第4話 叫んでいたのはあの人では?
「冬夜くん、どうしたの? ものすごく怖い顔してるけど……」
心配そうな顔をしたメイが、冬夜の顔を覗き込みながら話しかける。
「え? あ、ちょっと考え事をしていてな……そんなに顔に出ていたか?」
「うん。怒っているとかって感じじゃないけど、ものすごく思い詰めた感じっていうのかな」
「そうだったのか。大したことじゃないんだけどな」
メイの指摘を聞いた冬夜は、雑念を振り払うように顔を左右に振る。そして、小さく息を吐くと静かに声を掛ける。
「すまなかったな。ソフィーの話を聞いたらいろいろ引っかかることが多くて、つい考え込んでしまったんだ」
冬夜の話を聞いた二人が同時に首を傾げると、ソフィーが不思議そうに問いかける。
「そうだったんだ。でも、どこかおかしなところあったかな?」
「いや、ソフィーが気にするようなことじゃないかもしれないが……話の中で、吹き飛ばされた男の子の話が出てきただろ?」
「うん。すごく元気いっぱいな男の子だよね!」
「ああ……実はものすごく既視感があってな。確信はないが、もしかしたら一布さんじゃないかと思ったんだ」
自信なさげに冬夜が口を開くと、ソフィーとメイが目を大きく開けて興奮した様子で話し始める。
「一布さんもすごく元気いっぱいな人だよね!」
「すごいよ、冬夜くん! 言乃花さんに吹き飛ばされて、心配していたんだけど……元気そうで良かったよ」
「いや、まだ本人と確定したわけじゃないが……」
目を輝かせている二人に対し、顔を引き攣らせる冬夜。興奮している二人を落ち着かせるように両手を掲げると、落ち着いた声で話し始める。
「なんかいろいろ引っかかるんだよな……」
「何が引っかかってるの?」
話を聞いていたメイが問いかけると、冬夜は顎に左手を当てて答える。
「海岸にいた人が一布さんだと仮定した場合な。言乃花に吹き飛ばされてかなりの日数が経過しているだろ? さらにここから電車で二時間以上離れている場所に、何でいたんだろうかと思ってさ」
「言われてみればそうだね。うーん、まだ言乃花さんが怒っていると思って、帰ってこれないのかな?」
「それは考えにくいな……一布さんが吹き飛ばされた時、すぐにレアさんが指示を出していたし……たしかなんとか部隊を動かすとか言っていたような?」
冬夜たちが話し込んでいると、三人の背後から雪江が声をかけてくる。
「そろそろよろしいでしょうか? あまりお客様をお待たせするのも申し訳ないですよ」
「わ! ばあちゃん、いつからそこにいたんだよ!」
驚いた冬夜が後ろを振り返ると、雪江が呆れたように話しかける。
「ずっとここにいましたよ。三人で話が盛り上がっていたので、しばらく黙っていました。みなさんが心配している一布さんの件ですが、レアさんが頼んだ用事が終わったら帰ってくるそうですよ」
「そうなんだ。レアさんに頼まれた用事なら仕方ないか……って、ばあちゃんと一布さんって面識があったのか?」
答えを聞いて納得しかけた冬夜だったが、ふと雪江が一布のことを知っていることに違和感を感じて聞き返す。
「よくというほどではありませんが、何度かお会いしたことがありますよ。健太郎さんに連れられて、おじいさんと一緒に手合わせをしたこともありますよ」
「マジか……じいちゃんと手合わせって災難だな……」
冬夜が遠い目をしながら答えると、笑みを浮かべた雪江が楽しそうに答える。
「おじいさんも楽しそうに相手をしていましたよ。なかなかタフで筋がある良い若者だと喜んでいましたから」
「まあ……言乃花にあれだけ吹き飛ばされて、ピンピンしてるような人だもんな」
「そうですね。彼は攻撃魔法を使うことはできませんが、適性はありますね」
(ん? どういうことだ? 一布さんは魔法を使えない一般人のはず……適性があるって何を言っているんだ?)
話を聞いていた冬夜が不思議そうな顔をしていたことに気がつくと、雪江は少し慌てたように三人に声を掛ける。
「さあさあ、こんなところで話しているよりも、お客様にご挨拶をしてきてはどうでしょうか? ぜひ冬夜とメイさんとお話ししたいと伺っていますよ」
「そうなんですね! 私もお話ししたかったので嬉しいです! 仲良くできるといいな」
「メイなら大丈夫だろ。母さんの友人と話すとなると、ちょっと緊張するな。俺と話したいと言われても、どうしていいのか悩むな……」
嬉しそうに話すメイに対し、少し困ったような表情を浮かべる冬夜。対照的な二人の様子を見ていたソフィーが、それぞれの手を握ると満面の笑みを浮かべて話しかける。
「大丈夫! 私も一緒にいるからね。みんなで楽しくお話しようよ!」
太陽のように輝く笑顔で話すソフィーを見た冬夜は、ゆっくり息を吐くと優しく声を掛ける。
「ソフィーの言う通りだな。あれこれ考えても仕方ない……わざわざ訪ねてきてくれたんだし、俺も母さんのことをよく聞いてみたいな」
「そうだね。冬夜くんのお母さんって、どんな人かすごく気になるもん」
冬夜とメイが顔を見合わせると、自然と笑みがこぼれる。そんな二人を見て安心したソフィーが手を引っ張りながら話しかける。
「二人とも笑顔になってよかった! 早く行こうよ!」
「そうだな。ありがとう、ソフィー」
嬉しそうに笑うソフィーにお礼を言うと、手を繋いだまま応接室に向かう三人。襖の前につくと、冬夜たちは膝をついて中で待つ人物に声を掛ける。
「お待たせして申し訳ありません。失礼しま……」
「はじめまして。ルナとは古い友人のヒイロと申します。突然お伺いして申し訳ありません」
深々と頭を下げたヒイロが顔を上げた瞬間、冬夜はその場で固まってしまう。
なぜ彼はな言葉を失ってしまったのか?




