いい酒場に来たな。
ここの酒はまあまあだし、ツケもきく。
安心して飲んでいいぞ。な?
がははは!
儂の名前は、オリバー。船乗りだ。
なあ、ブラザー。
せっかく隣の席同士になったんだ。
儂の昔話を聞いてくれねえか。
なあに。夜明けまでには終わる話だよ。
***
まだ、儂がガキだった頃の話だ。
儂はなあ。
海を見てはワクワクしていた。
あの青い地平線の向こうには、何があるんだと目を凝らしては、その先にあるものをいつも探していたんだ。
大人の真似して、いかだを作っちゃあ、悪友たちと海に飛び出した。
帆は悪友のパンツで、いかだを結ぶ紐はゆるゆる。
船とは呼べねえ、玩具みたいな代物だったよ。
でもよお。儂らにとっちゃ、船は船だ。
いかだに乗って、手で水を漕いだな。
――俺たちの初航海だ! 大冒険してやっぜ、グッドラック!
人差し指と中指をクロスさせ、グッドラックサインを太陽に向かって掲げた。
まあ、全員が立った瞬間に、いかだはバラバラ。
波に攫われて、あっさり沈没したけどな。
がははは! 笑える話だろう?
その後がひどくてよ。
びしょ濡れになって帰ったら、かーちゃんにゲンコツをくらったんだよ。
「遊んでないで、狩りの手伝いをしな!」
怒鳴り散らされたけどな。儂はちーっとも凝りなかったんだ。
いつか海の向こうに行きてぇとは思っていた。
そんなガキの夢はなあ。
奴隷狩りという侵略で、かなっちまったんだ。
突然、でっけえ船が海岸についてよ。
小ぎれいな格好した背の高え白い野郎どもが上陸してな。
「船に乗れ」と儂らを脅した。
相手は、長い刃物を持っていてな。
抵抗する者は、その場で切り殺された。
大人も子どもも、男も女も、関係ねえんだ。
船に乗るか。乗らないか。
生きるか。――今、死ぬか。
儂らには、それしか選択肢がなかったんだ。
儂もまだガキだったからな。恐ろしくてなあ。
船に乗った。
船には、儂らみたいな人間がおおぜいいてな。
狭くて臭くて、灯りなんてなくてなあ。
ぬっとした汗の匂いが体に重くのしかかって、虫の羽ばたく音が耳にまとわりついた。
船が出航すると、儂はえもいわれぬ不安に襲われたもんだ。
これからどうなっちまうのか。
体が震えて、か細い息ばかりを吐いていた。
故郷の陸地がついに藍色の線になって、消えちまったときだ。
誰かが大声で叫んで、そのまま白目をむいて死んじまった。
ぐるんと上を剥いた目を見て、儂は思った。
ここは地獄だ。
死にたくねえ、って。
儂の初船出はそんな、二度と思い出したくもねえ、記憶から始まったんだ。
ははは。夢も希望もありゃしねえだろ?
後で知ったんだけどな。
儂らは商品だったんだよ。
腕にナンバーの焼き印を押されたしな。
ああ、安心しろ。
今じゃ奴隷貿易なんて廃止されてる。
お偉い先生が「奴隷貿易は悲劇」なんて言ってるけどよ。
儂らにとっては劇でもなんでもないな。
人生の一部だった。
奴隷狩りにあった後の出来事は、まあ、お察しの通りだ。
奴隷として連れてこられた島で、儂らはサトウキビを作らされた。
砂糖を作って儲ける小ぎれいな奴らが儂らを管理してな。
儂らは豚以下の生活をしていたんだ。
飯はねえ。着るものも、家もねえ。
医者はいねえ。
死ぬ奴は多かったよ。
だけどな。
不思議とそこから逃げ出そうと思わなかったんだ。
すぐそこに海があってよ。
海に飛び込めば全部、終わりにできるってのに。
儂はせっせと砂糖が入った袋を船に乗せていた。
何も考えずに、歌ばかり歌ってたよ。
たまに儂らを管理する奴らの目を盗んで、仲間と踊ったり、酒を飲んでいたりしたな。
そうそうパンツを帆にした仲間もいてよ。
そいつとは飲み友達だった。
仲間とのバカ騒ぎが儂には楽しくてな。
儂は海を死に場にしなかったんだ。
多くの仲間を見送って、多くの仲間を迎えて。
そうこうしているうちに、儂らを管理していた奴が変わったんだ。
小ぎれいな野郎は商売に負けて破産したんだとよ!
がははは! たまげた話だろ?
ま。儂らはポカーンだったけどな。
それでよ。
新しい奴は、儂らに妙にフレンドリーな野郎でな。
自分は商人だと名乗った。
新しい船に乗って、西の王国に行くと言ったな。
「王国はいいところだ! 夢のような大金が手に入るぞ!」
儂は馬鹿正直に浮かれた。
砂糖を運ぶだけの仕事じゃなくなるだけで、有頂天だ。
仲間は大手を振って喜び、残っていた全員で歌いながら船に乗ったよ。
その船の中で、ぺっぴんさんがいてな。
そりゃあ、おまえさん。アレだよ、アレ。
男として、猛烈に口説いたさ。
ま。相手にされなかったけどな。
ビンタくらって、おしまいだったなあ。
その時は。
商人は気持ちのいい奴ではなかったな。
結局、元と同じ。
儂らは奴隷という商品になった。
儂らは全員、言葉もなんにも通じない王国に連れてこられたんだ。
王国といえば、おまえさんが今いる国だ。
サイユ王国だよ。
そして、儂らが来たのはここ、ポンサール領。
ははは。ここからがすげえ話だ。
砂糖を運んでいただけの儂が、おまえさんと飲めるまでになったんだからよ。




