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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
21/31

第21羽 残業続きは大丈夫です?

 早速、行ってきましたギリシア・ローマ神界の旅!

 ええ、早速ですとも、早速。

 思い起こせば、部内で行われた『業務改善案募集! 明日の天界を変えるのは君だ!』の賞品『最優秀賞1名……ギリシア・ローマ神界ご招待!』に目がくらみ募集に応募したのが事の始まりでした。

 アマルテイアミルクの飲み放題(だから、書いてません)の為、書類を整え、資料を作成して、勢い込んで応募し、一次の書類審査・二次の神様方の前での説明と言う面接審査と通過したまでは良かったのですが……。


~   ~   ~


「実はのう、君が提出してくれた業務改善案を正式に進めてみようと言う話になってのう。まずは立ち上げとして試験運用まで行ってみようと言う事になったのじゃよ」

「はぁ。それは何よりですが」

「と言う訳でのう、パスティエル君、キミが責任を持って、この案を進めてもらうとしようかのう」

「えっ!」 

 その言葉に、一瞬思考が固まりましたが、はっと我に返ってリーイン課長に尋ねました。

 「あの、こういうのって、総務課企画係とか、関係部署とか、プロジェクトチームとかが当たるものではないのですか? うちの係じゃ、明らかに畑違いではないでしょうか?」

「確かにその通りじゃが、もともと神の乗り物に近い乗り物に人間社会の品物を集めて積み込んで運ぶなんて発想はなかったからのう。どうせ一からやるなら、ある程度考えのまとまっている者にさせた方が良いじゃろうと言う話になってのう」

「ですが……」

「うむ、なんなら特別に専念できるように総務課企画係に異動の打診をしても良いのじゃが」

「……分かりました」

「そうか。必要な事が有れば遠慮なく言うと良い」

「……ありがとうございます」


~   ~   ~


 まさか、リーイン課長の一言で、自分に返って来るとは思いませんでした……。

 でも本場、アマルテイアミルクの飲み放題(……書いて……ない……ってば)の為です! わたし、頑張りましたよ!ええ、それはもう……。増えた仕事を片付けて……。

 自分で提案しておきながら何ですが、正直別の部署の担当か、新しく班かプロジェクトチームでも組まれるのかな程度にしか思っていませんでしたから、急に振られて最初は何処から始めれば良いのか全く見当も着かず、残業が続き、一瞬、堕天しても良いからここから逃げ出そうかという想いが頭を(よぎ)りました。黒い翼の自分やまだら翼の自分やボロボロになった翼の自分、片翼の自分が幻視できた時は……あれは、危なかったです。

 はっ、いけないいけない。

 窓口業務は、基本転生者相手なので、勤務中はまず事務仕事はできません。なので、通常業務をこなしながら、終業後、書類整理に連絡事項などの引継ぎ業務などの残務整理の後に、ようやく取り掛かれる事になりますが、前例がないので何に学べば良いのかさえ見当が付きませんでした。

 一先ずは多分、品物を手に入れて、それを運んで行くくらいまでできれば良いのだと思うのですけど……後は、相手方の『界』への許可申請とかが必要なのでしょうか……???

 そんな中で、いろいろ探しているうちに、物質界の人間社会で取り入れられている『ロジスティクス』という考え方を参考にさせてもらい、計画を立て、各方面への依頼文(相手側神界への許可や『神速連絡便』の使用許可申請など)を作成したり、それぞれの物流(調達物流・製造物流・販売物流などがあるそうですが、今回は日本の人間社会から私たちの神界までの物流と私たちの神界から他の神界への物流ですね)システムの構築(包装・流通加工・荷役・輸送・保管(これを物流5大機能と言うそうです)など)し、これらの統合・一元管理・最適化を行いました。

 ですが、兎に角品物の数が多くて分野が多岐に渡っているもので……。

 洗い出しに選別、その度に決済を回すなど、物凄い手間が掛かってしまって……『界』によっては持ち込めない品物とかの選別とか大変で、持ち込めるなかでもこれは駄目というネガティブ・リストや基本駄目だけどこの条件なら持ち込んでも良いというポジティブ・リストを作るのに相手側と話し合いをしたり、その都度書類の作り直しで、また決済取り直しで……殆どおうちに帰れていません。

