偽りの恋人と真実の恋人
お泊まりの日、クリスマスツリーを両手で持って、綾坂の家に向かう
こんな大きいもん忘れんな!
正月明けにこれ持って歩くのめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!
「木のおばけかと思ったヨー」
片手でなんとかチャイムを押すと綾坂が出てきた。
笑ってないで受け取ってよ!
結局、綾坂の部屋がある二階まで運ばされたので、疲労困憊になった私は綾坂のベットに倒れ込む
「元運動部なのに体力ないナー」
「元運動部だからだよ」
そのままベットに倒れていると、綾坂が下の階からジュースを持ってきてくれたので起き上がってごくごく飲む
「カノジョの部屋の感想はないのかね?」
「初めて入るワケでもあるまいし、感想なんて特にないよ」
「えーなんでもいいから言ってよー」
なんて言えばいいんだろう?
そういうのは最寄りの部屋鑑定士に頼んで欲しい
私や姉の部屋と違って女の子っぽい部屋だとは思うけど、それをそのまま言えば良いのかな?
「あっ、これ」
部屋を見回していたら、見覚えがあるウサギのぬいぐるみの存在に気づいた。
「私が取ったやつだ」
「そうだよ!」
綾坂と部活をサボって息抜きした日に私がクレーンゲームで取ったぬいぐるみだ
他にもぬいぐるみはあるけど、この子だけベットの側にあったから大事にしてくれてるのが分かる。
「名前は?」
「え、ナギっちぬいぐるみに名前付けるタイプなん?」
「ち、ちがっ!結衣がぬいぐるみに名前付けてそうだから聞いただけ!」
「えへへ、私ってぬいぐるみに名前付けるタイプに見えるんだ」
「……別に褒めてないけど」
機嫌が良くなった綾坂が空になったコップにジュースを注いでくれたからありがたく頂く
ウチだとお母さんの方針で甘い飲み物はあまり飲ませてもらえないから、たまに飲むと美味しい
「ナギっちが名前付けていいよ」
「ウササカ」
「適当過ぎだし可愛くない」
「ウササカいいじゃん、可愛いよ」
「ウサナギは?」
「なんかのサナギみたいで可愛くない。ウササカで決定」
ぬいぐるみのネーミングが決まったところでお手洗いに行きたくなったので一階のトイレに向かう
ジュース飲み過ぎちゃった。
トイレの前に来たところで、トイレのドアが開いた。
綾坂家のトイレが自動開閉式じゃなければ先客が居たことになる
綾坂のお姉さんかな?
「やぁ奇遇だね」
「えっ!?」
ショートカットに褐色の肌
出てきたのはテニス部の部長だった。
「な、なんで居るんですか?」
「呼ばれたからに決まってるじゃないか。ドロボウだと思ったのかい?」
「いえいえいえ!そんなことは決っして!」
「ははっ、冗談だよ。そんな畏まらなくていいよ」
部長は例の爽やかスマイルを私に向けてから階段を上がって行った。
優しいけどなんか苦手だなぁ……
トイレを済ませて、綾坂の部屋に戻ろうとしたが、途中で立ち止まった。
……このまま戻ったらまずくない?
テニス部の部長とコートの上で抱き合った時に他の部員に「綾坂さんに怒られますよー」って部長が揶揄われていたことを思い出した。
ここに居るってことは、部長が綾坂の恋人で確定
綾坂の好きな人は恋人の部長のことだった。
そうなると非常にまずいことになる
いくらあの優しい部長でも、恋人の綾坂が私と恋人ごっこをしていることは許さないだろう
とゆうか綾坂は私と部長を同時に呼んでどうするつもりなんだ?
まさか私と恋人のフリをしてることを言うつもり?
それは間違いなく修羅場になるよ
どうする?このまま帰るか?
「どしたん?」
躊躇していたら、綾坂に見つかった。
引っ張られて階段を上らされて、部屋に入れられる。
もうだめだと思ったが、部屋に部長は居なかった。
綾坂の家の間取りは私の家と似ていて二階には子供部屋しかないから、ここに居ないとなると部長は同学年の綾坂姉の部屋に遊びに行ったことになる
この隙に綾坂の肩を両手で掴んで揺さぶりながら問い詰めた。
「どういうこと!?」
「なにが?」
「テニス部の部長が居たんだけど!?」
「ナギっちも知り合いなん?」
「そんなことはどうでもいいんだよ!何で居るのか聞いてんの!」
「恋人だからだヨー」
「なんで今日のタイミングで来るんだよ!」
「……完全に二人きりが良かったってこと?」
「そうだよ!」
綾坂は少しはにかんでから背伸びして私の唇にギリギリ触れないエアキスをしてきた。
なんでだよ!?
カノジョがいるのに他の女とそういうことするなと説教しようとしたら綾坂の部屋のドアが開いて綾坂姉が顔を出した。
「夕飯出来たって……って、アンタらそういう関係なの?」
「ち、違います!違います!違いますからね!」
掴んでた肩から手を離し、飛び退いて離れる。
めちゃくちゃ誤解されてるー!
それはまずいいい!
夕飯を綾坂家と私と部長で食べる。
綾坂のお母さんは「大家族みたいで楽しいねぇ」と言って笑ったが私は全然笑えなかった。
……綾坂家の料理ってこんなに味薄かったっけ?




