#23 ショタとピエロ—伍—
春明とピエロが向かい合う。春明は形代と呪符を取り出した。
「虎! 蛇!」
蛇がピエロの体へ纏わりつき、虎が飛び掛かる。
「いいんですか? そんなに一度に力を使ってしまって。体力が持ちますか? 持ちません?」
ピエロはあっという間に蛇を蹴散らすと、自らの赤鼻をもぎ取った。
「俺のキュートなお鼻ちゃん」
ピエロはポフポフと赤鼻を二度握ると、それは直径一メートルほどの大きな玉となった。
「そーれっ」
ピエロがそれをおもいっきり蹴飛ばし、虎にぶつけた。虎はそのまま玉と一緒に吹き飛ばされ赤鼻と共に消滅してしまった。春明はその隙に、ピエロの元へと駆け込み、呪符を頭部に貼り付ける。
「我この悪霊を滅す。急急如律令」
呪符が光を放つとピエロの頭が消し飛んだ。体のみとなったピエロが自らの首上に両手を広げてかざし、高速で交互に上下させる。
「ジャカジャカジャカジャカ、バン! これで元どおり」
ピエロが両手を頭部の脇で広げて見せる。彼の頭は赤鼻を含め、すっかり元通りになっていた。
「ほーらよっう」
ピエロは春明の顔面に手の平を押し当て、おもいっきり突き飛ばした。十メートルほど突き飛ばされた春明は、地面で受け身を取る。
「この化け物が」
春明は口に溜まった血を吐いて言った。
「いい加減に気づきなさい。気づくのです。あなたが俺に勝つことは絶対に不可能なのです」
「そうかもしれねぇな……」
春明が何かに気づきニヤッと笑う。
「だがな、まだこっちにはとっておきが残ってるんだよ!」
「んん〜?」
次の瞬間、ピエロの後頭部に衝撃が走る。彼はそのままゆっくりと地面に突っ伏した。その背後にはメガネの青年と死装束の少女が、片手の拳を前に突き出した状態で立っていた。
「おせーんだよ。レイ、天池!」
「お待たせしました。春明さん」
「待たせたね。春明!」
「おい油断するな、奴はこんなんじゃ除霊できない!!」
春明が叫ぶと、ピエロがゆっくりと立ち上がる。
「やあやあ、レイに達海じゃないですか。会いたかったですよ」
「俺はもう二度と会いたくないよ、ピエロ」
達海は鋭い目つきでピエロに言った。
「ケタケタケタ。達海はひどいなぁ。それにしても、この方たちがとっておきです? これじゃ、俺には勝てません。ふざけてます?」
「ふざけてねーよっ」
春明がそう言うと、春明、達海、レイはピエロに一斉に飛びかかった。
「我この悪霊の動きを封じる。急急如律令」
「くぅは」
春明が呪符をピエロに貼ると、ピエロの動きが鈍くなった。達海とレイはピエロに打撃を与え続ける。ピエロはそれらを必死な様子で防いでいた。
「ショタ! こんなのに負けるなって言っただろ!」
達海はピエロに打撃を与え続けながら、ショタに向かって叫んだ。その場で静かに笑い続けていたショタが、その言葉にピクッと反応した。レイも達海に続いて叫ぶ。
「そうだよショタ! 今悪霊になっちゃったら、またみんなで楽しくお喋りもできないんだよ。私はもっとショタのことを知りたいよ!」
春明はショタとお嬢の元へと向かった。お嬢もショタに話しかける。
「私はあなたのことを陰陽に来た時から見ていますわ。その時のあなたは今みたいに死んだような顔をしていましたわね。それから、言い争いの喧嘩を何度もしましたわ。あなたはあまり喋らないから私の一方的な感じもしましたけれど……。でも、楽しい時も共に過ごしましたわ! あれからアクタさん、マッチョさん、レイさん、フォトさん、そして達海さんがやって来て。楽しい時を過ごしたじゃないの! 帰りましょう、私たちの住む場所に」
お嬢は涙ぐみながらショタに訴えかけた。
「そうだぞ! 俺はあんたらのことを家族のように思ってる。だから戻ってこい! ショタ!」
春明もショタに向かって叫んだ。ショタの体からは黒いオーラが消えていた。
「そんなこと言っても、無駄ですよ。無駄、む……」
「そうだよな」
達海とレイの攻撃を塞ぎ続けながら発したピエロの言葉は、ショタの言葉により、遮られた。
「そうだよな。こんなところで、悪霊になんてなってたまるか。俺はみんなと陰陽に帰るんだ」
お嬢と春明の側で、目の光を取り戻したショタが立ち上がって言った。
「ショタ!」 「ショタさん!」
達海たちは笑顔で叫んだ。お嬢は涙を拭い、安堵の表情でショタに抱きついた。
「なぜです!」
ピエロが叫ぶ。
すると、ピエロに貼り付けていた呪符の効果が切れて剥がれ落ちた。それと同時にピエロは達海とレイから距離を取る。
「ショタショタショタさん、騙されてはいけません。両親が憎いのでしょう。憎みましょう。憎むのです。」
「騙しているのはあんただろ! 俺はもう惑わされない!」
ショタがピエロを睨みながら言った。
「ぐぬぬぅ」
「だそうだ、もうあんたに勝ち目はない。このゲーム、俺たちの勝ちだ!」
春明が道路の真ん中、ピエロの正面に立ち宣言した。ピエロが天を仰ぐ。
「陰陽にいる俺の分身も全てやられてしまったようですね。そうですね……この勝負は『DRAW』ということにいたしましょう」
“パチン”とピエロが指を鳴らした。次の瞬間、道路脇——ショタとお嬢のすぐ側に、人の形を留めていない丸々とした巨大な悪霊が現れた。その悪霊は現れた瞬間にお嬢のことを突き飛ばした。
「ぐあっ!」
「お嬢!」
そのことに達海、レイ、春明が気が付いたのはお嬢が発した嗚咽混じりの声を聞いてからであった。悪霊はショタに向かって大きな口を広げる。
「やめろおおお!」
達海たちはショタに向かって走った。春明は呪符を悪霊に向かって投げ飛ばす。
「うわああああああああぁあ!」
バクン!
叫び声を上げながらショタは悪霊に飲み込まれた。飛んできた呪符を悪霊は右手で塞ぐ。
「悪霊を滅せよ! 急急如律令!」
「うぎゃあああい」
呪符は光を放ち、悪霊の右腕のみがホロホロと消滅した。
「ショタを吐き出せ!」
「ショタを返して!」
達海とレイは悪霊に飛びかかった。
「今日はここで退散です。ゲームは楽しんでいただけましたか。楽しかったです。最後はこの悪霊ちゃんと遊んであげてください。それでは、また会いましょう。さようなら達海、春明」
ピエロはそう言い残すと、ケタケタと不気味な笑い声をあげながら何処かへ消えて行ってしまった。
そこへアクタとマッチョが、大急ぎで走ってきた。
「やっと見つけた、今の状況は!?」
アクタが春明に問いかける。
「ショタがこの悪霊に飲み込まれた! アクタは向こうで倒れてるお嬢を頼む。マッチョはこっちに加勢してくれ」
「!……わかった」
「了解だ!」
達海たちは悪霊に攻撃を与え続けた。
「ああああああああああああああ」
時刻は朝六時、達海の悲痛な叫び声は大きな雨音により掻き消されていった。




