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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
20/32

第20羽 裏事情は大紛糾です

<業務連絡! 業務連絡! 今回は転生神 リーイン課長視点です>


「で、今回は何をやって負けたんじゃ? サホックよ」

 業務企画案の説明を終えた天使が退出したのち、次の天使の番まで少しの時間を取ることになり、儂は隣に座っている旧知のサホックに話掛けた。

「いやぁ、『しんけいすいじゃく』でなぁ」

「……冗談のつもりかのう?」

「いやいや本記だ。相手の双子女神が息が有っていてな」

「……お主、それは本当に神経衰弱か? 神経衰弱に息を合わせる必要があるのか?」

「いやぁ、まいったまいった。垂迹(すいじゃく)は俺には向いてないな。わっはっはっ!」

「……」

 勝負の神や戦の神と呼ばれる神達は、他の神界を見ても結構弱い神がいたりするもんじゃ。仲には人間種にすら負ける神もいる程じゃしのう。

 では、何故、そのような神が神足りえるのかじゃが、

 それは、神はその物事に強いから神なのではなく、その物事をどうしようもなく好むから神なのじゃ。

 まぁ、良くも悪くも一つの物事に邁進するのが神の一面じゃのう。

 はぁ、こやつもある神界じゃそこそこ上位の神なんじゃがのう。

 神と魔は神一重ではなく、紙一重じゃからのう。神は並行存在がまかり通るが故、ある神界では善神であった者が、別の神界では邪神あるいは鬼や悪魔に名を連ねたり、ある神界では目立たない神であった者が別の神界では主神の一柱になっていたりするのがざらじゃ。

 うむ、どうやら思考の海に沈んでいる間に次の者が来た様じゃ。むっ、この気配はうちの課のパスティエル君じゃのう。

 最近、目の色を変えて何やら書類を作っておったが、こういう事じゃったか。

 改善案は総務課に直接提出じゃから、儂も自分の部下とはいえ誰が何を提出したかは知らされておらん。

 1次選考は名前を伏せての総務課による書類選考じゃしの。

 公平性を保つためとのことじゃが、どんな提案をするのか楽しみじゃわい。

 しかし、入ったら神の多さに驚くじゃろうな。なんせ、日本支部の管理職が殆ど集まっておるからのう。こんなことは何百年振りかのう。まぁ、そのおかげで、久方ぶりに顔を合わせた者もおる訳じゃし、これはこれでなかなか良い企画じゃったのかもしれんがのう。

 じゃが、2次審査に進んだ天使にとっては試練じゃろうて。なんせ、この会議室は室内の音はもちろんの事、気配までも遮断するからのう。入るまではその事に気付けんからのう。現に今までの天使達も萎縮してしまう者が殆どじゃった。まぁ、大天使クラスでもなければ、この状況で自然体で臨むのは難しいじゃろうがな。

 外の様子を探ってみれば、ほほう、やはりなかなか緊張している様じゃのう。じゃが、入室する前からそれじゃとこの後が心配じゃて。

 二度扉の叩かれる音が聞こえた。

「入りたまえ」

 進行役を務める総務課課長のケクスが入室を促した。

 扉が開かれ、入室した後、扉を閉めてからこちらに向き直り

「失礼します!」

 ほほう、あの所作は、ここ近年に時折、人間の社会を見物していた時に見かけたものの様じゃのう。

 なかなか様になっておるではないか。パスティエル君もあの様な所作をすることができたのじゃな。

 じゃがやはり、振り返った途端、気圧けおされた様じゃな。

 まぁ、これだけの神々が一堂に会する中に召される機会なんぞ、よほどの格の天使でもなければなかなか有りえん事じゃし、まして、発言を求められての場じゃ、緊張するなと言う方が無理じゃろうて。

