36.答えません、そうだよな。
本年もお疲れさまでした。
よいお年をお迎えください!
歓迎会なのか、懇親会なのか、知らないし興味もないどうでもいい酒飲みへの出席は謹んで辞退させていただいた。正直、そこまでの余裕がないというのが現状なのだが。
「あー、もうしんどい」
ベッドへ横になりながら愚痴を零す。暴走した魔力を抑え続けながら、何とか副団長たちが滞在している部屋に辿り着いた。その頃には放出を続けていた雷も落ち着いていた。
「体力的にも精神的にも限界だー」
「ここまで堕落している琴音も珍しい感じが」
「それだけ消費が激しかったのでしょう。私から見ても、あれは異常でした」
あれは俺にとっても予想外の出来事だった。仮に部屋の中の異常に気付いたとしても政治的な理由で表面上は怒りを抑えていた思う。なのに力が暴走した。考えられる理由は一つだけなのだが。
「琴音様。あのようになった心当たりはおありですか?」
「さっぱり分からない」
心当たりはあるが、それを誰かに相談できるはずもない。俺の中には別の少女が同居していると話せるわけがない。正気を疑われてしまうのが妥当だろう。
「動くのもしんどいけど、現状の把握をしようか。よいっしょと」
「この大部屋に関しては盗聴や諜報の心配はないですね。一通り調べましたので」
「調べたのは私なのですが、その件は置いておきましょう。それで琴音様。現状の把握とは?」
「一つ、帝国側は手段を選ばない。二つ、私の獲得も狙っている。三つ、彼は手遅れ。四つ、主犯を突き止めるのは不可能。五つ、こちらはひたすらに後手に回る」
「いい情報がないですね」
「私を琴音様から引き離す計画もあったかと思います」
一番面倒なのが政治的判断を求められることだ。それがなければ暴走を抑える必要もなく、あのあたり一帯を吹っ飛ばしていただろう。でも、ミサさんにも被害がいくか。上手く逃げそうな気はするけど。
「外交官になったのを後悔しそう。相手が好き勝手出来るのに、こっちが制限受けるとかストレス過多」
「国同士の諍いとなれば、致し方ありません」
「副団長殿は一切考えて動いていないと報告しておきます」
「減給は勘弁してください。これ以上減らされると生活が」
自国でも好き勝手やっているのだから、副団長の給料は減らされるばかり。俺も訓練場を半壊させたから罰を受けているのだが、それでも副団長よりはマシだな。
「言質でも取れれば、やりようはあるかな」
「琴音様もあまり無茶をされないでください。今回の件もありますので」
「あれは私でも制御できないからどうしようもない。次も抑えられるかどうかも不明。いやはや、中々に厳しい状況で」
「他人事みたいに言わないでください。報告するのが私の義務なので、今回の件も正確に伝えなければいけないのですから」
「だったら、私はまだ何もしていないので」
どれだけ給料減らされているんだよ、副団長は。そういえば、私生活とか全然知らないな。訓練場では頻繁に会ってはいるけど。仕事中毒なのかと思ったが、私用に使えるお金がなかったのか。
「しかし、どうしたものかな」
自分で力の制御が出来なくなるとか死活問題だよな。一応、頭の中で内側の琴音に語り掛けてみたのだが、一切の応答はなかった。話せないのか、それとも無視されているのか。勘では後者だな。
「私の問題はひとまず置いておいて。彼の所は?」
「執事は追い返されてしまったようです。それと、やはり彼の部屋でも甘い匂いが漂っていたと報告が。そこまで濃度は高くないでしょうが」
「そうだね。懇親会があるのに媚薬効果を最大にはできないだろうけど。終わった後はヤバそうかな」
大事を取って、彼についていた執事さんは別室に移ってもらっている。執事さんまで暴走して俺達に襲い掛かってきたから困るから。琴音がキレたら部屋が消滅するぞ。
「ここまで強引な手段を取ってきたのは予想外だったけど。こっちの警戒が足りなかったか」
「国際問題すら無視するような手段を取るのは想定外すぎます」
「それならこっちも無視していいのでは?」
「副団長。あちらがやったからこちらもは戦争案件に発展しますので自重してください」
「はい」
ミサさんの鋭い眼光によって副団長が小さくなった気がする。やっぱり怒らせると怖いんだろうな。それと給料という金銭を握られているからか。
「先制は相手の勝ち。こっちはただやられただけというのが気に食わない」
「とは言われますが、我々にできることなど」
「うん。明日の交渉の席もあるから、下手な手は打てないし、相手の心象を悪くするのは駄目。八方塞がりなのは変わらない」
これでお互いの手札が互角ならまだやりようはあったかもしれない。だけど、今回はこちらがすでにマイナスの状態だから迂闊に動けない。
「せめて、何かしらの収穫があればいいんだけど」
懇親会もそこそこに時間が経過したかな。それなのに、食事すら持ってこないのはどういうことなのか。何かしら盛られている可能性もあるけど、それは証拠として残る。匂いの様に換気して消えるようなものじゃないから、相手も露骨には使ってこなそうだけど。
「誰かが来たようですね。私が対応いたします」
部屋のドアがノックされた音がしたので、ミサさんが対応に出てくれたのだが。扉を開けた段階で困った顔をしたのは何でだろう。大抵の相手ならいつもの表情なはずなのに。
「どうぞ。部屋の中には琴音様と近衛の副団長がおられます」
「すまないわね。このような扱いで」
随分と立派な格好をした女性が入ってきた。懇親会の最中だから女性はドレス姿だと思っていたのだけど、やってきた人は仕事着といった格好。しかも着慣れているし、様になっている。
「この度は我が国の者たちが失礼な真似をしてしまってすみませんでした」
「認めて良かったのですか? 私はこの件を無かったものとしたはずですが」
「それでは我々の誠意がないことになるわね。せめて、私だけでも罪を認めないといけないわ」
謝罪こそ丁寧だったが、その後はフランクな感じで話しかけてくる。あの出来事を認めた時点で帝国内での地位は高いのだろう。あとはフォリアさんの上司かな。隠したい人物ならこうやって謝罪に来ること自体不自然だから。
「名乗りが遅れました。帝国の第三姫、アストライアと申します」
これはまた大物が乗り込んできたことで。後ろにフォリアさんがいるということはこの姫様も穏健派だと思って大丈夫だろう。なら、他の連中よりは話が通じるかな。
「如月琴音です。異世界からやってきた勇者であり、外交官を担当しております」
「あっ、立ち上がらなくても大丈夫よ。随分と消耗していると聞いているから」
その言葉は助かった。流石に王族相手に寝ながらの対応は失礼だと思って立ち上がったのだが、それでも軽くふらついてしまった。思った以上に消耗しているのか。
「幾らかの食事を会場よりパクって来たから、一緒に食べない?」
「流石フォリアさんの上司。王族なのにここまでフランクなのはこっち並かな?」
「どういう意味かなー?」
「立場のある人間にしては軽いという意味だよ」
フォリアさんに返しておいたが、どうにも私の周りに集まる地位のある人は立場を気にしない人が多いような気がする。こちらとしてもその方が接しやすいから助かるけど。
ここでの食事会がどうなるのかは全然分からない不安はある。それでも、縁を築いておいて損はない人物だと思う。あくまでもファーストコンタクトの段階でだけど。
来年は更新頻度を上げようを目標にします。
本気で今年は殆ど活動していないようなものでしたからね。
活動頻度上げるとネタも増えそうな気がしますけど。
それでは、今年も大変お世話になりました。
来年も何卒よろしくお願い致します!




