変人と変人と変人
何故か試験を突破し、勇者パーティーに選ばれてしまった俺は、イグザムに連れられ、勇者パーティーのメンバーが待つ部屋へ向かっていた。
そこには、すでに加入が決まっている四人が待っているらしい。
「それでは、扉を開けてください。皆さんには、次にこの扉を開ける者が勇者パーティーの五人目のメンバーになると伝えてあります」
「なんか緊張するな……」
高鳴る鼓動を感じながら、俺は扉に手をかける。
そして、扉を開けた瞬間――真っ先に聞こえてきたのは、
「ジェン」
俺の名を呼ぶ、ウィークの声だった。
その声には、俺がここへ来たことへの驚きなどは一切なかった。
いつもと変わらない、優しい声。
「……ったく。Z級スキルの俺が、奇跡的に勝ち上がってここまで来たんだから、もう少しくらい驚いた声を出せよ」
「どうして驚く必要があるんだい?最初に言ったじゃないか。信じてるって」
そう言い切るウィークの瞳には、一切の迷いがなかった。
本当に彼は、俺が他の候補者たちを押しのけてここまで来ると、最初から信じていたのだろう。
「では、準備が整い次第、再び声をかけに来ますので、少々お待ちください」
そう言って、イグザムは部屋を後にした。
「なんだか彼、さっきよりも少しだけスッキリしたような顔をしてるね?」
「そうか? まあ……そうなのかもな」
そんなやり取りをしていると、後ろから少女のため息が聞こえてきた。
「はあ……あの眼鏡の人は負けちゃったんですか。残念です〜」
実は、彼女はウィークと話している間も少し気になっていた存在だった。
理由は単純。彼女の格好が、この場にいる誰よりも目立っていたからだ。
「これも神のお導きということなら、仕方ありませんね……」
そう言って祈りを捧げる彼女は、長い丈の黒いワンピースに頭巾を身につけ、首元には十字架のロザリオを下げていた。
どう見ても、修道女そのものだ。
他の三人が比較的普通の格好をしているだけに、余計に目立っている。
「君は……修道女さん?」
そう尋ねた瞬間、彼女の目が輝いた。
そして、勢いよくこちらへ近付いてくる。
「よくぞ聞いてくださいました! そう、私の名はジャクシヤ・ルマネ!神に仕える神聖なるシスターです!」
両腕を大きく広げ、堂々と言い放つ。
……なんだろう。
俺の中にある修道女のイメージとは、少し違う気がする。
「あれ、君は本物のシスターじゃなかったよね」
ウィークが不思議そうに呟いた。
「ウィークさーん!ネタバラシが早すぎますよ〜! もう少しシスターやりたかったのに〜!」
「えっ……シスターじゃないのか? その格好で?」
「気持ち的にはシスターですよ!」
「……一体どういうことなんだ?」
困惑する俺に、彼女は胸を張って答える。
「では説明しましょう! まず貴方は『紅月の竜』という作品をご存知ですか?」
「あー……なんか聞いたことあるような?」
内容までは詳しく知らない。
確か、かなり人気のある娯楽小説だったはずだ。
「『紅月の竜』!それは世界を脅かす竜を倒す為立ち上がった勇敢な四人の勇者が旅をする激熱ストーリー!」
目を輝かせながら彼女は語り出す。
「そして、その作品で一番可愛くて一番魅力的なのが、勇者の一人、ディアちゃん!彼女はドラキル冒険団を支える回復役で、笑顔が可愛い清楚なシスターなのです!」
「シスター、ってまさか……」
「そう、私はそのディアちゃんが、ビッグラブで憧れそのもの!よくコスプレしてディアちゃんごっこをしていたものです。そんな中迎えたスキル授与式!私はなんとS級スキル『物真似が上手くなる能』を手にして勇者パーティーへの勧誘まで頂きました!そして当然思うわけです。――これは、私がディアちゃんになるお告げだと!」
「おいおい嘘だろ……まさか、そのディアちゃんごっこをする為に勇者パーティーに参加したのか!?」
「もちろん!私は、ずっと思っていたのですよ……娯楽小説のストーリーに登場するキャラクターのようなワクワクする人生を送ってみたいと!それでもしなれるなら私が大好きなディアちゃんのようになりたいと!」
語る彼女はどんどんテンションが上がっていく。
「そんな私が勇者として選ばれて魔王を倒す冒険に出れるなんて最っ高に"劇的"なイベントを逃すわけないじゃないですか!」
この女にとっては、勇者パーティーとして魔王に戦いを挑むことも自分のロールプレイごっこの一環でしかないのだ。なかなかにイカれている。
「あーあ。もうこの話聞くの二回目っすよ。同じ長い話を二回だなんて、集中力持たなくて聞いてられないっす」
後ろで別のオレンジ髪の女が頭を掻きながらボヤいた。
「いいじゃないですかドレナさん!ほら、ドレナさんも見ましょうよ紅月の竜!」
「長ったるい物語なんて見てらんねえっす。私が読める小説は数ページで終わる短編集だけっす〜こっちの方がドーパミンがドパドバっす」
