第1話:【プロローグ】最恐の姫は、震える少女に甘い毒(キス)を落とす
ちょいエロラブコメスタートです!
苦手な方は申し訳ないです。
今までと全く違うジャンルですので表現厳しかったら修正します。
すべてが凍りつき、純白の結晶に覆われた深夜の図書室は、まるで神の造りたもうた巨大な宝石箱のようだった。
静寂だけが支配する空間。
空気中を舞うダイヤモンドダストが、窓から差し込む紫色の月光を乱反射して、凶器のような美しさでキラキラと瞬いている。
数秒前までここを蹂躙していた、泥濘の怪異たちが撒き散らしていた悪臭も、醜悪な水音も、今はもう存在しない。彼らは塵一つ残さず氷砕され、絶対零度の世界へと霧散させられていた。
圧倒的な、そして暴虐的なまでの『浄化』。
その奇跡の中心で、白鐘の姫は、まるで退屈な散歩を終えた貴婦人のような優雅さで佇んでいた。
カツン。
純白のヒールが、氷結した床を叩く。
その小さくも鋭い足音が、静まり返った密室に、死の秒針のように響き渡った。
姫の足元から、そして彼女の抜けるように白い肌から、目に見えない強烈な「気」が立ち昇っている。
それは、周囲の空気を瞬時に凍らせる凶悪な冷気でありながら。
同時に、嗅ぐ者の鼻腔を突き抜け、理性を根こそぎ奪い去る、酷く甘く、濃密で、むせ返るほどに扇情的な香水の匂い――いや、大妖怪としての『雌のフェロモン』だった。
「…………」
壁際にへたり込んだままの図書委員、八束綾は、声を発することすらできず、ただ小刻みに震え続けていた。
怪異に襲われた恐怖だけではない。彼女の視界は、分厚い眼鏡を失ったことでひどくぼやけている。
だが、それでもはっきりと分かる。
自分に向かってゆっくりと歩み寄ってくるあの白銀の美女が、先ほどの吸精鬼など比較にならないほど、恐ろしく、巨大で、そして抗いがたい引力を持った『捕食者』であるという事実が。
カツン、カツン。
近づいてくる。
姫が一歩距離を詰めるたびに、あの危険な甘い毒の匂いが、津波のように綾の全身を飲み込んでいく。
escape。
本能が、激しい警鐘を鳴らしている。
土蜘蛛という妖怪の血を引く綾の魂が、目の前にいる存在――『蛇』という絶対的な天敵を前にして、悲鳴を上げているのだ。捕まれば、喰われる。身体のすべてを、魂の奥底まで、残さず彼女の色に塗り替えられてしまう。
しかし、綾の身体は一ミリも動かなかった。
恐怖で硬直しているのではない。
姫から放たれる圧倒的な美しさと、脳髄を麻痺させる甘い匂いに、身体中の神経が「快楽」を覚えて、自ら服従の姿勢を取り始めてしまっていたのだ。
男の人が怖い。化け物が怖い。
そんな綾の心にこびりついていたトラウマすらも、姫の放つ強烈なフェロモンが、真っ白な雪で覆い隠すように消し去っていく。
――あぁ。なんて、綺麗なんだろう。
綾の思考が、ドロドロに溶け出していく。
呼吸が荒くなり、恐怖で冷え切っていたはずの身体が、内側からカッと熱を帯び始めた。息を吸い込むたびに、姫の匂いが肺を満たし、血液に混ざり、全身の細胞を甘く痺れさせていく。
やがて、カツンという足音が、綾の目の前でピタリと止まった。
見上げると、そこには、この世のすべての美を凝縮したような完璧な顔立ちがあった。
月光を浴びて輝く白銀の髪。そして、燃えるような金色の瞳。縦に細く裂けた、残酷で美しい蛇の瞳孔。
それが、至近距離で、逃げ場のないほど真っ直ぐに綾を射抜いていた。
「……ひっ……」
綾の口から、引き攣ったような、けれどどこか熱っぽい吐息が漏れた。視線が交わった瞬間、熱い杭を脳天に打ち込ま込まれたような、強烈な衝撃が走る。
