エピローグ:善き隣人
勢いで江戸切子の冷酒杯を手に入れてしまった。
なので、日本酒で晩酌するのが近頃のブーム。
お土産で貰った「千福 加賀」は美味しかったとです。
流石、海軍御用達。
「…………」
コツコツ、と苛立たし気に机を指先で小突く音が響く。
皇居内で、次々と各地からもたらされる情報を前に、帝は苛立ちを隠せずにいた。
各地の都市で甚大な被害が出ていた。
まぁ、それは良い。
壊れたならば造り直せば良い。
面倒な事だし、金も時間も労力もかかるが、幾らでも取り返しの付く程度の話だ。
この国は破壊と再生を繰り返してきたのだから、手慣れた物である。
だが、問題は、そこに住まうべき人民がいない事だ。
先日の戦において、後半戦で登場した竜騎士たちは、自国の、そして各国の魔王たちと比べて全く遜色のない敵だった。
瞬間瞬間での最大火力ならばこちらの方が上回っていたが、継戦能力や安定して引き出せる能力という意味では、間違いなく相手の方が上であった。
魔王たちといえど、周囲への被害を考慮して手加減や立ち回りをする余裕がない程の、強敵だった。
その結果、シェルターに避難していた民を、シェルターごと殺し殺される事態が各地で発生してしまっていたのだ。
腸が煮えくり返る、という思いが彼の胸中を満たしている。
「……敗戦当時の、国家元首たちもこんな気持ちだったのですかねぇ」
二次、及び三次大戦時の指導者たちも、同じような情けなさや怒りを抱いていたのだろうか、と現実逃避気味に想う。
しかし、それは僅かな時間だけの事。
逃避していても何も変わりはしない。
死んだ者は生き返らないし、壊れた物が勝手に再生する訳でもない。
「此度の戦は、おおまけにまけて、痛み分けという所ですか」
侵略者は、こちらを打ち負かす事が出来ずに手を引かざるを得ず、こちらは侵略者の撃滅が出来ずに被害を受けただけ。
両者ともに、勝利条件を満たしていない、という意味では引き分けとも言える。
だが、あまりにもこちらが受けた被害が甚大に過ぎる。
これ以上の被害を受けてしまえば、文明の維持すら危ぶまれるほどの痛手である。
これで引き分けと言うには、少しばかり採点が甘過ぎる気もする。
「加えて、問題は何も終わっていませんからね」
異界へと繋がる扉を閉じる事は出来た。
ひとまずは戦争を中断させられた。
しかし、敵勢の殲滅が成った訳ではない。
地球へと侵攻してきた敵勢の一部は、真正面から戦うのではなく、地球の中へと紛れ込む事を目指し、それは成功していた。
各地で救助や復興支援で動き回っている者たちから、稀に目撃情報が上がってくるのだ。
交戦し、撃破したという報告もあるが、そのほとんどは逃走の一手であり、取り逃がす結果となっている。
地球の状況を見定める偵察部隊なのだと仮定すれば、その行動は理解できる。
生き延びて少しでも多くの情報を集める事が目標なのであり、交戦し、こちらの戦力を少しでも削る事を目標とはしていないのだろう。
忌々しい、と思う。
見つけ次第、最優先で殺せという命令が下されているようだが、その成果はいまいちと言わざるを得ない。
「……一方的に情報を持ち出されるのは、フェアとは言い難いですね」
「では、受け入れるので?」
執務室に入ってきた者の言葉に、帝は視線を向ける事もなく応じる。
「五郎さん、傷はもう良いのですか?」
《六天魔軍》第一席――真龍斎は、先日の戦闘において、同僚の香織女史と共に竜騎士たちの正面に立って囮の役目を担っていた。
おかげでかなりの傷を負っており、戦闘後には病院送りになっていた。
「いえいえ、国家の危機とあらば、参上せぬ訳にはいきませんよ。
なに、死にかねない傷は塞いでありますとも」
「そうですか。香織さんの方はどうでしたか?」
「芳しくはありませんな。かなりの重体です」
同じく囮役を担っていた彼女だが、より防壁として適している彼女は、都市への流れ弾を可能な限り肩代わりしていた。
