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そしてあなたとハッピーエンドを目指そう

「君の命が消えるその瞬間になってようやく、私は全てを思い出すんだ。王族の運命の相手は、生涯でただ一人。なのにその運命の相手をこの手にかけてしまって、何度も何度も絶望する。でも私には時を戻す力があるからね。失ってしまったのなら取り戻せばいい。だから時を戻した。でもその度に私は偽りの記憶を植え付けられてしまって君を忘れてしまう。数えきれないほどやり直して……やっとこうして、君に会えた」


 さあ、と差し伸べられる手が怖い。


 怖い、怖い、怖い。


 助けて!

 ――ルゥ!


 ぎゅっと目をつぶる。


 グリードが一歩踏み出す気配がする。


 けれど、急にその圧がなくなった。

 そして嗅ぎ慣れた匂いに包まれる。


「すみません、シア。遅くなってしまいました」

「ルゥ!」


 見上げる私の瞳に映る、金色の瞳。

 グリードと同じ色なのに、暖かさを感じる、太陽の色。


 ルゥ、来てくれたの?


「羽化したばかりだからと思って手加減してたらちょっと手間取ってしまって。……大丈夫ですか? 怖いことはされていませんか?」

「ルゥが来てくれたから、もう怖くないわ」

「それなら良かった」


 安堵に体の力が抜ける。

 大丈夫。

 もう大丈夫。

 だって、ルゥがそばにいるもの。


「私の運命から離れろ!」

「うん……? (つがい)ということでしょうか? でもシアと君の間に運命の糸は結ばれてないですけれど」

「そんなはずはない!」

「だってほら。擦り切れていますよ」


 ルゥが私には見えない糸をすくう。

 それを見たグリードが金の瞳を驚愕で見開く。


「君の言う通り、かつては運命の糸が結ばれていたのかもしれないけど……。ここまで擦り切れるなんて、どれほど運命を捻じ曲げたんでしょう。しかもシアに残った糸なんて、もうこの小指の一巻きだけだ」