「そんなぁ〜」
どうやらこのドレナという少女はかなり気が短いらしい。
なんだか勇者パーティーのメンバーは癖が強い人達が多いな……
「もう。ドレナちゃんったらそんな言い方しなくていいじゃないの」
今まで静観していた、最後の一人が口を開いた。
彼女は茶髪の長い髪をたなびかせており、ルマネとドレナは同い年ぐらいに見えたが、彼女は二人よりも大人びていて、少し年上に見える。
「わーん、アグレさん〜!」
「よしよし、私も後でその小説買って読むからね」
ルマネの頭を撫でるアグレという女性。
ようやくまともそうな人物が出てきた。
「ふふふ……ふふふ……」
おや、なんだか撫でているアグレの様子が少しおかしい。
「好きな小説を勧めても一蹴されちゃうルマネちゃん……可哀想で、かわいい……」
「いたい!いたいですアグレさん!私の頭を握りしめないでください!アグレさん!」
「あら、ごめんなさい。つい」
「な、なんだ今のは……」
「気を付けた方がいいっすよ。あの人まともそうな顔しておいて、とんでもないキュートアグレッション持ちの変態っすから」
「キュートアグレッション?」
聞き慣れない言葉に戸惑っているとアグレがこちらを見た。
「可哀想はかわいい。そしてかわいいものは握り潰したくなる……これって普通の感性じゃないのかしら?」
「違いますよ〜!」
慌ててルマネがアグレから離れ、ドレナの後ろに隠れながらフーッフーッと警戒している。
……どうやらこのパーティー、まともなのはウィークだけらしい。
「それより、あなたの自己紹介を聞かせてもらっていいかしら?ウィークが推薦した子なのよね?」
「ああ。俺はゴート・ジェン。スキルはZ級の全能無敵絶対確殺だ」
その自己紹介に一瞬場が静まり返る。
「Z級……って、聞いた事ないけどD級より下ってこと?」
「そんなスキルでよくここまでこれたっすね。私が適当に推薦したオズキ君もA級だったのに」
「たまたま。運が良かったんだよ」
「運で何とかなるようなもんですかね〜?」
「だから言っただろう?ジェンは実力があるんだ」
ウィークが誇らしげにしている。まさか、俺が来るまでの間、ずっと俺の話をしていたんじゃないだろうな。ウィークなら有り得る。
「っていうか、ゴートってあのゴート家ですか?だとしたら結構良いとこの家……っていうか貴族じゃないですか!」
「まあな。俺の家も一応は貴族だ。ただ、貴族の中じゃ下の方だけどな。……っていうか、それで言ったらウィークの方が大きいだろ。ダストレア家なんだからさ」
そう、ウィークの家系であるダストレア家は貴族の中でも上流の階級。誰もが一度は聞いた事あるような大貴族だ。
「……」
あれ。ウィークが何やら気まずそうに目を逸らしている。まさか……
「だ、ダストレア家!?ウィークさん、そんな良いとこの出だったんですか!?」
「なんか苗字を名乗ってないと思ったら、マジっすか……」
「あらあら……」
「……まさか、言ってなかったのか?」
「驚かせてしまうと思ってね」
「あっあの、無礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでしたぁー!!」
ルマネが全力で頭を下げた。
「いいんだよ。家の事なんて何も気にしないで、普通に接して欲しい。同じパーティーの仲間じゃないか」
ウィークは誰に対しても優しく、身分の差など気にしない。タメ口をきくといった多少の無礼なら何も気にしないだろう。
「……いいんですか?テーブルに置いてたお菓子ほとんど私が食べちゃって、最後の食べかけクッキーを渡そうとしちゃったのも許してくれるんですか?」
「いや、思ったより無礼なことしてるな」
「はははっ、良いんだよそれくらい」
ウィーク、これは多少気にした方がいいと思うぞ。
「ウィーク本人もこう言ってるし、気にしないことにするっす」
「改めてよろしくね〜ウィークちゃん。そしてジェンちゃん」
いきなり大貴族を呼び捨てにしたり、ちゃん付けしたりする二人。どうやらこのパーティー、図太い奴が多いらしい。
「ああ、よろしくな」
「……」
「ウィーク?」
何やらウィークが少し目を開いたまま黙っている。
「……ああ。いや、なんでもない。こちらこそ、よろしく頼むよ」
……さて、それにしても。
「ああ、そろそろ祈りの時間です!ああ神よ!名前は知らないですけどなんかの神よ!今ここに新たな仲間達が集えた事に大いなる感謝を!ゴッドセンキュー!」
「うるさいっす〜!近くでいきなりデカイ声出すなっす〜!」
「あぁ……鼓膜を完全に破壊されちゃったドレナちゃんかわいいっ……」
「勝手に人の聴覚を終わらせないで欲しいっす!まだ聞こえてるっす〜!」
またしてもギャイギャイと騒ぎ出す三人。
……これから俺は、本当にこの変わり者揃いのパーティーで魔王討伐に行くのか?




