10. 初めてのお使い①
トンネルを抜けると国境でした…… なんてな。そもそも山の向こうにひっそりと国が誕生したなんて気付かないよね。
三輪自転車は盗まれる可能性が高いので、洞窟に置いていく事になった。
リュックに野菜を詰め、大きなバックにエルフの手作りの品。エレノアも荷物を持って林を歩く。
何か山を越えただけで随分と景色が違う。あっちは険しい森って感じだったが、此方は木がポツポツ生えている。エレノア曰く此処は人の手が入っているから、整っているんだと。
そうだね、あっちは生え放題だもんな。ずっと歩いて行くと道が見えた。道って言っても草が生えてない場所ってだけ。其処から更に進んで行けば囲いに覆われた街にたどり着いた。
門があって簡単な審査をしているみたいだ。
「次、身分証と目的を言え」
俺達の番になってエレノアが答える。
「これは私の身分証。弟は初めて家を出たの」
二人してマントを被っている。年上の俺が弟の設定かよ。
「ふうん。エルフに…… そっちは人間じゃないのか」
「弟は孤児なのよ。よくある事でしょ」
「まあいいけど。物好きなエルフだな。よし、入れ」
どうやら俺、貰われっ子らしいよ。姉ちゃん身分証なんて持ってたんだな。弟っておかしいって突っ込みは無いのか。
「ユキツネは幼く見えるから大丈夫よ」
エレノアが訳の判らんお墨付きをくれた。まあ日本人は幼くみられるからか。エルフは基本引きこもり民族だから、余りしつこく聞かれないんだって。
初めて町に来た。石畳の道に建物、結構賑やかな気もする。門から真っ直ぐ歩いた町の中心地、商業ギルドを目指す。
ここで手数料を払って登録し、商売の許可を貰う。
町の規模によっては手数料もいらなかったりするけど、大きな町ではトラブルを避ける為、許可を取る。指定の場所で露店を開く。
ゴザをひいてそこにエレノアが背負って来た小さな台に野菜を並べた。ゴザの上はエルフの手作りの数々。
それから今回ドワーフに借りて来た簡易コンロ。家のカセットコンロはガスが無いから使えない。
「さあさあ美味しいじゃがいもだよーっ」
エレノアが声をあげると、注目が集まる。じゃがいもはこっちにはない野菜で、珍しいけど食べ方が解らないって事で。
ふかしたじゃがいもを用意した。味付けはハーブがたっぷり入った塩。スーパーとかでよく売っているヤツを真似した、オリジナルのものだ。
「おひとついかが?今なら十ルピで食べられるよ」
エレノアが持っていた銀貨を両替して、此方の通貨を手に入れた。他の店も軽く覗きおおよその物価を調査。
十ルピはおおよそ百円程の価値で、試食も兼ねた販売だ。食欲をそそる臭いに客が食い付く。
「旨そうだな一つくれよ」
「まいど」
通りすがりのおっちゃんが食い付いた。乾燥させた葉っぱのお皿に串を刺した物を渡す。
「オッフ!あつ、ウマっ。なにこれ旨いぞ」
「芋の仲間だよ。普通の芋よりも甘味が有るんだ」
エレノアがどや顔で応える。エレノアも最初に蒸かし芋を食べた時は感動していた。その時はバター醤油だった。
「さあさあこの美味しい芋が、一山たったの四十ルピだ。煮て良し、焼いて良しのお芋だよ」
それから凄い勢いで売れ出した。調理してある物が人気で、蒸すのが間に合わない。
「ほらほら、家で料理して貰いなよ」
エレノアが促すも、蒸かしてある物が食べたいと言われる。まあ確かにこの竹の蒸し器から出る湯気って食欲をそそるよね。試食用は一人一個だけど安いから。
結局じゃがいもは無くなる迄、大人気だった。生の物も買って行く人もいた。残った野菜と籠が淋しげだ。
「いやー馬鹿売れだねユキツネ。んじゃ私の取って置きも出しますよ」
一旦客が居なくなった所で、エレノアが持って来た物を取り出した。
「じゃーん、干し柿。これは売れるよ」
そう、エルフの村には甘い柿を渡したが、裏の敷地に生えていた渋柿も、一緒に来ていたのだ。エレノアが城の裏庭から取って来た柿が渋いと文句を付けた。
だからこれはほっぺが落ちるほど旨くなるんだと教えた。
最初は訝しんでいたが、物は試しと干し柿を作った。最初は怒っていたが甘い干し柿が出来ると、大層喜ばれた。結局渋柿は殆ど持っていって(俺は食べないから)大量に干し柿を作った。
甘いものが貴重なのに保存食としても優秀なので、エルフに凄く感謝された。
「売れるか?」
「あったり前でしょ」
しかし干し柿を買おうと言う者は現れない。まあ当然だろう。見たことも無い、萎れた果物。白く粉を吹いてる様は美味しそうに見えない。
「こんなに美味しいのに何で売れないのよ」
「大体見た目が悪すぎる。じゃがいもみたく臭いもないから、分かりにくいだろう」
「ユキツネ何とかしてよ」
丸投げである。エルフを代表して来ているのに、手ぶらで帰れないとか何とか。
仕方がないのでエレノアにパンを買って来させる。フライパンと鍋を取り出し、まず鍋で刻んだ干し柿を煮る。それからフライパンにスライスしたパン。パンに干し柿を煮た物を塗りたくれば、ジャムパンの完成である。
「甘いよ、美味しいよ」
フライパンで炙ったパンの香り。ジャムを挟んだ物を五十ルピで売り出せば、たちまち人だかりが出来た。これも好評で一人客が付けば、一斉に売れ出した。
「ユキツネは商売人の才能があるわ」
とかエレノアが宣うが、別に才能があるわけではない。ただ、美味しいものは万国共通だろう。
その日の夕方まで粘って商売をして、暗くなる前に一旦洞窟へと戻る。折角稼いだ外貨を宿代に取られたくはない。
「さあ明日は買い物するぞ」
初日は商売に明け暮れて余裕が無かったけど、初めての観光を兼ねた買い物が楽しみだ。まあ大した金額では無いけどね。




