#50 陰陽師頭首会合
「それじゃあ、行こうか」
晴明に連れられて達海たちは寝殿へと向かった。
「あの、頭首会合ってなんなんですか?」
「あー、頭首会合ってのはな、それぞれの家系の頭首とその側近が参加する陰陽師の会議のようなもんだ。そこで今までの成果や方針を話し合うんだよ」
達海の問いに春明が答えた。それを聞いた達海は、「少し怖そうですね」と緊張の顔を見せる。
「そんなに身構えなくても大丈夫だよ。芦屋家の頭首とその側近はグチグチとうるさい人たちだけれど聞き流してしまって構わない。賀茂家の頭首と側近は基本的には良い人だよ」
晴明が達海に向かって、笑顔を向ける。
芦屋家はグチグチとうるさいのか。しかも、賀茂家は基本的には良い人ってどう言うことだろうか。達海は晴明の言葉で安心するどころか、さらに不安を募らせた。
「おやおや、急に会合を開くと言ったかと思えば幽霊をぞろぞろ引き連れて、お遊戯会でも行うつもりですかな。ああ、春明君まで来ていらしたとは」
寝殿前に差し掛かると、対面から歩いてきた黒い着物姿で烏帽子をかぶったおじさんが嫌味のような事を言ってきた。後ろにはおじさんと同じ格好をした小太りのおじさんと鋭い目つきの若い人物を連れていた。
「急に悪いね、道満。彼らは事前に話していた私の客人たちだ。後ほど紹介するよ。さあ、まずは席に着こうか」
晴明は顔色ひとつ変えずに落ち着いた様子で嫌味なおじさんに言い返した。
「ふん、こちらも暇ではないのでね。なるべく早く終わらせていただきたい」
「わかっているよ。そう長くはならないさ」
黒い着物の一行は寝殿内へと入っていった。
続けて達海たちも寝殿に入ると、中ではすでに先ほどの吉平、その隣には小柄な水平系糸目の若い男が。さらには、灰色の着物姿で烏帽子をかぶった男が二人。一人は穏やかな顔つきの初老の男、もう一人は目が細い塩顔イケメンが待っていた。
「遅いです、晴明様!」
吉平が、しっかりしてくださいと言わんばかりの声を上げた。晴明は「ごめん、ごめん」と言いながら吉平と水平糸目の男の前に胡座をかく。
達海たちは事前に晴明に言われた通りに、吉平と水平糸目の後ろに座った。達海が正座で座ると、それに気がついた晴明が「楽な格好で大丈夫だよ」と気を利かせた言葉をかけてくれた。
安倍家、黒い着物の人たち、灰色の着物の人たちはそれぞれが向き合うように正三角形を描くように座っていた。
「皆よく集まってくれた。これより、頭首会合を行う! まず、今日皆に集まってもらったのは私の客人を紹介するためでもある。まずは一応、春明くんも挨拶しておくか?」
春明は「ちっ、俺はしなくてもいいですよ」と悪態をついたが、皆の注目はすでに春明へと集まっていた。吉平は後ろを振り向かずにそっぽを向いたままであったが。さらには、灰色の着物の初老の男から、「つまらないぞー、ちゃんと挨拶しろー」とヤジまで飛んできたため、春明は嫌な顔で渋々立ち上がる。
「お久しぶりです。春明です。集めた霊魂を収めるため、そして晴明さんからご教授いただくために参りました。今日からしばらく、よろしくお願いいたします」
そう言って春明は軽くお辞儀をすると、再びその位置に座った。初老の男はなんだか満足げな様子だ。
「次は天池君、よろしく」
そう晴明に言われ、達海は立ち上がった。
「……天池達海です。よろしくお願いします」
達海はそれだけ言うとすぐに座り込んだ。皆んなからの注目が恥ずかしく少し怖かった。すると、晴明が達海の補足紹介を行った。
「彼は陰陽師の力を少し扱うことができる面白い男だ」
「なっ!」
「まさか!」
陰陽師たちの間でどよめきが起こる。晴明はすぐに続けて説明した。
