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電脳役者~月村健一の意外な運命~  作者: 万卜人
第六回 興奮! 村雨一座美少女選抜大会開催決定! 之巻
33/89

 本来の江戸では、女優は存在しない。江戸初期まで、女歌舞伎などが流行を極めたが、当時の幕府が風紀紊乱を防ぐという建前で、女性の舞台進出を禁じたのだ。代わりに登場したのが、男だけが出演する野郎歌舞伎で、これが後々に続く、歌舞伎座の前身となる。

 だが、江戸仮想現実では、女性の舞台登場は禁じていない。江戸仮想現実の、歌舞伎座などでは、伝統的に女形が登場するが、剣鬼郎の村雨座では女優が堂々と演技できる。

 村雨座の、芝居小屋には、ぎっしりと客が詰め掛けている。時間はまだ昼前なので、天井に開いた明り取りから、眩しい光が小屋の内部を照らしていた。

「審査員をやってくれ!」

 出し抜けに剣鬼郎に迫られ、健一は立ち竦んだ。

「俺に?」

「そうさ。永子にも、やってもらうぞ」

 永子も呆然となって、直立不動になる。

「あ、あたしも! じょ、冗談じゃ……」

「何でできねえ? あんたらがこっちで、芝居を撮ろうと言い出したんだぜ! 審査員を務める、責任ってのがあるだろう?」

 剣鬼郎の言い分は、何か妙だ。健一はきっと剣鬼郎を睨み、問い掛ける。

「責任と言われても、困る。第一、この選抜大会は、あんたが言い出したんじゃないか。俺に、何の相談もなく!」

「ほう、そうかい……」

 剣鬼郎は、健一と、永子の背後にのっそりと立ったままの、億十郎を横目で睨んだ。

「あんたらは俺に勝手に、大黒億十郎という芝居経験ゼロの素人を採用したじゃないか。もちろん、俺に何の相談もなく、だ! だったら、俺がヒロインを選抜するのに、あんたらに相談する必然はないわけだ。審査員を務めてくれ、という俺の依頼は、あんたらの勝手な振る舞いより、相当に譲歩したと言えるんじゃないのかなあ?」

 健一は、剣鬼郎の逆襲にギャフンとなってしまった。言われれば、もっともである。

 永子は笑いを含んで、健一に声を掛けた。

「健一。剣鬼郎のほうが分があるわ。まあ、ここは剣鬼郎に譲りましょうよ」

 健一は、渋々頷いた。悔しいが、永子の言う通りかもしれない。

 背中から「ぐすぐす」と聞こえる、含み笑いが響いた。振り返ると、億十郎が顔を真っ赤にさせて、笑いを堪えていた。

 健一と目が合うと、億十郎は「ぷぷぷぷっ!」と噴き出し、口を押さえた。

「失礼……。つい、堪えきれず……」

「いいよ、いいよ! 勝手に笑ってくれってんだ! やるよ、やりゃあ、良いんだろう……」

 健一は自棄糞に叫んだ。

 億十郎は軽く頭を下げ、引き下がる素振りをする。

「では、拙者は客席で、ご一同の選抜とやらを、とっくりと見学いたす……」

「待った!」

 剣鬼郎が手を挙げた。

「あんたにも参加してもらうぜ!」

「それがしが?」

 億十郎は大きな身体を強張らせた。

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