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第8話 この指切りってフラグじゃないよな?


『……これから、どうなっちゃうんだろうね?』




吉田葵よしだあおい(18)が、そっと直樹の隣にやってきて呟いた。


夜の教室。


明かりは最小限、周囲の喧騒も少しずつ遠のいていく。


その中に、ぽつりと落ちた一言だった。




『葵ちゃん……大丈夫だよ』


直樹は、振り返って笑った。


その声には、ほんの少しだけ無理をしている響きがあった。




『現場を知ってる人もいるし、何とかなるさ』




『……そうかな……』


葵の声は小さく、どこか心細げだった。


膝を抱えるようにして座り、窓の外に目を向ける。


その目に映るのは、カーテンの隙間から覗く何も見えない真っ暗な夜。




『……欲しいもんとか、ある? 今回の調達で、もし拾えたら持って帰るよ』




一瞬だけ、葵の肩がぴくりと動いた。




『……そんなの……』


ふいに、口元が少しだけほころぶ。




『……直樹くん、もしかして、本当に行くつもりなの?』




『え? ……うん』


少し気まずそうに頬をかく。




『大人たちだけに任せておけないからさ。

それに、なんか……こういうのって、ゲームのクエストみたいじゃん?』




『……はぁ。ほんっとバカなんだから』


葵は呆れたようにそっぽを向いたが、その顔には薄く赤みが差していた。




『死んでも泣いてあげないから』




『えぇ!? いやいや、ごめんって! ……絶対、生きて帰るから』




直樹の言葉は軽いようで、どこか真剣だった。


目をそらさず、まっすぐに葵を見つめていた。




『……絶対だよ、直樹くん……』




ぽそりと、葵が呟いた。




そして、そっと小指を差し出す。




『……え?』




直樹が戸惑いながらも、自分の小指を差し出す。




ゆっくりと、絡める。


ぬくもりが、そこにはあった。




ほんのわずかな指先の触れ合いに、言葉以上の想いが込められていた。


──そのとき。


『……青春してるところ悪いが、直樹は留守番な』




ぴたり、と二人の手が止まる。




背後から低い声。

克俊が腕を組んで立っていた。




『うわぁあっ!? ちょ、克俊さんいつから!? 邪魔しないでくださいよー!!』




慌てて小指を外し、顔を真っ赤にする直樹。


葵も口元を抑えながら、そっぽを向いたまま肩を震わせていた。




『当たり前だろ? ガキは歯ぁ磨いて寝ろ。明日も早ぇんだからな』




『いやいや! 俺もう18っすよ!? 子ども扱いしないでくださいよ!』




『うるせぇ、まだチン毛も生えそろってねぇクセに』




『ぼーぼーだっつーの!! ……って、やめろ! 頭なでんな!!』




『もぉー!うるさい! ……あっははは!』




葵が思わず吹き出した。




避難所の教室には、久々に“普通の笑い声”が響いた。




まるで、あの日々が──ほんの少しだけ、戻ってきたかのように。




──








ザァアア…………








風の音に混じって、ノイズ混じりの会話が聞こえてくる。




指向性マイクと、レーザー盗聴器。

その出力を微調整しながら、男は倉庫の屋根に伏せていた。




監視者31番──




農業高校から約200メートル離れた廃倉庫の屋根上。

彼のスーツにはカモフラージュ処理が施され、遠目には瓦礫と見分けがつかない。




『……風が強ぇな。ノイズ多すぎだ』




耳元のイヤーピースから、再び通信が入る。




『こちら通信部。監視者31番、まもなく交代時間だ。状況を報告せよ』




『こちら31番。モデルコロニーにて夜間にもかかわらず灯りを確認。

マイクおよびレーザーによる盗聴を試みたが、風によるノイズ多発。

詳細不明。帰還後、音声データを本部へ提出予定』




『了解。会話内容の推定は?』




『断片的だが──エリアH-28-8、すなわち市街地方面への大規模物資調達を計画中とみられる』




通信に一瞬の間が空く。




『───本部AIの想定通りだ。モデルコロニーの現時点の遂行難易度を答えよ』




『市街地周辺までならOPレベル2。中心部まで踏み込めばレベル3…負傷者は避けられないだろう。

ただし、今回の動き次第で変動あり』




『了解。回収班を向かわせる。データ処理後、本部へ通達。

必要に応じて“ギフト”提供の可能性あり。行動範囲と設置ポイント候補の準備を進めよ』




『了解。……これにて』




通信を切った監視者31番は、すっと身を起こし、盗聴器をリュックにしまう。




いつの間にか分厚い雲が月明かりを遮り、辺りは漆黒の闇に染まっていた。




彼は影のようにその場から姿を消した。






『……どんな()()()が届くか、楽しみだな──裕太』




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