#71 投獄
警察官たちは俺のことを外に連れ出すと、無理やりにパトカーに乗せた。
大学前には野次馬たちが集まり、警察官が大学に近づかないようにと彼らを抑制している。その野次馬たちの中には悠真の姿もあった。彼は困惑した様子でパトカーに乗せらる俺のことを見ていた気がする。
GH本部に向かうパトカーの中で、すでに俺は抵抗することをやめていた。ただ呆然としているしかなかった。
死に際の大輝の顔が、言葉が、脳内で繰り返し再生される。なぜこんなことになったのだろうか。あまりに現実離れした出来事に何度も何度も思った。これは夢なんじゃないかと。そう、きっとこれは悪い夢。
GH本部に到着すると、警察官にパトカーから引っ張り降ろされた。後ろからすぐに来たパトカーからは、カモクと呼ばれていた女と数人の警察官が降りてくる。
カモクは真顔のまま何も喋らずに歩き始め、GH本部の入り口へと向かった。それに続くように、警察官たちも俺を連れて入り口へと向かった。
「あれ? どっかで見たことある顔だと思ったら、いつぞやのメガネ君じゃないっすかー。え? ってことは如月さんを殺したのは、このメガネ君ってことっすか?」
入り口で糸目の男性に鉢合わせた。東山の家で突然俺たちのことを襲ってきたGH、確か、浜辺圭って名だったか。
「可愛らしい見かけによらずに酷いことするんすね。如月さーん! 俺悲しいっすよ」
ヘラヘラと喋っていたかと思ったら、今度は俺に顔を近づけて不気味に笑った。
「なんなら、俺が敵をとりましょうか」
すると一人の警察官が俺と圭との間に割って入ってきた。
「彼は警察庁長官の命令で、こちらの監獄で拘束することになっています。勝手なことをされると困ります」
「へぇー、長官直々の命令っすか。にしても拘置所じゃなくて、ここの監獄を使うんすね。ってか初めてじゃないっすかここ使うの。対幽霊の機関なのになんで監獄があるのかって疑問だったすけど。長官様は何を考えているのやら……」
圭は「まあいいや、なんか面白いことになりそうっすね」と言うとGH本部から出て行った。
仲間の死をなんとも思っていないのだろうか。彼からは悲しみの感情はちっとも感じられなかった。
建物の中を進むと今度は屈強な男性が俺たちの方に近づいてきた。前に圭と一緒にいた剛という男だ。
「大輝を殺したのはお前さんか?」
この男からはさっきの薄情な男とは違い、強い怒りを感じる。
「お前さん、連れの幽霊を守ろうとしたのか? だとしても殺すことはないだろう。どうして、どうして殺したんだよ! あいつは一所懸命やってたんだよ。辛いことも必死に乗り越えようと……それを、どうしてお前さんは!!」
「ちが、俺じゃ……」
俺の肩を掴み、思い切り揺さぶる彼の目からは涙がこぼれ落ちていた。
この人は本当に大輝のことを思っていたんだろう。なぜだろうか、反論しようとしても俺の口からは言葉が出なくなってしまっていた。
「カモクちゃん、そいつを牢屋にぶち込んでおけ」
俯く剛を背に俺たちは進んで行った。
「副局長がお戻りだ!!」
後ろの方から警察官の声がすると、通路の真ん中を開けるように俺たちは端へと寄った。
後ろから歩いてくる白いトレンチコートを着た女性に向かって、警察官とカモクが一斉に敬礼をする。
「皆のもの、ご苦労様だ」
「!!」
俺は皆に労いの言葉をかけた女性の顔を見て、呆気に取られてしまった。
大きくて鋭い目つきにシュッとした鼻筋、艶やかな唇。髪は金色のショートヘアであったが、俺はこの人に似た顔の人をよく知っている。きっと、レイが生きたまま成長していたら……
「お疲れ様です!! 麻里香副局長」
警察官たちはそう言って彼女に頭を下げた。
「では、私たちはこれで失礼します」
俺が牢屋に入れらると、カモクを残して警察官たちは行ってしまった。牢屋は六畳ほどの広さでトイレと睡眠を取るために置かれた一畳の畳があるだけだった。床はコンクリートで酷く冷たい。
牢屋に入れられる前に身体チェックをされて、私物はメガネ意外全て没収されてしまった。誕生日に貰った大切な指輪さえも。代わりに囚人が着るような着替えを渡された。
しばらくすると、鉄格子越しに居るカモクが、真顔のままでようやく口を開いた。
「あー、捕まっちゃったね。これからどうしようか」
この女は何を言っているのだろうか。自ら冤罪をかけておいて。
「どうしようか、じゃないだろ。今すぐに犯人は俺じゃないと訂正しろ! 早くここからだせ!」
「それは、無理なお願いだよ。君をここに連れてきたのはちゃんとした理由があるんだから。君にはしばらくここにいてもらうよ。大人しくしていてね」
カモクはそれだけ言うと振り向いて歩きだした。
「おい! 待てよ!」
俺は鉄格子を掴んで叫んだが、彼女の姿はすでに見えなくなっていた。
それからしばらく時間が経った。……お腹が空いてきた。部屋に窓はあらず、時間さえもわからない。もう夜になっただろうか。
「食事の時間です」
赤髪の一人の女性がお盆に食事を乗せてやって来た。食事の見た目は、まるで小学校の給食のようだ。牢屋の鍵を開けて食事が渡された。
今だ。
俺は赤髪の女性の腕を掴むと背負い投げをした。
「ごめんなさい!」
「え!?」
俺は急いで牢屋から脱出した。しかし、近くにいた一人の警察官がすぐに取り押さえに来た。俺は彼のこともレイから教わった空手の技で無力化すると、入ってきた時の通路を走って出口を目指した。けれど、だめだった。すぐに複数人の警察官に取り押さえられてしまった。
「離せ! 俺は殺していない!! 殺したのはカモクとかいう女だ! 俺じゃない!!」
「何を言ってるんだ! 大人しく牢屋に戻れ!」
俺の言葉なんか信じられる訳もなく、すぐに牢屋へと引き戻された。
「全く! 何やってるんですか。せっかくのご飯がもったいない」
赤髪の女性が、床に散らばった質素な夕食をお盆に乗せて片付けている。
「床は自分で拭いてください。それと脱獄しようなんて二度と考えないこと。次やったら鉄格子に手錠で繋ぎますから」
「ごめんなさい」
赤髪の女性が牢屋から出ると、再び牢は閉じられた。鉄格子越しに彼女が雑巾を渡してくる。
俺は雑巾を受け取ると、ソースやタレで汚れている冷たい床を拭いた。
「……いきなり投げとばされたかと思えば、今度はやけに素直なんですね。……それで、どうして大輝さんを殺したの?」
赤髪の女性が、俺のことを静かに睨んだ。




