#22 ショタとピエロ—肆—
「部屋の……様子を見に来た」
「明宏さん、あまり無理はしないでくださいまし」
お嬢とフォトは明宏が部屋に入っていくのを見届けた。
「全く、心配なのはわかりますけど、しっかり休息はとってほしいものですわ」
「本当にねー」
「これじゃあ、いざという時に……」
お嬢がビクッと何かに反応した。
「どうしたの? お嬢ちゃん」
「結界が破られた……というより消えましたわ。……まさか、明宏さんが解除したんですの!?」
お嬢とフォトは急いで部屋に入って行った。
「明宏さん! どうなっているんですの!」
部屋を見渡すと、壁に貼ってあるべきの結界の札を握りしめた明宏が倒れていた。ショタの姿はない。
「明宏さん!」
お嬢が明宏の元へ行き、呼吸を確認する。
「息はありますわね。それにしても、してやられましたわ」
すると辺りからレイ、アクタ、マッチョの同時に声が響いた。
「ピエロが来たよ!」
「ピエロが出たぞ!」
「ピエロが現れた!」
「同時に!? まさか分身?」
フォトが不安そうに言う。
「ショタさんが部屋から消えましたわ! 彼のことは私が探すのでお任せを!!」
お嬢が大声で叫ぶ。
「戦力を分散させられましたわね……。私はショタさんを探しに行きますわ。フォトさんは明宏さんを見ていてくださいまし」
「うん」
達海とレイの元には、背が高くて怒り顔のピエロが現れていた。
「さあ遊べ、遊びましょう。そうでないと、俺、怒ります」
「なんなんだよ、こいつは。ショタを探しに行かないとなのに」
「とにかく、倒すしかないよ。達海、稽古でやった通りに連携するよ!」
「わかった!」
達海はピエロに向かって走り、掴み掛かろうとした。しかし、ピエロは小さくピョンと飛び跳ねてそれを躱わす。
「なにっ」
達海が泥濘によろけると、ピエロは達海に向かって蹴りを入れた。
「ぐあっ」
その隙にレイはピエロに掴みかかり、右ストレートパンチを喰らわせる。
達海もすぐに体制を立て直して、ピエロに殴りかかった。レイと達海は交互にピエロへ突きや蹴りで打撃を与え続け、ピエロに反撃させることを許さなかった。
「あぶあぶあぶあぶ」
ピエロは打撃を受けるたびに呻き声をあげた。
「おおおおおお!」
達海がピエロの腹部に強力なアッパーを入れる。ピエロの体が少し浮き上がると、レイはピエロの腕を掴み、そのまま背負い投げをした。
「りゃあああああ!」
ピエロの体が落ちきる前に達海はピエロの背中に蹴りを入れる。
「ぐぎゃあああああ」
悲鳴を上げながら、ピエロの体はくの字に曲がる。ピエロはそのまま地面に倒れ込んだ。
「あそ……もっとあそぼ……う」
そう言うとピエロの体は消えていった。
「倒した……んだよな。よし、俺たちもショタを探しに行こう」
達海は服の裾でメガネを拭きながら言った。
「うん」
アクタの元には、ヒョロヒョロの泣顔ピエロが現れていた。この場所はカフェ陰陽の側面に位置する裏路地。建物に挟まれており、動けるスペースは限られている。
「痛くしないで、優しくして。さあ、楽しくしましょう、そうしましょう」
「悪いけど、それは無理な要望だね」
アクタはニッと笑い、拳を構えた。
マッチョの元には、太っちょな笑顔のピエロが現れていた。アクタが居る場所と同様にこちらも動ける範囲は狭い。
「笑う門には福来る。笑いましょう。笑うのです。はい、ぽんぽんぽん」
自らの腹を叩く笑顔ピエロに向かって、マッチョは豪快に笑いかける。
「ハハハっ、そんな怠惰な体でワタクシに敵うとでも」
マッチョはピエロの腹部に思いっきりパンチを喰らわせた。ピエロの腹は波打ち、その巨体を少しだけ浮き上がらせる。
「軽いですね。軽いです。さあ、次は俺の番」
ピエロもマッチョの腹部にパンチをくらわせた。その強力な一撃に、マッチョは少しだけ体を後退させた。
「うっ、貴様少しはやるようだな。でもそのくらいの攻撃じゃあ、ワタクシには勝てないぞ!」
大雨の中、奇怪なピエロが一人の子供を連れて、寂れた住宅街を歩く。その子供からは薄く黒いオーラが出ている。
「おやおや?」
ピエロは前方に人の影を見つけ、立ち止まった。
「よう、クソ野郎。やっと見つけたぜ」
そこには、目の下にクマがあり、瞳孔を開かせた春明が立っていた。
「なぜここに」
「俺は鼻がいいんだよ。さあ、ショタを返してもらうぞ」
春明は形代を数枚取り出した。
「蛇!」
春明が形代を投げると、それはみるみると蛇の姿となり、ピエロに纏わり付いた。
「うひょう、動けない」
ピエロの動きを封じている間に、春明はショタの元へと走り込んで彼のことを保護する。
「おい、大丈夫か」
「あはは……あは……」
ショタの目は虚で、精神状態が不安定になっているようだった。春明はショタを道の端へと連れていくと、そこに座らせた。
「春明さん!」
お嬢が両手でスカートをたくし上げながら走って来た。
「よかった。見つかったんですのね」
「ああ。お嬢、ショタを見ていてくれ」
「わかりましたわ」
すると、春明の脇腹に向かって鋭い蹴りが飛んで来くる。春明はそれを腕でとっさにガードした。
「ぐあっ」
「春明さん!!」
ピエロに纏わりついていた蛇は、もうすっかり消えてしまっていた。ピエロは自分をアピールするように両腕を横に目一杯広げている。
「こっちを見てくれ、見てください。ほったらかしは傷つきます」
「ああ、わるい。今コテンパンにしてやるよ」
時刻は朝の五時。ゲーム終了まで残り十九時間を切った。