 おっ、儂を見つけた様じゃのう。少し落ち着きを取り戻した様じゃ。

 「お忙しい中、お集まりいただき有難うございます。早速、わたしが提出した業務改善案について説明を始めさせて頂きます」

 さて、どんな改善案を考えた事やら。楽しみじゃて……。


   ◇


「……。要するに、いっその事わたし達の神界で、こちらの世界の品物を異世界に対して輸送を行ってみてはいかがでしょうかと言うのが、今回のわたしの提案になります」

 ほほう、これは、他の『界』でもやっていない事を考え着いたのう。じゃが……。

「同世界ならまだしも、異世界との物のやり取りには莫大なエネルギーが掛かるんだぞ。解ってるかね?」

「魂だからこそ、まだ少なくて済むが、物質を伴うものになると桁が変わるどころの話じゃない。転生と転移の違いはそこにある」

「そもそも、転移で異世界に行くには次元を歪ませる必要があります。そのエネルギーをどこから捻出するおつもりですの?」

「それに毎回そんな事の為に次元を歪ませる事なんて許可できんぞ」

 まぁ、こうなるのう。

 どう応えるつもりかのう。ここからが見ものじゃて。

「異世界との事務文書用の定期連絡便を使えば物資のやり取りも比較的楽にできると思います!」

 ほう、『神速連絡便』を使おうと言うのかのう。

 確かに、あれであれば、各神界間はおろか、異世界との間でも物質のやり取りが比較的楽にできると言うのは正しいのじゃが……。

「何より空きがあります。定期連絡便とは言え、一回の運搬に異世界へ運んでいくのが多くて魂数十個と伝言一言二言では、あまりに神力から比べて費用対効果が低すぎます。しかも、他の神界では配達役が神直々なんてところもありますし、恐らく神件費(神力)だってかなりの負担となっていますよ……少し話が逸れましたが、どちらにせよ定期便自体を減らすことができないのであれば、有効活用するべきだと、わたしは考えます。そこで、先程の話になるわけです。少し前に異世界転出される方々にアンケートを行いまして、希望を自由に記入してもらいましたところ、この日本地区からの転生者は日本の品物を欲しがる傾向がある様なので、まずはこの空きを有効活用した流通経路を確保してはどうかと考えました」

 思い切った事を考えたのう正式な神の乗り物ではないにしても、それに近い乗り物に人間の社会での品物を積み込もうとは。こちらから募った業務改善案でもなければ処罰されかねん意見の類じゃろうて。……その辺の事、考えておったよな?。

