#49 陰陽寮
達海たちが陰陽寮の中に入るとそこには大きな屋敷、そして美しい庭園には十二月だというのに紅葉の景色が広がっていた。
「うわー」
その圧巻の景色に達海と幽霊たちは目をまるくする。
「ようこそ陰陽寮へ。どうだい? 素晴らしいだろう」
晴明は誇らしげに両腕を広げた。
「あっちが私たち安部家の屋敷だ。私は少し用事を済ませてくるから、先に行って寛いでいてくれたまえ。春明くん、案内してやってくれ」
「わかりました。……ああ、その前に、これ渡しておきます」
春明はボストンバックからブリキの缶箱を取り出すと、それを晴明に手渡した。
「おお、ご苦労さん。助かるよ。それじゃあ」
晴明はそう言うと、すたすたとどこかに歩いて行ってしまった。
「向こうにある寝殿のさらに奥、そこにある建物が安倍家の屋敷だ。寝殿って言っても誰かがそこに住んでいる訳じゃなくて、会合や宴の際にしか使っていないみたいだが。じゃあ行くぞ」
達海たちは春明について歩き始めた。
「寝殿の両脇の屋敷は他の家系のものなんですか」
達海が春明に質問した。
「ああ、両脇の屋敷は芦屋家と賀茂家のものだ。陰陽師は安倍家、芦屋家、賀茂家の三つの家系が担っている。それぞれの家系のご先祖様がその昔、陰陽様から力を授かったと言われているんだ」
「春明さんは陰陽寮の話になるといつも『権力争いがー』って言ってますわよね」
「ああ、陰陽寮が発足以降、安倍家が陰陽師の長をしているんだが、それぞれの家系の頭首……というより安倍家と芦屋家の仲があまり良くなくてな。争いが絶えないんだよ」
春明が頭を掻きながら説明する。
「面倒ごとが嫌いな春明が陰陽寮に行きたくない訳だよね」
アクタがクスッと笑いながら言った。
「それにしても大きな屋敷だな! 一体何人くらいの陰陽師がここにいるのだ?」
「二百人以上はいるんじゃないのか? 一番人数の多い安倍家で九十人はいるようだし」
「に、二百人!?」
幽霊たちが驚きの声をあげる。達海も「すごいですね」と声を漏らした。
「今じゃ建物内にはトレーニング施設も用意されているそうだ。器具もたくさんあったぞ」
「なんと!? 後でお邪魔させてもらおう」
マッチョが興奮気味に言った。
「ここが入り口だ。あっ、ここで靴を脱いでそこの下駄箱にしまってくれ」
屋敷の中を歩くと、少し軋む床板が心地の音を奏でる。窓には全面に障子が貼られていて趣がある。達海は遥か昔の時代にタイムスリップしたような感覚に陥った。
春明が立ち止まり、目の前の襖を開く。
「ここが俺たちが泊まる部屋だ。晴明さんが来るまでとりあえず、のんびりしてよう」
「広ーい」
レイが楽しそうに部屋の中を走り回った。
畳ばりの部屋は一五畳もの広さであった。部屋の真ん中にはちゃぶ台がちょこんと置かれ、隅には柔軟剤の香りがする布団がニつ畳んだ状態で置かれていた。
「俺たちの布団はないんだね。まあ、幽霊だから眠らなくてもいいのだけど」
アクタが少し不満そうに言った。
「あんたら、夜騒ぐんじゃないぞ」
「わかっているさ! ハハハハハ!」
「本当にわかってるのか?」
春明が幽霊たちに疑いの目を向ける。
「私がしっかり監視していますわ」
「やっぱり、お嬢が居てくれると頼もしいな」
春明がお嬢の頭を撫でる動作をするとお嬢は照れたように少し俯いた。
達海と春明、お嬢、アクタはちゃぶ台を囲って座った。レイとマッチョは部屋の中で組み手を組んでいる。
「全く、騒がしい奴らだな」
春明は呆れ顔で湯呑みに入った茶を啜った。
「春明さん、さっき晴明さんに渡していたブリキの缶って……」
「ああ、あれか。あん中に霊魂が入ってんだよ。今まで除霊した奴らの」
達海の問いに春明が答える。
「あの霊魂は陰陽様のところに持って行かれてるんですわよね」
「その通りだ。そのあと、その霊魂がどうなるのかはわからないけどな」
「霊魂となってしまった幽霊は救われるのかしら……」
そう言ってお嬢は顔を俯かせた。そんなお嬢を見たアクタがポツリと言う。
「どうだろうね、俺たちにはきっと救われると信じることしかできないよ」
幽霊にとっての救いとは成仏を果たすことなのだろう。では、悪霊になってしまった幽霊は? 霊魂となってしまい人としての形を失ってしまった幽霊は? 何を持って救いとなるのだろうか。そんなことを達海はぼんやりと考えた。
「きっと陰陽様が天国に送ってくれるんだよ。だって成仏する幽霊は皆んな天に向かって行くんだよ。天国は存在するんだよ」
マッチョとの組み手を中断したレイが笑顔で話に入ってきた。
「ああ、そうだよ。きっとそうだよな!」
達海はそう言いながらレイに笑顔を返した。
「やーやー、待たせたね」
襖が勢いよく開くと、どこかに行っていた晴明がやってきた。
「これから頭首会合を開く。君たちもぜひ出席してくれ。皆に君たちのことを紹介するよ」
晴明が右腕に抱えた着物をぐいっと達海と春明に見せた。
「君たちはこれを着てくれ。私と同じ着物だ」
晴明が白い着物を達海と春明に手渡す。
「今から着替えるんですか!?」
「ああ、皆の前に出るからには正装でなければな」
驚く達海に晴明が笑いかける。
「それでは、私たちは部屋を出てますわ。行きましょう、レイさん」
「そうだね。着替え終わったら呼んでよ」
そう言うと、お嬢とレイは部屋から出ていった。
「もういいぞー」
春明の声を聞いたレイとお嬢が襖をすり抜けて部屋に入ると、白い着物を着た二人の姿があった。春明はとても様になっている。達海は慣れない格好に恥ずかしそうにしていた。
「なんか、変に見えないか?」
「んーん、そんなことないよ! すごく似合ってる!」
レイの言葉を聞いて達海は少し顔を赤らめた。