「彼の家系について少し調べさせてもらったが、血縁は皆、一般人だった。だから、私たちが恐れている事態にはなってはいないよ。そもそも私はこの力を門外不出にする風習もどうかと思うのだけれどね」
「桔梗は生前、雷明の子を孕んでいたそうじゃないか。結局、子の所在もわからずじまい。そやつが雷明の子孫である可能性は?」
「ない。百パーセントないよ。そこは抜かりなく調べている」
「全く、雷明の時のような災厄の事態はごめんだよ。そもそもなぜそいつが陰陽師の力を持っている!」
黒い着物を着た嫌味なおじさんが晴明を問い詰める。
「さあ、それは私にもわからない」
晴明は両手の平を上に向けわからないポーズをとった。嫌味な男は「わからないだと?」と苛立ちの様子を見せる。
「まあともかく、彼にも陰陽師の力の使い方を教えてみようと思う」
晴明が笑顔で言うと嫌味なおじさんが声を荒げた。
「それこそ、その男が力を悪用するようなことがあれば、あなたはどう責任をとるおつもりなんだ!」
「大丈夫だよ。彼はそんな事をしない。私の人を見る目は確かだ」
「はあ、呆れた」
嫌味なおじさんは顔をそむけた。
「私は面白そうだし良いと思うけどなぁ」
初老の男からは賛同の声が上がる。
「だろう、保憲。君ならわかってくれると思っていたよ」
そう言った晴明は満面の笑みだった。
「そんな訳で、天池君のこともよろしく頼むよ。次はカフェ陰陽で春明と一緒に暮らしている幽霊たちの紹介だ」
「レイです! よろしくお願いします!」
「お嬢と申しますわ。以後お見知り置きを」
「アクタです。よろしく」
「マッチョだ! よろしく! ハハハハハ!」
幽霊たちは立ち上がると次々に自己紹介をした。
「皆、良い幽霊たちだ。彼らとも仲良くしてやってくれ。春明たちはここに七日間滞在することになっている。よろしく頼むよ」
晴明は背筋を伸ばして座り直すと、ニヤリとしながら陰陽師たちに言った。
「次は、私たちの紹介だな。まあ、私はもう自己紹介をする必要もないか。それじゃあ、吉平から頼むよ」
すると、吉平は立ち上がった。
「陰陽師頭首、安倍晴明様の側近である安倍吉平だ。よろしく」
そう短く自己紹介をした吉平はすぐに前を向いて座ってしまった。
「もうちょっと愛想良くしてよー。次は吉昌、頼むよ」
すると白い着物を着た水平糸目が立ち上がった。
「安倍晴明様の側近、安倍吉昌と申します。皆んなと仲良くできたら良いなーと思っています。よろしくお願いします」
吉昌が少し照れたように自己紹介をするとその場に座った。
「次は私で良いかな」
そう言った嫌味なおじさんが立ち上がる。
「私は芦屋家頭首、芦屋道満だ」
道満が座ると後ろの小太りのおじさんが立ち上がった。
「芦屋道満様の側近、芦屋道拓です。よろしくお願いしますぅ」
続いて、道拓の隣にいる鋭い目つきで髪の短い若い人物が立ち上がった。
「道満様の側近、芦屋光樹だ。よろしく頼む」
光樹が座ると晴明が灰色の着物を着た陰陽師の方を向いた。
「次は、賀茂家の人たちだ。自己紹介を頼むよ」
そう晴明に言われ、初老の男が立ち上がった。
「賀茂家頭首、賀茂保憲と申します。どうぞよろしくお願いします」
保憲は達海たちに穏やかな笑顔を向けて座った。次に保憲の隣にいる塩顔イケメンが立ち上がる。
「賀茂保憲様の側近、賀茂忠司です。よろしくお願いします」
忠司は真面目な顔つきで自己紹介を済ませるとその場に座った。
その様子を確認した晴明は一息つき、そして話を始めた。
「さあ、自己紹介が済んだところで、もうひとつ皆に話さなければいけないことがある」
すると、晴明は先ほどの笑顔とは一変し真面目な顔つきで話し始めた。
「先ほども少し話に挙がった『賀茂雷明』の封印について、だ」




