6. カミルの活躍?
鎧の様な皮に覆われたソイツは像位の大きさだ。水辺に近づくとさっき跳ね上がった厳つい魚を、少し長い鼻先で叩き落とした。魚も固そうだが、鎧みたいな皮に覆われたヤツはもっ固そうだ。そのまま此方に気付きませんようにと祈ったが、既に気付かれていた。チラチラと視線を向けながら「ブフゥ」とか鼻息を荒くしている。
「ユキツネ見てみろ。アイツ餌を取られるんじゃないかと、警戒しておるぞ。肝の小さいヤツめ」
カミルめそんな煽り文句は要らないのだよ。皆もっと平和に生きようぜ。しかしエサを目の前にした魔物に、そんな理屈は通らない。ブフ、ブフっと息を吐きながら此方にやって来た。
エレノアとエンジュは後ろで警戒体制だ。
カミルが再びドラゴンに変化し、翼をゆっくりとはためかせる。鳥だったらあんなにゆっくり羽ばたかない。身体に対して小さめな翼は、鳥と同じように飛ぶのでは無いだろう。
水面を渡って魔物の前まで行くと、アルマジロみたいなヤツは大きく嘶いた。
「グォオオオオオオ!!」
地面に響く声に俺達は耳をふさいだ。カミルは上空から炎を吐いた。だがヤツは首をすくめ硬い鎧の様な身体で、炎を凌いだ。そして走り出す。
『逃がさん!』
カミルは追いかけるが、少しずつしかダメージを与えられないようだ。
「ドラゴンでもあれにはダメージを与えられないんだな」
「トリケルトと言う魔物だ。あの皮は丈夫だ」
テオが言うにはダンジョンでは厄介な方の魔物らしい。ひっくり返して腹を狙うのが一番だと。もっと大きなドラゴンなら、ダメージを与えられるだろうと。
ドラゴンブレスに怯まないトリケルトに、カミルは業を煮やしたらしく、体当たりを始めた。
「ゴゥアアアアアアアアア!!!」
炎を吐きながら噛みついた。だが弾き飛ばされた。暫くそんな事を繰り返していたが、決着がつかない。
「なあ、テオ。何とか出来ないか?」
さながら怪獣の戦いだが、このままでは埒が明かない。テオも仕方ないといった風で獣に変化し、トリケルトに体当たりをした。
「ギュアアアア!」
トリケルトが地面に転がる。カミルよりも体重が軽そうなのに、テオの体当たりは効いたみたいだ。横倒しになったトリケルトの喉笛に深く噛みついた。喉は皮膚が柔らかいらしい。
「グォオ、グォオオ…… 」
次第にトリケルトは弱って行ったようだ。カミルは人間の姿で戻ってきた。
「ユキツネ!私だって時間があれば、倒せたんだぞ」
「あー、はいはい。怪獣大戦争に付き合って居られないからな」
「怪獣?もしや怪しい獣?誰が怪しいのだ!立派なドラゴンだぞ」
「立派ならブレスで倒せただろう。テオがそう言っていたぞ」
「ムキーッ!あの獣め」
カミルは悔しそうだが、格下の飛竜にも負けるちっちゃいドラゴンだ。まだまだ強敵には勝てないのだろう。そうこうしているうちに、テオが戻ってきた。
「ユキツネ、あれの皮は高く売れる」
「えっ、皮を剥ぐのか?凄い大きいし、持って帰れるのか」
「ユキツネ、心配要らんぞ。私が持っていく」
先ほど活躍出来なかったカミルが張り切っている。
「じゃあ私達が皮を剥ぐわ。ユキツネじゃあ時間かかるもの」
狩猟民族のエレノアと、獣人で自前で肉を調達していたエンジュが、皮を剥ぐのを買って出た。大きい獲物だが、効率よく皮を剥いでいった。肉は余り美味しくないとのことで、カミルがブレスで燃やす。
皮は炎を防いだが内側は普通の肉だった。すっかり墨と化した。
「で?どうするんだ。まさかドラゴンの姿で持って出るのか?」
「フッフッフ。我が内なる魔力に刮目するが良い。出でよ!」
