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7. 祐紀経の災難

 


 旅の予定を少しばかり変えて、王都を目指す俺達。当然定期的に出ている馬車で向かう。五日で王都までたどり着いた。早速商業ギルドを目指す。


「頼もう!」


「カミル、黙ってろ。殴り込みじゃないんだぞ」


 慌てて口を塞ぐ。何処でもでしゃばり過ぎで少し面倒だ。こんなに自己主張の強いペットは厄介だ。俺は商業ギルドで荷運びのアイテムの事を聞いた。


「ああ、まあありますがね。でも商人でもなきゃ買えないよ。何せ最低でも金貨百二十ジールだからね」


 ジールはこの国の通貨。高級車並のお値段だ。だがそんなのは想定内だ。


「金ならある」


 じゃらっと金貨の詰まった袋を二つ置いた。一袋で金貨百枚入っている。


「ひぇ?!し、少々お待ちを」


 商業ギルドの職員は慌てて俺達を奥の部屋に招いた。女性の職員がお茶を用意する。


「おーユキツネ、お菓子も出てきたぞ」


 エレノアとエンジュは緊張しているが、カミルは通常通り。テオも無表情。少しして最初に話した男が戻ってくる。


「お客様は冒険者とのことで。此方の袋型のタイプが宜しいかと思います」


 先程とは打って変わって腰の低い態度だ。仕組みは内側に魔術師が、じっくり時間を掛けて描いた魔方陣がある。運びかたによって箱タイプとかがある。商人は箱を決まった転移先に送る。

 袋で転移先が決まっていないものは、別で保管料も必要らしい。保存の魔法がかかった倉庫に保管される仕組みだ。


「なのでなるべく生物は避け、袋に入れて下さい。保存の魔法でも、腐りにくいだけですから」


 よくある転生ものと違い、ちゃんとした置き場が必要みたいだ。だがかさばる鍋や重い小麦粉も仕舞っておける。俺は大黒さまが持っている様な袋を一枚購入した。金貨百六十枚。エレノアは青い顔をしてぶつぶついっていた。


「き、金貨…… 百、えぇ~」


 気にしない。俺は王様だからそれぐらい持ってるんだぞ。主にテオが稼いだ気もするが。肉料理さえあればその他の素材は、テオにはいらない物だからな。エレノアだって今や店のオーナーだから、結構稼いでるだろう。


 まあ俺もこれが札束だったら、庶民として落ち着かない。札束で一千万円越え。気を失いそうだ。そもそも本物の札束さえ見たことない。袋を手にいれた俺は早速街に買い物へ出た。小麦粉、大きめの鍋、調味料。エルフの村からも味噌や醤油、香辛料とかも送ってもらう。


 水も入れたしこれで快適な旅が出来るぞ。これからは山の方に向かうから、そうそう買い物出来ないからな。エレノアの袋は大きめのリュック程度で、リクエストして品物を送ってもらうから、何時でも出し入れ出来るのは有難い。


 王都で一泊した俺達は、地竜の馬車を借りる。ここから道なき道を旅するからだ。地竜を走らせる事五日目。激しい雨風が俺達を襲った。草木に囲まれた場所で身を隠す統べもない。


「困ったわね。どんどん酷くなるわ」


 エレノアが雨の中御者を務めていたが、激しい雷に地竜が怯えて動かなくなった。地面もぬかるんで川の中みたくなっている。


「このままじゃ、地竜も可哀想だわ」


「私が魔法で何とかする」


 カミルが竜車を中心に薄い膜のようなものを作った。ほんのり空気が温かい。四、五時間はこの状態を保てるらしい。だが雨は止む気配もなかった。なのでカミルが。


「このままでは地竜が死んでしまうかも知れん。私が山の洞窟に連れて行く」


「おいおい大丈夫か?カミルと大きさは変わらないだろう」


「平気だ。後でこの車も引っ張ってやる。山の方まで行けば水も避けられるしな」


 カミルがドラゴンになった。地竜は驚いて嫌がったが、やがて諦めた。捕食者に捕まった気分なのだろう。力無く宙に浮いた。しかし大自然の脅威は凄い。普通だったら水没してしまって、終わりかも知れない。辺りはすっかり水の中だ。


 三十分くらいでカミルが帰って来て、空を飛びながら車を引っ張った。山の麓で水没しない程度登ると、カミルの魔法で土に穴が空いた。そこでキャンプをして夜を過ごした。


 翌日も雨。すっかり山の下が川みたくなっているらしい。カミルに連れてきてもらって良かった。テオが周囲を探ると言って出ていった。酷い雨なのに。山で暮らせばこんなのは当たり前だとカミルは言う。


 午後になって雨が小降りになった。俺も外の様子を見たくなってマントを羽織る。水に強い素材だから雨も弾いてくれる。山道はどろどろでぬかるんでいた。もう少し下の様子を見たい、と少し下っていたら、足を滑らせてしまった。


「うわぁあ!!」


 ズルズルと滑って十メートル程度で木に引っ掛かって止まる。危なかった。しかしほっとしたのも束の間。顔を上げた先に大きな獣がいる。熊のような大きな………… 咄嗟に何も考えられなくなる。奴は余裕で此方に向かってくる。恐怖で動かない。


「わ、」


 しりもちをついた体制から指先に力が入り、立ち上がった。


「グルォオオオオオ」


 重低音のうなり声。膝がカクカクとなるが、ゆっくり下がった。だが彼方もゆっくりと迫って来る。歩幅の違いで距離は縮まる。俺は背中を向けて走り出す。野生動物に背中を向けてはいけない。そんな場合じゃないんだ。


 必死で走るが向こうも少し早足で迫るのが解る。心臓をばくばく言わせながら、走るうちに目の前が開けた。急角度の斜面が広がる。振り替えればすぐそこに奴は迫っている。一か八かだ。俺は斜面を滑り落ちる事にした。


 ズルッ。一歩踏み出せば凄い勢いで下に落ちる。雨でぬかるんだ山肌は遥か下へと俺の体を運んだ。途中に岩があったりして若干ぶつけたが、大怪我をすること無く下まで辿り着いた。


 見上げれば奴が豆粒見たく見える。少しして諦めたのか去って行った。少しだけ安堵する。同時にこの斜面の上に登る方法を考える。右に林、左に林。上に行くには遠回りしなきゃ駄目だろう。しかし歩き回って元の場所に行けるのか?


 泥だらけの体で歩く。少し歩いたら川が見えた。濁った濁流が勢い良く流れていた。それをぼんやり眺めながら考えていた。魔物がいる世界で一人。━━━━ 詰んだ。


 ひょっとしたらカミルやテオが、見つけてくれるかもと期待したが、時間だけが過ぎていった。日が傾くにつれ絶望感が増していく。すっかり体も冷えて歯がカチカチ言っている。山は気温が下がる。


 不意にカサっと音がした。魔物かと身構えるとそこには信じられないものがいた。


「お困りのようですね」


 フワッとした衣装を纏った美女。金の髪に碧の瞳。初めて会ったのに、何処かで出会った気がした。





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