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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
19/31

第19羽 業務改善は大胆にです

 業務改善案を文書にまとめ、総務課企画係に提出してからしばらくして、無事一次審査の書類選考通過の知らせが届きました。

 そして、いよいよこれから二次審査の管理職の前での説明という面接審査が待っています。

 否応なしに緊張が高まって来ます。

「やったじゃない、パスティエル!」

「ありがとうございます。サフィエル先輩」

「次は二次審査だね。面接審査だけど何か考えてるの?」

「クラリエルさん。まあ、一応想定問答くらいは少し考えていますよ」

「頑張って下さいですぅ。応援しちゃいますよぉ」

「うん。やるだけやってみるよ」

「当たって砕けろだよ! 羽根は拾って上げるからね」

「骨は放置ですか?」

「……立直一発……一気通貫……満貫……跳満……」

「説明しに行く訳で接待しに行く訳では、しかもそれだと勝っちゃダメですよね」

 わたしは皆の温かい声援(?)に見送られながら神々の待つ会議室に向かいました。


「いざ、神の御前でプレゼンです!」


 わたしは、指定された時間に会議室の前に着くと、扉の前に立ち、二度ノックして反応を待っていました。

 この待ち時間と言うのが大して時間が経っていないにも拘らず随分と長く感じます。

「入りたまえ」

 中から声がしたので、扉を開き入室し、扉を閉めてから振り返り

「失礼します!」

 と一礼して、頭を上げると、支部長を初めとする日本支部のお偉いさん方がズラリと揃ってこちらを見ています。

「!!!」

 一瞬、思わず息を飲み、身体が固まりました。入室するまでは気付きませんでしたが、何柱くらいいらっしゃるのでしょう? 課長級以上の方々が勢揃いしている訳で……。

 正直、これだけの神様方を目の前にし、一斉に注目されると萎縮どころの話ではないです。

 正に、雲の上のお方々が取り囲むように待ち構える光景は……そうですね、人間なら発狂するとか、一瞬で燃え尽きて灰になるくらいの威圧が普通にありますね。比喩的な表現ではありませんよ。文字通り、言葉の額面通りの現象が起こりますよ。

 しかも、神様方は威嚇している訳ではなく、数が多いと言うだけでこれが自然体なのですから、一介の天使でしかないわたしは、思わず誤って、この場から翔び去ろうかと考えましたが、アマルテイアミルクの為と踏み止まり、中央に一歩踏み出しました。

 アマルテイアミルク、偉大です。

 ふと、そんな神様方の中にリーイン課長の姿を見つけ、少しだけ安心しました。流石にいつもの柔和な笑顔ではありませんでしたが、それでも身近な方がいるだけで心強いです。

 気を取り直したわたしは、中央の机の前に立ち、静かにゆっくり深呼吸してから、

 「お忙しい中、お集まりいただき有難うございます。早速、わたしが提出した業務改善案について説明を始めさせて頂きます」

 と宣言し、一礼してから、わたしの提出した業務改善案について説明を始めました。


   ◇


「……要するに、いっその事わたし達の神界で、こちらの世界の品物を他の界、主に異世界に対して輸送を行ってみてはいかがでしょうかと言うのが、今回のわたしの提案になります」

 一通りの説明が終わり、ここからが本番です! まずは、直球勝負で様子を見ます。

「同世界ならまだしも、異世界との物のやり取りには莫大なエネルギーが掛かるんだぞ。解ってるかね?」

「魂だからこそ、まだ少なくて済むが、物質を伴うものになると桁が変わるどころの話じゃない。転生と転移の違いはそこにある」

「そもそも、転移で異世界に行くには次元を歪ませる必要があります。そのエネルギーをどこから捻出するおつもりですの?」

「それに毎回そんな事の為に次元を歪ませる事なんて許可できんぞ」

 いきなり否定的な意見が矢の様に飛んできました。ですが、これは想定内です。むしろ、この流れは、わたしにとっては都合が良いです。

「異世界との事務文書用の定期連絡便を使えば物資のやり取りも比較的楽にできると思います!」

 そう。いろいろな神界が入り組んだ現状、同じ神界の支部間や他の神界間で、事務文書のやり取りや魂を送迎する為に、各部署の間で定期的に『神速連絡便』が行き来しています。