姫は、優雅に膝を折ると、白く透き通るような冷たい指先を伸ばし、綾の顎をそっと掬い上げた。
抵抗することなど、許されない。強引に、しかし壊れ物を扱うような奇妙な優しさで、綾の顔が上を向かせられる。
姫の冷たい指先が肌に触れた瞬間。綾は、そこから火が点いたように、全身の血が沸騰するのを感じた。
「怯えているの? 可哀想に。震えて、すっかり怯えきって……本当に可愛いわね」
姫の赤い唇から、妖艶で、どこまでも甘い声がこぼれ落ちる。
その声を聞いただけで、綾の下腹部の奥底が、キュンと痛みを伴って熱く疼いた。
自分が「狩られる側」の小動物であり、目の前の美しい怪物が、自分をどう料理してやろうかと品定めしている。その絶対的な力関係が、綾の理性を完全に破壊し、雌としての根源的な服従本能をむき出しにさせていく。
姫の金色の瞳が、スッと細められた。視線が、綾の頬から、無防備に晒された白い首筋へと這うように降りていく。
「せっかく私が助けてあげたのに、あなたの体からは、まだあの不快な泥の匂いがするわ」
姫の声に、嗜虐的な愉悦と、逆らうことを許さない絶対的な支配欲が混じる。
男であった清春の「彼女を守りたい」という小さな庇護欲は、姫という大妖怪の器を通したことで、残酷なまでの「独占欲」へと変換されていた。
自分が助けた獲物。自分が気に入った玩具。
それに、下等な虫けらどもの匂いが微かにでも残っていることが、姫の傲慢なプライドをひどく刺激していた。
「……癪ね。私の瞳に映るものが、私以外の色に染まっているなんて、許せない」
姫の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
吐息が触れ合うほどの至近距離。姫の唇は、熟れきった毒林檎のように赤く、艶やかで、妖しい色気を放っていた。
「私が、印を刻んであげる。……光栄に思いなさい」
「え……? ん、……あっ、んんっ!?」
言葉の意味を理解するよりも早く。
姫の端正な顔が傾き、次の瞬間には、綾の唇は、熱く濡れた感触によって完全に塞がれていた。
――深い。
触れ合った瞬間に、唇の表面を冷酷な氷で焼き切られるような衝撃。そして、無理やりこじ開けられた唇の隙間から、容赦なく、貪欲に侵入してくる、熱く湿った舌。
「んんっ、ふぁ、あ……っ、んぐっ……」
綾の身体が、弓なりに反り返った。
息ができない。肺が酸素を求めて痙攣しているのに、姫は一ミリたりとも唇を離してくれない。それどころか、綾の口蓋を撫で回し、舌の裏側まで執拗に舐め上げ、口腔内のすべてを隅々まで蹂躙し、支配していく。
ちゅぷ、くちゃり、と。
氷に閉ざされた静かな図書室に、二人の唇が交わる、卑猥で生々しい水音が響き渡る。逃げようと首を振っても、顎を掴む姫の指の力が、万力のようにそれを許さない。
そして。交わる舌と舌を通して、ドロリとした蜜のような、強烈な『妖力』が、綾の体内へと直接流し込まれてきた。
「あ、が……っ、ぁ、んんんっ!!」
綾の頭の中で、何かが完全に弾け飛んだ。
体内に注ぎ込まれる甘い毒が、血流に乗って全身を駆け巡る。それは、土蜘蛛の薄い血を、大妖怪である清姫の圧倒的な血(妖力)で強制的に上書きし、書き換えていく、凄絶なマーキングの儀式だった。
姫の冷たかったはずの指先が、綾の首筋や頬を撫でるたび、触れられた皮膚の表面から、火が点いたように熱を持ち始める。
注がれる妖力の波が、綾の全身の神経を焼き切っていく。脳が沸騰しそうに熱い。息が詰まって苦しい。なのに、怖いはずなのに。
頭の芯がトロトロに溶け出し、目の前が真っ白になるほどに――「気持ちいい」。
