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「大変そうだね、フィーリア嬢。でもできることなら、そこの3人ではなく私を選んで欲しい」
「その声は。隣国からの平民の留学生ジークとは仮の名、その実態はリディヤード皇国の皇太子たるフリード・フォン・リディヤード殿下ではありませんか」
「さすがスティーブン君だね、未来の宰相さまという噂は伊達ではないようだね。君に隠し事など無理のようだ。説明的なご紹介いたみ入る」と人込みを掻き分けて壇上によじ登ってきたその人は、勝手にフィーリアの手を取り、そっと指先に唇を寄せた。
「第2王子とはいえ、同盟国の王子の婚約者であった貴女に愛を乞うことはできないと思ってこのまま秘めていようと思っていた。しかし、それが破棄された今、私は諦めたくない──ずっと貴女を見ていたんだ」
「皇太子さま…」
「フィーリア嬢、貴女が、あの王子の食べこぼした滓をやさしくふき取っていた時も、忘れた教科書を隣の教室に借りてそっと出す手も、ハンカチを持たずに手を洗ってビショビショになった手をズボンでそっと拭こうとしている王子にそっとハンカチを差し出す様も、実技の授業で着替えた胴衣の背中から飛び出したシャツをグイっと直す手慣れたしぐさも。。そのすべてのやさしさを。ずっと見ていたんだ。私にも、してほしいって」
──あ。これ、ダメな人だ。
パーティー会場にいるすべての人の心が再び一つになった。
「どうか、私の妃となり、私の面倒を一生みてくれないだろうか。王妃いやいっそ女王としてでもいい。マイラブ」
ダメな人ではない、めっちゃダメな人だった。
「おーっほっほっほ。フィーリア嬢に、こんな変態はふさわしくありませんわ」
「貴女は、西の果てにあるというなんとか女王国のなんとかっていう次期女王様!」
「なんとかってなによ、アンクレカム・ディ・ディエリ・アーリントン・スーフェンって名前があるのよ」
「失礼、長くて覚えられなくて。見目麗しい女性なのにどうしても私のライバルにしかならない匂いがして」さわやかな笑顔でスティーブンが謝る。もちろんその言葉に謝意は篭っていない。
「スーフェン女王国の国名すら1文字も言えなかったくせに長いも何もあるかっつーの。頭良かったんじゃないの? まったく適当なんだから。これだから男って嫌なのよ。フィーリア嬢、私の后になって、女同士、平和に暮らしましょう?」
「わんわんわわん、わわんわんだわん」
「うわぁっ。警備の者は何をしてるんだ。近所の犬が入り込んでるぞ」
「ちがうにゃ。僕は幻の獣人族の長の子、わん太だにゃん」
「わんわんいってたのに語尾はにゃんで、名前はわん太なのか。犬人なのか猫人なのか」
「人の子は目も頭も悪いのにゃ。僕はどう見たって馬族だわん。フィーリア嬢、さあ僕の背に乗ってあの夕日にむかって走り出すにゃん」
「意味わからん」
「いや、フィーリア、大輪の花のようなお前は妖精王たる俺の国で、この俺に守られて暮らすのだ」
「妖精王さま、ちーっす」
「我が花嫁として、ともに世界の覇者となろう」
「えーっと、誰だろう。世紀末覇者かな。あ、わかった魔王様?」
「わかってないじゃん。泣くぞこら」
「もう我慢できない。フィーリアちゃん、毎朝君の好きなパンを焼くよ。だからオジサンのところに」
「学園前のパン屋のオッサンじゃねーか。お前、身分とか歳とかいろいろ考えろ」
「フィーリア様、僕の手を取ってください」「私を選んで」「どうぞその栄誉を私に」
我も我もとこの会場にいるすべての手が差し出される。
──唐突にはじまったこの婚約破棄劇には、求婚者が多すぎた。
「えー。皆がそういうなら、やっぱり僕もフィーリアに」
「「「サリオ、お前にだけは最後までいわせん」」」
「…私は、毎朝、オジサマの作った焼き立てパンを食べたいです(ポッ」