おかげで、強力な彼らの攻撃を真正面から受け止める事となり、重大な傷を受けていたのだ。
なんとか命を取り留めてはいるものの、今後、魔術師として復帰できるかというと、かなり怪しいと言わざるを得ない状態だ。
「……困りましたね。
今の状況で、国家防衛の要である彼女に抜けられるのは、中々に辛いものです」
「しかし、それが今の国家モデルです。
何とかするしかないでしょう」
唯一無二の英雄に頼る事は、非常に楽な事ではある。
だが、その英雄に問題が発生した時に、欠けた穴を埋め合わせる労力が非常に大きいという難点もある。
とはいえ、いない者はいないのだから、何とかするしかない。
諦めて国が亡ぶ事を良しとする訳にもいかないのだから。
「それで、話を戻しますが、五郎さんは受け入れる事に賛成ですか?」
「というより、受け入れざるを得ないでしょう」
彼らが話題にしているのは、異界からやってきた正体不明の自称味方である。
言葉通りに、彼らは先日の戦でこちらへ助力してくれた。
おかげで、《六天魔軍》の者たちは、猛威を振るっていた竜騎士たちを撃破する事に成功し、致命となる重傷を負っていた香織もなんとか命を繋ぎ止める事が出来た。
有難い事である。
だが、それはそれとして、彼らからの要求を呑むのか、という事は別の話である。
彼らは、地球への移住を希望している。
恩があるのだ。
受け入れてやりたいという思いはある。
同時に、信用ならない、という気持ちもある。
彼らが味方を騙った敵の先兵である、という疑いはどうしても晴れないものなのだ。
しかし、ならば大事を取って殺しておくか、と言いたい所だが、現状でそれをするだけの力が地球人類には残っていない。
自分たちが殺されるとなれば、彼らも本気で抵抗するだろう。
まさか、はい分かりました、と首を差し出す訳もあるまい。
全面戦争になったとして、彼らに勝てるかと思考した場合、確実な勝算は出なかった。
観測した限り、彼らのほとんどが魔王たちを超えるほどの魔力量を保有していたのだ。
彼らに対抗して上回れるのは、雫とアレンの二名だけである。
数こそ少数ではあるが、とても戦いたいとは思えない大戦力だ。
刹那というジョーカーを切れれば、間違いなく勝てる。
余裕だ。
他の戦力を動かす隙すらないだろう。
しかし、彼は異界の客人に対して、あまり興味が無いようだった。
雷裂に彼らがちょっかいをかけない限り、おそらくは動かないだろう。
「私たちも、まだまだ滅びたくないですしね」
両方が倒れるか、両方が笑顔で手を握るか。
その二つしか道はなく、人類には彼らと心中する気は毛頭ない。
ならば、結局、選べる道は一つしかない。
悲しい事に、力が無いという事は選択の余地がないという事だ。
結局は、力こそが正義なのである。
物語にあるように、話し合いだけで全てが円満に解決するような理想論は何処にも存在しないのだ。
力を見せつけて、力を思い知らせて、そうして初めて人々は損得勘定をした上で話し合いのテーブルに付けるのである。
そういう意味で、彼らの行動は、実に適切だった。
デモンストレーションとして、とても有効だった。
自分たちがいれば、強力な敵も退ける事ができると示し。
そして、一切隠す事無く自分たちの力を観測させる事で、喧嘩を売る事の無駄さを見せつけた。
ついでに、今はこちらの要望通りに、大人しく軟禁されている。
敵対する気はないぞ、というアピールまで完備している始末だ。
怒りを覚えるほどに、華麗な行動である。
「……確か、これから彼らとの協議があるのでしたね」
「ええ。憂鬱な事です。
分かり易く横暴な態度を取ってくれれば、こちらも対処できたのですが」
迎合できない程に理不尽で居丈高だったならば、何の憂いもなく叩き潰しに行けたのに、と帝は嘆息した。
常識的だからこそ、爆弾を抱えるリスクを負わされる羽目になる。
「心中、お察しします」
「では、代わって下さい」