 この間、お風呂や睡眠は警備課の宿直室を借りていました。

「はあ、もうどのくらい家に帰れてないんだろう? 宿直室のお風呂じゃなく、家のミルク風呂に入りたいなぁ」

 この時見つけた『スピンアウト』と言う言葉に、とても魅かれるものを感じました。『分離・独立』って意味じゃないですよ、『車がスピンして道路から飛び出す』方ですよ。素敵ですよね、スピンアウト……ふっふっふっ。移動途中翔んでる時なんか、もう……うふふ……。

「パスティエルちゃぁ~ん。還って来てくださぁ~い」

「はっ、わたしは何を考えて!」

「はぁ、良かったですぅ。パスティエルちゃん、明けの明星をうっとりしながら見つめて「今なら翔べる!」なんて呟いてるから心配しましたよぉ。仕事で辛い事があるなら話してください。何か手伝える事があるかもですぅ」

「うわぁ~! メルエルちゃん!!!」

 わたしはこの時、心の中の何かが決壊しました。メルエルちゃんが天使に見える(天使です! 本物の)! 眩しい後光が差してるよ!

 わたしは、感情が一気に爆発したかの様に、メルエルちゃんに今までの経緯を話しました。

 業務改善案を本格的に立ち上げるために試験運用を行う事が決まり自分に任された事。

 けど、自分が出した改善案の為、他を巻き込み迷惑を掛けたくなくて、誰にも言えずに、気付かれない様に行っていた事など……。

 メルエルちゃんは、その話を穏やかな表情で、ずっと傍らで頷きながら聴いていてくれました。 

 メルエルちゃん、マジ天使!<マジ天使です!>

「……う」

「よしよしですぅ。もう気を張らなくてもいいんですよぉ」

 わたしは、気が付けばメルエルちゃんの<大きな!>胸に顔をうずめて、ひとしきり泣いていました。メルエルちゃんは、そんなわたしの頭をそっと優しく撫でていてくれました。

「何やってるのよ、あんた達こんなところで?」

「あっ、サフィエルさんにクラリエルさん。実はパスティエルちゃんが……」

……。

……。

……。

「パスティエル、あなた知らない間に、そんなに帰ってなかったの!」

「もう、パスティエル、勢い込むのは良いけど、抱え込まないの」

「……すみません。サフィエル先輩。クラリエルさんもご迷惑お掛けしました。皆に話を聴いてもらったら、少し楽になりました」

「ったく、あのねぇ、パスティエル。心配はかけたけど、迷惑は掛けてないわよ」

 サフィエル先輩に拳骨を貰いました。だけど、今のはなんだか暖かくて……。するといきなり、サフィエル先輩の<大きな!>胸に抱き寄せられました。

「でも、気付いてあげられなくて御免ね。……ほら、パスティエル、後何をやれば良いの?」

「へっ?」

「「へ?」じゃないよ。あたし達も手伝うって事よ」

「サフィエル先輩! クラリエルさん!」

「みんなでやれば何とかなりますよぉ」

「メルエルちゃ~ん!」

 わたしはもう一度メルエルちゃんの<大きな!>胸に飛び込みました。

「……何度も大きさ強調しなくても良いです」

<AA~! じゃなくて、ええ~!>

「……」


   ◇



 ~ それから半年 ~


 途中からミサリエルさんとトワエルさんも手伝ってくれる事になりました。

「……猫の手も借りたい?……カニの手ならある……」

「ボク達も手伝うニャンだよ」

 こうして、みんなの協力の元、どうにかこうにか形にして試験運用の段階にまでこぎ着けることが出来ました。

「出来たぁ~!!!」

「やりましたねぇ、パスティエルちゃん!」

「これで試験運用がうまくいけば、大分楽になるわね」

「うまく行くわよ。きっと」

「みんなが手伝ってくれたから……わたしだけだと、きっと……」

でも、これって、どうなんでしょう? 

そりゃ、神様の無茶振りは神代の時代からのお約束ですが、やっぱり転生課でやる業務ではないと思うのですよ。

「どうよ! 『あの様な事態になろうとは』がちゃんとあったでしょ! 言ってみたかっただけじゃないんだからね!」<……すみませんでした>

「パスティエル、誰と話してるのよ」

「……天の声?」

「何よそれ?」


   ◇


 そして……。

 クレタ島。青い海! 立ち並ぶ神殿の白い壁!

 アマルテイアミルクの飲みほう~だ~い<……もう、それで良いです>!

「……にへへ、勝った!」

「わぁ、またぁ~。パスティエルちゃぁ~ん。還って来てくださぁ~い」

「はぁっ!」

あれっ? まだ、わたし行ってません、ギリシア・ローマ神界……。

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