 もちろん、最近増えて来た異世界にも異世界側の神界等が有る訳で、それぞれの神界との間にも当然『神速連絡便』による事務文書のやりとりや魂の送迎が行われています。

 この連絡便は、正に神の乗り物と言うべき代物で、異世界にでも実体の有る物を比較的低エネルギーでやり取りすることができるのです。そして、わたしが注目したのは……。

「何より空きがあります。定期連絡便とは言え、一回の運搬に異世界へ運んでいくのが多くて魂数十個と伝言一言二言では、あまりに神力から比べて費用対効果が低すぎます。しかも、他の神界では配達役が神直々なんてところもありますし、恐らく神件費(神力)だってかなりの負担となっていますよ……少し話が逸れましたが、どちらにせよ定期便自体を減らすことができないのであれば、有効活用するべきだと、わたしは考えます。そこで、先程の話になるわけです。少し前に異世界転出される方々にアンケートを行いまして、希望を自由に記入してもらいましたところ、この日本地区からの転生者は日本の品物を欲しがる傾向がある様なので、まずはこの空きを有効活用した他の『界』との流通経路を確保してはどうかと考えました」

 ここで一気にたたみかけます。

「……なるほど。それなら初期投資もあまり考えずに済むか」

「ここのところ、あちらの神との勝負も負けが込んで……ゴッホン!」

 何か不穏当な発言が聞こえてきましたが、取り敢えず気にしません。

「他の『界』だけでなく異世界の神々にも日本地区の品物の評判は良さそうですしな。交渉材料にも仕えそうですな」

 なんの交渉ですか? と思いましたが、口には出しません。アマルテイアミルクの為です。

「しかしじゃな、別物とは言え、神の乗り物に等しき連絡便にそんな物を載せても良いもんじゃろうか」

「でも、神力食いなのは確かな事だわ。何とかならないかと思っていたのも事実よね」

 ……

 ……

 ……

 賛否両論。それから、上層部の神々が話し合いを始めました。わたしは緊張しながらじっと黙って様子をうかがっていましたが、しばらくしてから、

「さて、この提案を皆は、どう見るかのう? そろそろ意見をまとめていくとしようかのう」

 わたしがかなり緊張しているのが見て取れたのか、意見をまとめるようにリーイン課長が促してくれました。正直、かなりの緊張状態だったわたしとしては、とても助かりました。持つべきものは良き上司ですね。改めて実感しました。

「ご苦労だったねパスティエル君。一先ず、聞き取り審査は合格だ。最終的な結果は追って発表する。もう下がって構わないよ」

「はい! 有難うございました! 失礼します」

 やりました! とりあえず二次審査も通過です。

 わたしは一礼して扉の方へ向かい、神様方に向き直り、

「失礼しました」

 再度一礼して、静かに扉を閉め、部屋を退室し、廊下で胸の前で手を組み思わず力を込めました。

 わたしだってやる時はやるのです!

 あとは正に『神のみぞ知る』です。

 わたしは浮かれそうになる気持ちを抑えつつ、その場を後にしました。


   ◇


 ~ そして ~


「おめでとう! パスティエル!」

「やったじゃない!」

「パスティエルちゃん、おめでとうございますぅ」

「やったね! 1番だよ!」

「……国士無双……役満……」

「みんなありがとう。ギリシア・ローマ神界のお土産、期待しててね」

 しばらく後、めでたく、最優秀賞を取ることができました。

 そこまでは良かったのですが……その後。

「……平和♪……」

「パスティエルさん、リーイン課長が執務室で呼んでるよ」

「リーイン課長が? 何だろう? ありがとう、ミサリエルさん。すぐ行ってみます」

 一先ず、リーイン課長のところに行ってみましょう。


   ◇


「おめでとう、パスティエル君。良くやったのう」

「有難うございます、リーイン課長」

 課長席には、いつもの穏やかな笑みを浮かべたリーイン課長が座っていました。なのに何故でしょう? 何か、とても嫌な予感がしてなりません。

「ところでじゃがのう、パスティエル君」

「はい」

「実はのう、君が提出してくれた業務改善案を正式に進めてみようと言う話になってのう。まずは立ち上げとして試験運用まで行ってみようと言う事になってのう」

「はぁ。それは何よりですが」

「と言う訳じゃ。パスティエル君、キミが責任を持って、この案を進めてもらうとしようかのう」

「えっ!」 

 残業が増えました。

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