「……なるほど。それなら初期投資もあまり考えずに済むか……」

「ここのところ、あちらの神との勝負も負けが込んで……ゴッホン!」

 隣のサホックが禄でもない事をつぶやいておるので、視線で黙らせる。まったく、此奴は……。

「他の『界』だけでなく異世界の神々にも日本地区の品物の評判は良さそうですしな。交渉材料にも仕えそうですな」

 ……まったく、サホックだけじゃないとはのう。これでは神の威厳もないのう。

「しかしじゃな、別物とは言え、神の乗り物に等しき連絡便にそんな物を載せても良いもんじゃろうか」

「でも、神力食いなのは確かな事だわ。何とかならないかと思っていたのも事実よね」

 ……

 ……

 ……

「さて、この提案を皆は、どう見るかね? そろそろ意見をまとめていくとしようか……」

 全員の意見をまとめに入ったようじゃ。初めは兎も角、多少の問題点は残るものの、好意的には受け止められたようじゃのう。

「ご苦労だったね、パスティエル君。一先ず、プレゼンテーションによる聞き取り審査は合格だ。最終的な結果は追って発表する。もう下がって構わないよ」

「はい! 有難うございました! 失礼します」

 パスティエル君が一礼して扉の方へ向かい、こちらに向き直り

「失礼しました」

 再度一礼して、静かに扉を閉め、部屋を退室して行った。


   ◇


 最終的な結果として、パスティエル君の提案が最優秀賞という事になったのじゃが、まぁ、それはめでたい事ではあったのじゃがのう、その後が問題じゃった。

「折角だ、早速試してみようじゃないかね」

 支部長の一声により、この提案が実行に移される事になったのじゃが、

「では、何処が担当する事になりますかな?」

「「……」」

 しばらくの沈黙が広がり、

「……守護課は、この件ではちょっと部外ですかな」

「広報課も同じですね」

 皆、手を出したくはないようじゃのう。まぁ、できれば面白いじゃろうが、立ち上げるのは厄介そうじゃからな。かく言う儂の課も物の輸送は関係が無いからのう。ここは総務課辺りが無難なところか。

「まぁまぁ、ここは一つ、提案者が一番分かってるんだ。天使パスティエルにさせてみてはどうだ?」

「サホック、お主!」

 何を言い出すんじゃ、此奴は。

「それは良いですな」

「然り然り」

 他に良い意見が無かったせいか次々と同調していく他の神々。

「ちょっと待ってもらえんかのう。提案者に負担を押し付けてしまうのでは、今後の業務改善案を募集する際に支障が出る事になるじゃろうが! ここは『神速連絡便』を管理している総務課が担当すべきではないのかのう」

「しかしな、総務課は現世との関わりを持てんからな。ここは窓口業務の一環として転生課でと言う事なら、提案者に押し付けてしまうという問題は無くなるだろう?」

「只の詭弁じゃろうが!」

 サホックに続きケクスまで……。

「リーイン、落ち着け例の件の手がかりが得られた」

「!!!」

 サホックが小声で話掛けてきおった。

 だが、そのたった一言に息を飲む。

 それは儂達が長い年月をかけて探していた物。

 その手がかりが得られたと言う事を意味するのじゃろう。

「……後で説明はしてもらえるんじゃろうな」

「もちろんだ」

 結局、他に代替案も出ることなく転生課で担当する事になったのじゃが、パスティエル君にはすまない事になったのう。

 どこかで埋め合わせを考えるとするかのう。


   ◇


「実はのう、君が提出してくれた業務改善案を正式に進めてみようと言う話になってのう。まずは立ち上げとして試験運用まで行ってみようと言う事になったのじゃよ」

「はぁ。それは何よりですが」

 しばらくの後の間、各課への協力要請の根回しを終えた頃、儂はパスティエル君を儂の執務室に呼び出していた。

「と言う訳じゃ。パスティエル君、キミが責任を持って、この案を進めてもらうとしようかのう」

「えっ!」 

 パスティエル君が一瞬固まっておる。まあ、気持ちは良く解るぞ。儂も似たような反応をしたからのう。

 「あの、こういうのって、総務課企画係とか、関係部署とか、プロジェクトチームとかが当たるものではないのですか? うちの係じゃ、明らかに畑違いではないでしょうか?」

「確かにその通りじゃが、もともと神の乗り物に近い乗り物に人間社会の品物を集めて積み込んで運ぶなんて発想はなかったからのう。どうせ一からやるなら、ある程度考えのまとまっている者にさせた方が良いじゃろうと言う話になってのう」

「ですが……」

「うむ、なんなら特別に専念できるように総務課企画係に異動の打診をしても良いのじゃが」

「……分かりました」

「そうか。必要な事が有れば遠慮なく言うと良い」

「……ありがとうございます」

 一礼して部屋を後にするパスティエル君の後姿を見ながら気付かれぬように溜め息を付く。

 神とてストレスを感じない訳ではないのじゃよ。むしろ、それぞれに我が強い分多くのストレスを抱えているものじゃ。それが故にヒステリーを起こす神も多いしのう。

 まあ、その神のストレス発散での被害は神界・物質界に多大な被害を与えるのが問題でしばしば物質界の人間種の伝承では天変地異として語られる程じゃ。

「すまんのう、パスティエル君」

 これからお主には試練が待っているであろうが、それだけでも無かろうからのう。

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