「敵残党掃討任務がありますので、私はこれにて」
面倒な話を任されてしまう事を嫌った真龍斎は、そそくさと立ち去っていった。
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高天原内、天河展望公園という施設。
天の川を見る、という名前を付けられてはいるが、実は空が見える訳ではない。
高天原の中層区画にあり、海抜高度は普通にマイナスである。
ただ、天井全体にディスプレイパネルが貼り付けられており、広大な空間の全てがプラネタリウムとして機能する設備が付けられている。
また、足元には土と草木があり、しっかりと整備された遊歩道などと合わせて、職員たちの憩いの場として愛されている。
そんな場所に、今は更に幻想的な光景が広がっている。
ふわふわ、と、色とりどりの優しい光が思い思いに漂っているのだ。
光の正体は、異界からやってきた理性ある精霊たちである。
人工的とはいえ、これ程に豊かな自然に満ちた場所は、自然の中から生まれる彼らにとって大変に居心地の良い場所である。
出る事を許されていないが、彼らからすればずっとこの場にいても飽きる事無く過ごせる事だろう。
軟禁されている、という意識すらほとんどの精霊たちが持っていない。
持っていても問題視すらしていない。
そんな施設の中心で、黒い女性がくつろいでいた。
用意してもらったティーセットを傾けながら、優雅にお茶を楽しんでいる。
黒の原初、エルファティシアだ。
「……さて、こちらの人間たちはどれ程に頭が良いかな」
余裕ぶっているが、これで拒絶されたらどうしよう、と内心では不安が一杯だ。
確かに、彼女たち精霊種は強い。
魔力量も豊富だし、エネルギー生命体であるが故に、それこそ手足のように扱える。
だが、一方で、周辺環境によって大きくその能力が左右される、という扱い辛い特性もある。
惑星ノエリアでは、あまり問題にならない特性だった。
周囲の全てが己たちの母なる自然なのだ。
多少の得意不得意はあれど、どんな場所でも強力な力を振るう事が出来た。
しかし、地球は完全なアウェイである。
自分たちの力を十全にふるえる環境がほぼないに等しい。
戦闘に発展すれば、滅ぶのは間違いなく自分たちである。
この天河展望公園を中心に、少しずつ自分たちの力を浸透させて影響力を高めているが、守護者を発生させるほどに成熟させた星の環境では、その成果はあまり出ていない。
はっきり言って、全く勝ち目がない。
しかも、既に異界門は閉ざされており、逃げ道もない。
向こうで僅かに確保していた生存圏に戻る事も出来ないのだ。
ここで拒絶されると、本当に滅びかねない。
力づくで領土を確保しようにも、勝算が無い状態では一時の延命にしかならないだろう。
「今回の戦では、直接的に戦った訳ではないから、こちらの現状は分かっていないだろうが……」
あくまでも、現地人を介した援護に留めていた。
だから、こちらの戦力の基準は、襲撃していた邪精となるだろう。
あのような未来なき自爆するの如き戦い方など、真っ当な精霊種では出来ないのだが、そんな事は人間である彼らには分かりはしまい。
彼らが大暴れしてくれたからこそ、己たちの未来の道がある。
そう思えば、邪精たちは堕ちて猶、同胞の為に命を使ったのだと好意的に見る事も出来た。
「うむ。本来、邪精など忌避すべき存在とされるが、今回ばかりは感謝を込めて弔ってやるか。
万事上手くいけば、社の一つも慰霊の為に建立してやろう」
堕ちた精霊、邪霊は、彼らの価値観では許されざる大罪人の様なものである。
通常は弔いなど以ての外だが、今回は役に立っているのだから、例外にしても良いと思えた。
「……守護星霊殿が健在であれば、な」
エルファティシアは、己たちの集大成であるノエリアの事を想う。
彼女の力があれば、そこまで悩まずとも済んだ。
