#終 ピエロは嗤う
地面に横たわった達海に、カモクは覆い被さっていた。
「どうなったんすか」
圭が期待と不安の入り混じったなんとも言えない表情で言った。カモクが立ち上がる。槍は達海ではなく、彼のすぐ横の地面に突き刺さっていた。
「刺さなかったのね」
刀を構えて美玲が達海に近づいた。彼女は達海に刃を向けて彼の胸にその刃を触れさせた。
「……息、してない……あは、あははは。死んでるわ」
「むむ!!」
美玲の言葉を聞いた裕樹が達海の元へと走って行き、彼の胸に耳を当てる。
「本当だ、死んでる!」
裕樹は驚きながら勢いよく顔を上げた。
「だめだった……。まあいいか」
カモクがぶつぶつと何かを言いながら圭のところまで歩いて来た。
「カモクちゃん?」
「彼の死体、なるべく保存状態が良いままに本部まで運ぶようオクシラリーに指示しておいて」
カモクはそう言うと、圭の横を素通りしてGH本部の方へと歩いていってしまった。圭は「いったい、何考えてるんすかね」と変な笑いをこみ上げさせた。
「あはは、大ちゃん、敵はとったわよ。あは、あはは、あは」
美玲の不気味な笑い声が山中に木霊する。
——六月十八日 十時十一分 天池達海は死亡した。
その頃、美波は顔を青ざめさせながら山を駆け降りていた。
「なんなの! あの部屋は一体なんなのよ!!」
そんな彼女の様子を、木の上から、白い布切れを羽織り白い天狗の面をした人物が見下ろしていた。
カフェ陰陽では数名の警察官が春明のことを取り押さえていた。
「おい! どういうことだよ! 天池が死んだって、あんたらの長官が電話して来たんだよ! なあ、なんか答えろよ! おい!!」
暴れる春明の体を警察官たちが必死に取り押さえる。
「大人しくしていろ! お前には拘束命令が出ている! 署まで来てもらおうか」
「離せよ!! おい!! おーーい!!」
GHの本部、大量の霊魂を保管している部屋にカモクと花蓮は居た。カモクが冷凍カプセルの中にある達海の遺体を覗き込む。
「彼は大切な器だからね。丁重に扱うんだよ」
「……わかりました」
花蓮が静かに受け応えした。
カモクが目を瞑って少し悲しげな表情をしながらカプセルにおでこをくっつける。
「待っててね、たっちゃん」
ある洞窟の最深部ではピエロが嗤っていた。洞窟の壁には無数の蝋燭が立てられていて、辺りを橙に照らしている。小さな祠の前でくるくるとピエロが回る。
「さあさあ、危険人物は消えました。危なかったね、危なかったよ」
「だから早く殺せと言っていたんだ。勝手に死んでくれたから良かったものの。あんたの遊びに付き合わされるのは散々なんだよ」
壁面に寄りかかった桔梗が少し不機嫌そうに言った。
「安心してください。心配せずとも雷明のことは必ず復活させると約束しましょう」
ピエロはくるくると回り続ける。
「役者は揃った。舞台も整いつつある。始めましょう。始めます。最高で最恐なショーを。そして行う大降霊の儀。創りましょう。造るのです!」
ピエロは回転を止めて両腕を広げた。
「幽霊たちの楽園を!」
ケタケタケタケタ。
数日が経った。
雨降る街の中、横断歩道のど真ん中で高層ビルの大型ビジョンから流れるニュース番組を、死装束姿の一人の幽霊が見上げていた。その幽霊は大きな目にシュッとした鼻筋、艶やかな唇。髪は長く、美しい黒だった。
周りには生者たちが行き交っている。
『次のニュースです。殺人の容疑で拘置所に収監されていた天池達海容疑者ですが、先日拘置所から脱走し、その後死亡していたことが判明しました。天池容疑者は逃走中、誤って急斜面から転落したとみられ——』
死装束姿の幽霊が、このニュースにピクッと体を反応させる。彼女の両手足からは少し黒いモヤのようなものが浮かび上がっていた。
「達海の嘘つき」
君の生きる希望はなんですか。趣味? 大好きな有名人? ペット? 友達? それとも愛する恋人や家族?
生きる希望はなんですか。たとえ死んでも叶えたい夢はありますか。きっとあるはずなんだ。だからこそ現世に留まった。留まってしまった。だから、答えを求めて進み続ける。たとえこの世界に絶望したとしても。たとえ道を違えてしまったとしても。
カラスたちがけたたましく鳴くなか、山林を歩いていく。
「ここはどこ? ねえ、なんで誰もいないの? 誰か、誰か、ねえ!」
すると目の前に、白い翼を背中から生やした、白い天狗がゆっくりと降り立った。
「やっと見つけたよ。いやー、めちゃくちゃ探したんだよ。やっぱり君がそうだったんだね。ゼロ」
——Continued in the ゴーストパラダイス0
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