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電脳役者~月村健一の意外な運命~  作者: 万卜人
第七回 妖艶! 仮想体験劇出演決定美少女之巻
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 興奮冷めやらぬ選抜大会が終了し、応募してきた娘たちは、記念に、剣鬼郎と並んで写真に納まった。

 写真を撮るのは、横浜にある出島から呼ばれて来た、異人たちである。江戸仮想現実には、横浜に出島があり、外国人が居留している。もちろん、江戸仮想現実に接続してくる外国人【遊客】である。

「ハーイ! 皆様、コチラヲ見テ下サーイ! 鳩ガ出マスヨ……!」

 青い目をした外国人【遊客】が、三脚の上に固定された、木箱の背後から声を掛ける。木箱の後ろには黒い布があって、外国人【遊客】は、上半身を潜り込ますように、大きな身体を折り曲げている。

 木箱は写真機なのだ。ダゲレオ・タイプと呼ばれる、十九世紀の写真機である。

 村雨座の芝居小屋天幕前には、剣鬼郎を中心に、応募してきた娘たちが並んでいる。

 外国人【遊客】の写真師は、写真機のレンズを覆っているキャップを外し、スーツから懐中時計を取り出し、時間を計っている。

 頃合となって、外国人【遊客】の写真師は、キャップを元に戻した。あたふたと、写真師は写真機を急造の現像室へと運んで、後の処理を始める。

 コロジオン溶液を使った、原始的な銀板写真である。後々、複写がなされ、出場した娘たちに送られる予定だ。良い記念である。

「あんな旧式な写真なんかより、普通のデジカメにすれば良いのに……」

 永子が感想を述べると、剣鬼郎は首を振った。

「そうはいかねえよ。あの写真師を江戸仮想現実に入れるのだって、開闢【遊客】の間で、喧々諤々の議論があったそうだ。ようやく、幕末には、ダゲレオ・タイプの写真があったと史実を証拠に、写真を撮っても良い、というお達しがなされたんだ」

 写真師が戻ってきて、今度は選抜に勝ち残った、紗霧さぎりという娘を一人立たせた。今度は、一人だけのポートレイトを写す予定である。

 紗霧はまるで怖れる様子もなく、写真師の細かい指示に従って、ポーズをとった。

 健一は、いったい、紗霧とは何者かと考えていた。

 確かに美人だ。印象的な大きな瞳。身体つきは華奢だが、舞台で披露した棒術は、抜群の敏捷さを見せていた。

 もし、仮想体験劇に出演したら、圧倒的な存在感を発散させるだろうと、予想できた。すでに健一は、紗霧を出演させる、様々な場面を思い浮かべている。

 剣鬼郎はすっかり紗霧にぞっこんのようだ。だらしない、にやけ顔で、さっきから片時も紗霧の側を離れようとしない。

「紗霧ちゃん! 俺のお相手役、どんな芝居がして見たいかね?」

 見っともないほどのデレデレ顔で、剣鬼郎は紗霧に尋ね掛けた。紗霧は上目がちに、剣鬼郎を見上げて返事する。

「そりゃあ、もう……。剣鬼郎様との、熱~い濡れ場なんか、して見たいわあ!」

「おーほっほっほっほっ! そうかい、そうかい、そりゃあ、俺も賛成だ!」

 紗霧の答に、剣鬼郎は蕩けそうな笑顔を作った。紗霧は色っぽい表情で、剣鬼郎を熱っぽく、見詰めている。全身がくねくねと動き、剣鬼郎を身体中で誘惑している。

 おいおい……。

 健一は呆れ返った。

 この娘、どう見ても素人じゃないぞ!

 男を手玉に取る、手管を心得ている。

 しかし、遊女のようではない。棒術を使う遊女など、いるわけがない!

「あの娘、何者かしら?」

 永子が側に寄ってきて、小声で囁いた。永子もまた、紗霧の正体について、疑いを持っているのだろう。健一は頷いた。

「ああ。どうも妙だ……。妙な違和感を感じるな……。それが何か、判らんが」

「あんたも、そう思うの?」

 永子は、健一の返事に、唇を引き結んで見せた。眉が狭まり、何か考え込んでいるようだ。

「永子、君はどう思うんだ。同じ女として、あの娘、どう見える?」

 永子は目を細め、眼鏡を指先で押し上げた。

「どう言えばいいのかしら。あの娘には、奇妙な非現実感があるのよねえ……。あんた、あの紗霧って娘、色っぽすぎると思ってるんじゃない?」

「君もか! ああ、色っぽすぎる。女の子が色っぽいのは、大歓迎だが、何だか、それ以上に、色っぽさが溢れてら! まるで、色っぽさの大安売りをしているみたいだ」

 永子は、健一の台詞に、くつくつと忍び笑いで答えた。

「言えてる! 色っぽさの大安売りって、上手い表現だわね!」

 会話を続けているうちに、紗霧が動いた。今度、目を付けたのは、億十郎である。

 億十郎の巨体に縋りつくようにして、しな垂れかかる。

「ねえ、億十郎様……と仰るのよね?」

「然り。拙者、大黒億十郎と申す、若輩者で御座る」

 億十郎は、固い表情で、真っ直ぐ前を見たまま答える。紗霧には、一瞬たりとも、目を合わせようとはしない。

 紗霧は唇を尖らせ、億十郎に尋ねた。

「億十郎様。紗霧が嫌いですか?」

 紗霧の質問に、億十郎は大慌てに首をぶんぶんと、何度も横に振った。

「嫌いだなどと! 拙者、ただ……」

「良かった! あたし、億十郎様と、仲良く芝居がしたいの……。ねっ、約束よ!」

 晴々とした笑顔になり、紗霧は小指を立てた。

「指きり拳万げんまん! 紗霧と、仲良く致しましょうね!」

「指きり……で、御座るか?」

 億十郎は、明らかに戸惑っている。おずおずと小指を立てて、紗霧の小指と絡み合わせた。

「指きり拳万! 嘘吐いたら、針千本、飲ーますっ!」

 紗霧の細い声が、辺りに響く。周囲の注目が集まり、億十郎の顔面は、真っ赤に染まっていた。

 そこへ、ふらりと、鞍家二郎三郎が姿を現した。

「いってえ、何の騒ぎだえ?」

 紗霧を見て、健一に問い掛ける。

「あの娘は?」

 健一は、二郎三郎の声に、我に返った。

「ああ! あれは、剣鬼郎が企画した『別嬪選抜大会』に勝ち残った、紗霧という相手役で……」

「紗霧──ねえ?」

 二郎三郎は首を振った。紗霧を眺め、一人で頷いている。どうやら、二郎三郎は、一目見て、紗霧の正体が判ったようだ。

 健一は二郎三郎に向き直った。

「あんた、知り合いなのか?」

 二郎三郎は、にやっと笑いを返した。

「ああ、知っているような、知らないような……。ま、今の所、内緒にしておこう」

 二郎三郎の返答は、謎めいていた。

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