9.ドワーフと家具と
我が街にドワーフ御一行がやって来た。エルフの時と同じく城の前にある建物に案内すると、一同は驚いた。
「これはまた、見事なまでに何もないな」
立派な建物に対し机は愚か敷物の一切がないことに驚かれる。まあ外観が立派なだけに内装が貧弱な事に驚くのだろう。
取り敢えずドワーフの皆さんは空腹なようなので、鍋を用意する。竈に火をくべ(使い方がよく解らないので、エレノアがやってくれた)野菜をたっぷり入れた鍋だ。エルフから貰った鶏肉も入っている。普段は鍋にあまり入れないじゃがいもも、腹にたまるだろうと入れてみる。
最近はまっている手作り野菜ジュースを食後に振る舞った。
「こんなもてなしを森の奥で受けるとは思わなかった。ユキツネ殿、感謝するぞ」
ドワーフの皆さんがこんな場所にやって来た理由は、国でいざこざを起こし人族と喧嘩してしまった。怒ったドワーフ達はこんな国を出ていってやると啖呵を切り、仲間と共に国を出たそうだ。
「ワシらは良い道具を造る事に誇りを持っておる。しかし人族は段々商品を買い叩き、高い税金を吹っ掛ける様になってきた」
国王が代替わりして、異民族に高額な税金を吹っ掛ける。此れに反発した王都のドワーフが国を飛び出したと。
「ワシらを暫くここに住まわせてくれ。対価として家具を造ろう」
「おおっ、それは有難い」
前々から内装が空っぽなのは気にはなっていた。DIY用品は揃っていても素人の俺じゃ家具は造れない。それに丸太なら沢山ある。
この辺を切り開いた時の丸太があちこちに積まれていた。乾燥させて燃料として使うといいとちっこいオッサンに言われた。
材料が揃っているので早速明日からでも取りかかろうと。
家具をつくるにしても木材の十分な乾燥が必要だが、そこはスキルで何とかなるんだって。流石だな異世界。
ドワーフ達は一様に大荷物を持っていて、大事な道具は持って国を出たそうな。
屈強な男たちの集まりであるドワーフ御一行は、森では食い物に余り困らなかったようだ。けれども猿の魔物は知能が高く、集団で襲って来る為に苦戦を強いられたそうな。
三日三晩追われて流石に疲労してた所で城を発見した。
こんな場所に国があると言う情報は無かった。(そりゃそうだろうよ)怪しいと思いながらも城のある場所を目指して進んで来たそうだ。
次の日からドワーフ達は家具を造り出した。先ずは自分達の使うもの、そして空っぽの城に置く家具。何せ城は広くて部屋数はあっても空っぽ。なので一階のキッチンの側は大きいダイニングテーブル。一階の空き部屋から机、椅子、ベット(シーツは勿論ない)クローゼット等取り付ける。
果たしてこの城に必要になる日が来るのだろうか、と疑問に思うがまあ良い。流石と言うか結構なハイペースで半月程で粗方の部屋が埋まった。
それから広場前のドワーフがいる場所以外の建物九棟を埋めて行く。そうなると俄然気になる部分がある。リネンである。布団やカーテンの類いがない。
エルフの皆さんもドワーフも手持ちの少ない荷物に着替えは最小限しか無かった。
俺は家ごと転移してきたので着替えはそこそこあるが、所詮は消耗品だ。これだけの大所帯となったのだから、是非とも布が欲しい。ちっこいオッサンのドノムに相談してみる。
『うむ、そうじゃのう。一番近いのは山を越えた国じゃな』
城の裏手側に聳えるアホみたいに大きい山々。果たして何日かかるのか。生きてたどり着けるのだろうか。
『直線なら一週間掛からんと行けるかのう』
「え″」
それから俺は準備を整える事にして、約一週間後に旅立つ事になった。ドワーフ達に護られて山の麓までたどり着く。三輪自転車にじゃがいも、玉ねぎ、香辛料。それからエルフの手作りの数々。
「楽しみだねぇ」
俺の横には何故かエレノア。これは俺に惚れてるから、とかではなく一人で買い物させるのは心配だから。何せこちらの物価も解らないからどうしたら良いと相談したら、エレノアは一緒に付いて行くと言い出した。
「ユキツネは一人じゃ何にも出来ないから心配だしね」
何も出来なくはない。でも彼等には異世界と言う観念が無かった。どうやってここへ来たのか説明したのだが、余り理解出来ていないようだった。
簡単に精霊の仕業で片付けられた。まあそうなんだけどさ。俺が魔法も使えなくて、体力も皆と比べれれば恐ろしく無いとおどろかれた。村まで案内した時も誰よりも遅れていたしね。
隣の国に行くにしてもそもそも此方の常識自体知らないのだから。見た目は女子高生位のエレノアに心配される二十五才。
『そろそろ行くぞい』
『そうじゃそうじゃ』
「わっ!本当に現れた」
ちっこいオッサンの登場にエレノアは驚いた。実は人前に出てくるのはこれが初めてなのだ。精霊と言うのは契約者以外に姿を見せるのは殆ど無い。これから大きな力を使うので、ドワーフが離れた時点で出て来た。
エッホエッホと踊り出し、ズズッと山に穴が開く。アーチ状の大きな穴だ。二人で入った時点で後ろに鉄格子が現れる。この先山の中にトンネルを作りながら進んで行く。庭の物置にあった手回しで充電できるラジオ付き懐中電灯で照らしながら進む。
『エンヤァこーらぁドッコイショ。ホーレほれほれ』
…… 何やら奇妙な歌声まで交ぜながら暗闇で踊るオッサン。軽くホラーである。オッサンが開けた穴はカッチカチに固められていた。
「ユキツネは精霊に好かれて要るんだねぇ」
「何でだ」
「一人でこんなにも多くの精霊が着いているんだ。だからこそ私達もユキツネを信用したんだけどね」
コイツらは一家族に一人が基本だと言った。住人が増えたから他所に住み着くのかと思いきや、当分は一緒にいるみたいだ。何せ一軒家ではなく小さな国の規模だから、固まっていないと大きな力を使えないと。
そしてこんな大きな力を使う精霊を従えてる俺は、エルフに取って信頼の置ける人物って事だ。
「なあ、エレノアは歳は幾つなんだ」
「何、急に。私は十六だよ。見た目通りのね」
「エルフってやっぱ長生きなのか?」
「うん、だから後の二人を狙っても無駄だよ。人間は寿命が短いからね」
何故、独身の二人を意識してると気付いた。エレノアはエルフだし顔も整っているが、何か男らしくサバサバした性格なんだよね。俺の好みとはちょっと違う。
エレノアと色んな話をしながら、時に休憩を交えて進んで行った。そうして漸く日の光を拝む事となる。
「ワッ、眩しい」
「目が潰れる!」
洞窟から抜け出した俺達の感想である。僅かな光源で過ごした瞳に太陽は眩しすぎた。俺達が出て来た場所はカモフラージュされた扉が付けられる。普通の山肌に大きな石がまん中に埋まっている、そんな感じ。石が目印で帰り道に迷わないように。
『主殿、此処を真っ直ぐ進めば道が有りますぞい』
いよいよ隣国へと足を踏み入れる。