彼女の指揮下であれば、精霊種は様々な束縛から解放され、真に最強種と呼ばれるほどの力を振るえた。
しかし、いないのだから仕方ない。
無い物ねだりをしても意味はない。
幸いにして、こちらの守護者は約束通りに堕ちかけていた彼女を救い出してくれたらしい。
今は再生中との事だが、己たちの行く末を決めるまでには復帰は間に合わないだろう。
「最後の原初として、子供たちは守らねばならぬな」
呑気に楽しく遊んでいる同胞たちを視界に収める。
八柱の始まりの精霊。
原初と呼ばれる存在も、もはやエルファティシアを残すのみ。
他の者たちは、皆が子供たちの生きる場所を造る為に自らを捧げてしまった。
今度は、自分が身を捧げる番かもしれない、と彼女は覚悟するのだった。
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そして、遂に対話の場が設けられた。
戦後処理で手を離せない状況では、わざわざ集まって話をする訳にもいかない。
その為、全員が通信による遠隔会議となった。
「……まずは、自己紹介と行こうか。
吾が名はエルファティシア・ユエ・ルルソン。
惑星ノエリアが最古の精霊、黒の原初と呼ばれている」
この星を指導する七つの顔を通信越しに見渡しながら、エルファティシアは尊大さを押し出しながら、堂々と名乗り、続けて彼らに告げる。
「吾ら、精霊種は、ここ惑星地球への移住を希望する」
『受け入れましょう。
……と、言いたい所ですが』
帝の言葉を、スティーヴン大統領が引き継いだ。
『お前らを信用できねぇんだよ。
分かるだろ? なぁ、おい』
「で、あろうな」
問題は、自分たちが本当に味方である、と断言できない所だ。
なにせ、一見して普通に見えても、後から浸食される可能性もある。
その可能性を、ノエリアが見せてしまっている。
『だけどねぇ、貴女方を手放すのは惜しいとも、私たちも思うんだよねぇ』
イギリス女王の言葉に、それぞれに温度差はあるものの、全員が頷く。
彼らの助力が無ければ、竜騎士たちに自分たちの魔王が敗北していた可能性も充分にあるのだ。
被害も今以上に大きく出ていただろうし、復興が大変だ、という程度の悩みで済んでいるのは、彼らのおかげと言える。
それ程の恩を、それ程の恩を売れる存在を、ただ手放すのは、あまりにも惜しい。
『それでね。
朕たちも色々と考えたんだけど、君たち、宇宙とか平気かな?』
「……真空空間になら適応できる。
得意とは言えないがな」
『この星の近くに、条件の良い星がある。
まだ誰の手も入っていない、無人の荒野であり、大気すらもないが』
『小耳に挟んだ程度だが、自然と調和する精霊とかいう種族なんだろ、おい。
ちょっと開拓の手伝いでもしてみねぇか? なぁ、おい』
火星のテラフォーミング。
今回の戦の所為で、急務とも言えるそちらへ割くだけの余力が、どの国にもなくなってしまっている。
最後のセーフティネットである為、敵か味方か、しっかりと判別できない相手に任せる事には不安が残る。
だが、既にそのセーフティネットを機能させる力が無いのだから、彼らに任せてみるのも良いだろう。
彼らを自分たちの生活圏から切り離す事もできるし、その働きぶりを見て彼らの性質を見極める材料にもできる。
その結果、しっかりとセーフティネットとして完成してくれれば、万々歳である。
「ふむ。星の開拓、か。懐かしいな」
エルファティシアは、過去の、まだ何もなかった頃の惑星ノエリアを思い出す。
生き残っているほかの同胞たちは誰も知らない時代であるが、始まりの精霊である彼女だけは知っている時代だ。
手慣れた物、と言えば確かにその通りだ。
「吾らの好きにしても良いのかな?」
手間はかかるが、星が一個貰えると思えば、安過ぎる手間だ。
エルファティシアとしては、充分に良い条件と思えた。
『基本的には。
最低条件として、私たち、人間でも住めるようにしていただきたいですが』
『あとは、そうだね。