カミルの掛け声と共に、魔方陣が皮を取り囲んだ。魔方陣の中央に現れた瞳の形の部分が黒く割れて行く。
「これが暗黒魔法だ。ありとあらゆる物を取り込む事が出来る。飲み込め、混沌の彼方に」
すっかり黒くなった部分から黒いもやが沸いて、皮を包みやがて地面へと飲み込んだ。しかしここである疑問が。
「なあカミル。前にクラーケンを倒した時に、この魔法を使えば良かったんじゃないか?あん時は殆ど素材を無駄にしたんだぞ」
「何を言う。あんな生臭い物を入れたくないのだ。あれを食べる人間はユキツネ位だろう」
亜空間に生臭さは関係ないと思われるが、確かに皆は気味悪がった。でもあのクラーケンで作ったイカスミパスタは絶品だった。食堂でおばちゃんの手を借り、特別に振る舞ったんだ。
真っ黒いパスタとクラーケンのコラボに、その場の誰もがドン引きだったが、体格のいい兵士が食べて絶賛すると、他にも食べる者が現れた。最終的には大好評だったんだ。
「またアイツを食べたいな」
「ユキツネ、それはどうかと思う」
エレノアは気味悪がって結局食べなかったな。エンジュも生臭いからって食べなかった。美味しいのに。まあともあれカミルのお陰で素材が持ち帰られる。しかし暗黒魔法って。一般的な魔法では無さそうだ。
大物が捕れたので一旦地上へと帰る。エレノアとエンジュもいくばくかの成果を上げて、獲物を持ち帰っていた。早速ギルドへと向かう。
「頼もう!」
勇ましく声をかけるカミルの口を慌てて塞ぐ。
「ほらほら並んで。いい子にしてろよ」
「私はお前より年上だぞ。子供扱いするな」
「はいはい。大人なら静かにしましょうね」
「ぐぬぬぬぬ」
俺とテオとカミルは列に並んだ。エレノアとエンジュも、各々の獲物を売るために並ぶ。あれ?さっきの魔法って人に見せて良いものなの?疑問はあるが順番がやって来てしまった。
「こちらは買い取りコーナーです。どのような素材をお持ちですか」
「トリケルトだ。少しでっかいんだが」
「畏まりました。奥へどうぞ」
地下へ続く階段を下がって解体場へと出た。結構な広いスペースだ。
「おう坊主、トリケルトだって?まあ出してみろや。見たところ手ぶらみたいだが」
「全員後ろを向いてて欲しいのだ」
カミルがそんな事を言い出した。疑問に思いつつもその場の職員が、後ろを向いたところで素材を取り出した。
「こっち向いて良いぞ」
「うおっと!なんじゃこりゃあ!」
取り出した皮に誰もが驚く。いきなりこんな大きな物が現れたもんな。そりゃあびっくりだろう。
「商人が使うアイテムを持ってんのか。お嬢ちゃんお金持ちそうだもんな」
どうやら商人には大きな荷物を運ぶ道具が有るらしい。そうか。もしも手に入れられれば荷運びが楽になる。主に旅の間は調理担当の俺は鍋やフライパン等を持ち歩いている。各々が持ち歩いている荷物が無くなれば、旅が楽になる。
トリケルトの皮は金貨五十二枚になった。火や水にも強い素材で、割りと軽いので防具等に使われる。その足で早速商業ギルドに向かってみた。商人が使う荷運び道具について聞くためだ。
「ああ、ウチでは取り扱ってないよ」
商業ギルドではそんな答えだった。
「何せあれは高価なアイテムだ。よっぽど稼いでいる商人でないと、持っていないさ。そんな高価な物は王都でしか出回らないさ」
ここはダンジョンがあるから結構な大都市だが、高価な品物は王都でしか手に入らない。魔術師が作る特別な道具だってのもある。
ここから山沿いを目指す予定だったが、その前に王都だ。旅を続けるなら必要だしな。
だが俺は知らなかった。この決断が旅の大きな分岐点になってしまうとは。そんなの予測出来るかよ。