 ルゥが私の左の小指をやさしく撫でる。


 その時、フッと心の中の重石がなくなった気がした。


「ほら。これでもう、シアと君の間には何もなくなった」


 その言葉に、私はルゥを見上げる。


「それなら……もう、繰り返さなくてもいいの?」

「シアの運命はもう君自身のものだよ。新しい運命を望むこともできる」

「新しい運命……?」


 それならば。

 もう、繰り返さなくてもいいのだろうか。

 殺されて、また新たな生をやり直さなくても済むんだろうか。


 私はグリードから解放されるんだろうか。


「認めない! アデラは私の妻になる人だ。他の奴になど渡すものか!」


 そう激高するグリードから、金色のオーラが放たれる。

 圧迫されるほどの威圧に息が止まる。


「こんなところで竜気を出すな! シアはまだ雛なんだぞ!」


 初めて聞く、ルゥの怒った声。

 グリードとそっくりな金のオーラがルゥの体から立ち昇り、グリードへと向かう。


 一瞬グラリとよろめいたグリードは、すぐに態勢を整えてルゥを睨みつけた。


「渡せ! 私の物だ!」

「……羽化したばかりで竜気のコントロールができないのかな。仕方ない。……シア、ここで待っていてくださいね」

「ルゥ、行かないで」


 震える手でルゥの服をつかむ。


 一人になってしまって、もしルゥのいないところで死んでしまったら――

 もしかして、またやり直さなくてはいけなくなるんだろうか。

 ルゥと出会う前の、あの私になって。


 恐ろしい想像に、血の気が引く。


 もうこれ以上のやり直しは無理だ。

 正気でなんて、いられない。


 102回目の私は、きっともう狂ってしまって、私ではない私になる。


 ……それは確かな予感だった。


「大丈夫だから」


 絶望する私に、優しい声が降りてくる。

 そして――


「お守り。だからここで待っててくださいね」


 額にそっと口づけられる。

 そこからほのかな温かさが全身を巡った。


「心配しないで。すぐ戻ってきますから」


 そう言うと、ルゥは私から離れてグリードの腕を取った。


「殺してやる! お前など殺して、アデラを取り戻してやる!」

「……シアは君のものじゃない。それに羽化したばかりの君になんて――負けないよ?」


 そしてそのまま洞窟の外へと人の姿のままで飛ぶ。


 その直後、凄い風圧が私を襲い――


 慌てて洞窟の外を見た私が見たのは、空を舞う、二頭の黄金竜だった。


 二頭は激しくぶつかりあいながら、相手の首に噛みつこうと狙っている。

 ぶつかっては離れ。

 離れてはぶつかって。


 幾度も繰り返すうちに、一頭の動きが悪くなってきた。


 疲れてきた方がグリードよね。

 ルゥ。がんばって!


 見守る私の前で、ルゥらしき黄金竜がひときわ大きく輝いた。

 そしてもう一頭に体当たりする。


 その瞬間。

 黄金竜たちの周りで、光が爆発した。


 眩しくて目を開けられなくなる。

 しばらくしてから目を開けると、そこには黄金の竜が一匹。


 残った竜は、何度か空を旋回した。

 そしてゆっくりと下降して洞窟の入り口に降りる。


 金色に輝く金の瞳の竜。

 ルゥとグリードはそっくりな姿だったけど……。


 でも、私には分かる。


「お帰りなさい、ルゥ」

「ただいま、シア」


 大きな竜の体に駆け寄り、しがみつく。


 ルゥ、ルゥ、ルゥ。

 無事に戻ってくれて嬉しい。


 ひんやりとした鱗に頬を寄せる。


 本当に良かった……。


「グリードはどうしたの?」

「ああ、あの羽化したては、元の世界に送り返しました。竜気を使い果たしたから、もうこっちには来れないんじゃないでしょうか。だから、シアがもう会うことはありませんよ」


 もう、会うことがない?

 じゃあ……私はこれで、グリードからは完全に解放されたの?


 信じられない思いでルゥを見上げると、金色の瞳が優しく瞬いた。


「シアはもうこの世界の雛ですから。この世界は新しい雛を歓迎しています」


 大きな金のドラゴンの姿が消え、そこには人の姿のルゥがいて私を強く抱きしめてくれる。

 ドラゴンの時と違って、そのぬくもりは暖かい。


「あれは多分、私の前にこの世界に愛されていた金色の血筋でしょう。世界の(ことわり)では、金色はただ一つだけなので、前の金色は亡くなったか、更に他の界へ渡ったか……」

「金色のドラゴンは一匹だけなの?」


 でも黒さんは、そんなこと言ってなかったけど……。


「黒いのは大雑把ですからね。興味のないことは覚えていないのでしょう。魔力溜まりから生まれるドラゴンは、一つの界に一匹しか存在できないのです。そうでないと界の均衡が崩れてしまう」


 私の疑問に、ルゥはそんな答えを返した。


「羽化したてはもうこの世界に金色として認識されたから、竜気が回復したとしても二度とこの世界に入ることはできないと思います。シアにも金色の血が入ってますよ」

「――え?」

「だから雛だって言ってるじゃないですか」


 金色の血が私とグリードに入っている……?

 そういえば、王国の祖は魔族を倒した英雄だ。もしかしてそれは、金色のドラゴンだった?


 だとするならば、グリードは先祖返りでドラゴンの力を持っていたんだろうか。

 そしてその力は、私にもある……?


 それなら私も……ドラゴンになれる……?


「う~ん。シアが羽化するには、1000年ほど必要かもしれませんね」


 残念。

 でも、いいわ。


 私の人生は、これでちゃんと終わることができるのだから。







 こうして私の人生は、101回目の巻き戻りでハッピーエンドを迎えた。














 え、ちょっと待って。

 繰り返した生でとっくに1000年分カウントされてたなんて、聞いてないんですけど!


 ルゥが口づけたところから羽化してるって、どういうこと!?



大変長らくお待たせいたしましたが、完結しました。


ずっとお待ちいただいた皆様に感謝をこめて。

このお話を読んでくださって、ありがとうございます!

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