「あぁ……んっ、は、ぁん……っ、んちゅっ……」
綾の目から、恐怖とは全く違う、甘い快楽に溺れた生理的な涙がポロポロとこぼれ落ちた。全身の力が抜け、床に崩れ落ちそうになる身体を、姫の腕がしっかりと抱きとめる。
逃げ出さないようにではない。もっと深く、もっと奥まで、自分の毒を最後まで味わわせるために。
綾の細い指が、震えながら宙を泳ぎ、やがて無意識のうちに、姫の純白のドレスの肩口を強く握りしめた。
それは拒絶ではなく。もっと欲しい、この甘い地獄から自分を離さないでほしいという、完全にメスとして屈服した、哀れなほどの懇願だった。
姫は、その反応に極上の愉悦を覚えながら、さらに深く舌を絡め、綾の唾液ごと、彼女の存在を飲み込むように吸い上げた。匂いが、体温が、魂の形が、混ざり合う。
図書委員としての平穏な自我が、最恐の怪物の色に完全に染め抜かれていく。
永遠にも、一瞬にも似た時間が過ぎた。
やがて。銀色の唾液の糸を艶かしく引きながら、ようやく姫の唇が、ゆっくりと離れた。
「はぁっ、はぁっ、あ……ぁ……んっ……」
床にへたり込んだまま、綾は肩で激しく荒い息を繰り返した。
彼女の身体は、極上の快楽を教え込まれた直後のように、小刻みに痙攣し続けている。瞳の焦点は完全にぼやけ、白く濁り、熱に浮かされたように頬は赤く染まり切っている。
半開きの唇からは、だらしない銀糸がこぼれ、その表情には、もはや以前のような「地味で怯えた少女」の面影は一切なかった。
彼女の身体中を巡る血液には今、この最恐の美女の「匂い」と「妖力」が、一生消えない呪いのように、深く、深く刻み込まれていた。
「……いい子」
姫は、とろけた顔で虚空を彷徨う綾を見て、心底満足そうに、妖艶な微笑みを浮かべた。自分の毒が、隅々まで行き渡った完璧な芸術品を愛でるような、甘い視線。
「これで、あなたは私のものよ。悪い虫が寄ってこないように、私が与えた匂い……身体の奥底まで、しっかり覚え込んでおくことね」
その宣告は、呪いという名の、絶対的な愛の鎖だった。
――さて。
俺の自我(意識)は、いつも一番良いところでこの『身体の主導権』を大妖怪に乗っ取られ、薄暗い意識の底からこの凄惨な事後を眺める羽目になる。
俺は日高清春。ただ平穏な日常を愛する、どこにでもいる事なかれ主義の男子高校生だった。
ヒロインには関わらない。事件には首を突っ込まない。目立たず、騒がず、平和に卒業証書を受け取る。それが俺の唯一の目標だったのに。
「……一体、どうしてこうなったんだろうな」
俺の心の中の深い絶望の溜息は、誰にも届かない。
俺の身体には、神代の大妖怪『白鐘の姫』が封印されている。俺が命の危機に瀕するか、あるいは自らの意思で制限を解除した時、俺の自我は女の肉体(姫)の奥底に引っ込み、彼女の意識が表に出る。
そして、姫が気まぐれに怪異を退治し、ついでに人間を「解毒」すると、その人間はもれなく『姫の匂いなしでは生きられないマタタビジャンキー(激重ストーカー)』へと変貌してしまうのだ。
俺の平穏な日常は、どこへ消えたのか。
時計の針を、少しだけ巻き戻そう。
これは、事なかれ主義の俺が、学園中の厄介な美少女たちを(意図せず)洗脳し、地獄の激重ハーレム(監獄)を築き上げてしまうまでの、血と涙と胃薬の記録である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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次回お楽しみに。