もしも、地球が滅びた時には、人間を受け入れて貰えれば、と思うよ』
「それくらいなら安いな。
良かろう、その条件を飲もう」
ほっ、とエルファティシアは安堵の吐息を漏らした。
「善き隣人となれる事を願う、人類代表諸君」
『本当にそう願いますよ』
最初から結論は決まっていたからだろう。
あとは、精霊が同意するかだけ、という段階にまで話が決まっていた為、会議の場はこれで終了となり、次々と通信が切断されていった。
彼らも忙しいのだろうな、と思うエルファティシアは、少しばかり長めの吐息を漏らして、改めて正面を見る。
「その様になった。
おかげで、貴殿に借りを作らなくても良いらしい」
「その様だね。残念な事だ」
手が四本に、足が四本という、特に意味もなく異形な木人形姿の守護者――刹那が、つまらなさそうに言う。
(……これが、この星の守護者か。
なんというか、何故、こんな事になっているのか)
エルファティシアは、目を細めながら、心からの疑問を思わずにはいられない。
守護者とは、本来、真っ直ぐな気質を持つ物だ。
裏表がなく、誰よりも故郷を、そこに住まう人々を愛する、そんな存在の筈なのだが、彼からはそんな印象がまるで抱けない。
とても不可思議である。
エルファティシアが疑問に首を捻っていると、切り替えた彼が、ずいと顔を寄せてきた。
ガサガサと四本の足が奇妙に蠢いて気色が悪い。
「だが、何もしないのは面白くない私は、君たちに恩の押し売りをしてしまう」
「押し売りと言ったか、貴殿は」
まぁまぁ、と適当に流して彼は、四本の腕を掲げる。
何か大きな物でも載せているような動作を見ながら、何をするのだろう、と思っていると、空間が歪んだ。
亜空間に保存されていたそれが、刹那の手の上に姿を現す。
その正体を看破したエルファティシアは、目を見張った。
それは、彼女たちが異界において、自らの生存圏として確保していた空間。
彼女を除く七柱の原初がその身を礎として造り上げた一個世界。
小さく圧縮されているが、間違いない。
同胞の亡骸を彼女が見間違う筈もない。
とても持ってこられない、と諦めていた物が、そこにあった。
「ふっふっふっ、向こうに行った時には回収しておいたのだ。
全く、実に巧みに隠されていて、見つけるのに苦労したぞ。
おかげで、やたらとでかい奴と散々に殴り合う羽目になってしまった」
ぶっちゃけた話だが、星核を取り出すだけならば、彼ならばそう難しくない。
獲物から隠れて、こっそりと近付いて掠め取る事など、野生で生きてきた彼にとってはごく普通の日常である。
わざわざ正面から拳を交える必要性すらない。
だが、それでもそうしたのは、この空間を見つけ出す為だった。
超常の存在である二人が激突すれば、周辺空間もタダでは済まない。
確実にズタズタに引き裂かれる。
そうすれば、空間の狭間に巧妙に隠された精霊の最後の楽園が姿を見せると、そう思ったからこそ、その手段を選んだのである。
「さて、貴様たちはこれにどれ程の値段を付けるかな?」
「こ、こいつ……! 本当に酷い男だな!」
「ふはははっ、これはまた婉曲的な感謝の言葉もあった物だな!」
力で奪い取るなどという選択肢はない。
守護者を相手にそれをするなど、無謀の極みだ。
諦める、という選択肢も、薄い。
どうしても駄目ならば、涙と共に諦められるが、そこにあるのならば惜しいと思ってしまう。
ガックリ、と項垂れたエルファティシアは、降参の意を告げる。
「……参った。吾の負けだ。何が望みだ」
「ふっ。物分かりの良い物は好きだよ。
では、そうだな……」
そうして、精霊たちは持ち運びのできる故郷と共に、火星へと入植した。
原初精霊の塊とも言える故郷を植え付ける事で、急速に星の力を活性化させた火星は、人間たちの想像を超える速度で開拓されていくのだが、それはもう少し未来の話である。
なんだか、最近、美雲お姉ちゃんの声が堀江由衣で脳内再生されている……。