【霊獣なるもの】
番外編です
彼の名前はテオ。彼は霊獣と呼ばれる生き物で、大気の強い魔力溜まりから希に発生するのだ。故に親は無く、つがいも存在しない。例え死んでも甦る無限とも言える生物。
テオは気付けば森にいた。自分の名前が“テオ”であると知っていたし、この世界の事を知っていた。自身の事を不思議に思っていたが、その疑問に答をくれる者がいた。
「お前は霊獣だ。私と同じ様にな」
それは一羽の大きな鷲だった。何時もの様に獲物を仕留めようと近付けば、ヒラリと交わされた。そうしてその鳥はテオに話し掛けた。
「この辺りに魔力の塊が在るのが分かった。きっと霊獣が居るのだろうと気になって見に来たのだ」
テオが色々な知識を備えているのは、以前の肉体を一度失い新しい肉体を得たからなのだとか。一人で森をさ迷っていたテオは、様々な事を教えて貰った。
霊獣は孤独な生き物である。仲間がいなくて自分の存在にひたすら疑問を抱く者もいる。だから同じ霊獣こそが仲間だとその鷲は言った。最初の出会いから時々何処からか飛んできては話をするようになった。
特に人には気を付ける様に注意された。人は一人一人は弱いが、知恵が回り思いがけぬ行動に出る事があると。霊獣は姿を変えて人間に化ける事が出来るので、人間を見たければ人間に化ければいいと。
まだ見ぬ人に興味は持てなかったが、ある日不意に人に出会った。耳と尻尾が付いていてそれが自分の物と似ている。興味を駆られて男の前に姿を現した。
「こ、これは…… 霊獣様?!霊獣様ですよね」
男は感激していた。獣人である男は霊獣は神にも等しい存在だと褒め称えた。よく見れば男には余分に耳が付いていた。人族と呼ばれる人間の耳だ。この耳のせいで彼は村に馴染めないと話した。
テオは時々森の奥で男と出会った。自分に食べ物を貢ぎ男は色んな話をした。テオは喋れる事は内緒にしていたが、男は嬉しそうだった。
男の名前はカイ。父親が気紛れに抱いた人族の女が産んだ子で、耳が余分に付いていた。獣人の耳と尻尾を持った彼を人間の国では育てられないと、父親に丸投げされた。
父親は仕方なくカイを育てたが、四つ耳を忌々しく思っていた。耳が余分にあるせいで獣人の村でも彼は孤独だった。父がふらりといなくなり彼は村の外れに追いやられた。
孤独な男とテオは出会い、テオは何とも言えない気持ちを抱くようになった。カイはテオに色んな話をした。人の話。人には様々な種族がいて、余り仲が良くないこと。テオも知識としては何となく把握していた。だが、知識として知っているのと、実際に体験したカイの話では印象が大分違う。
テオも男の話を聞くのは楽しかった。そんな日々もある日終わりを告げる。他の獣人にテオの存在がばれた。神にも等しい存在を独占していたのをカイは責められた。
「霊獣様を独り占めするとは。流石は卑しい人族の子だよ。霊獣様は村の皆の物だ」
村人を見てテオが逃げ出したので、村人は会議を開きテオを捕獲しようと目論んだ。カイが一人で出掛けると後をつけ、予め森のあちこちに罠を仕掛けておいた。テオが現れたら潜んでいた村人が仕掛けを作動させる算段だった。
テオがカイに近付いた時、森のあちこちに柵が跳ね上がった。大きな網が降り注いで来た。
「おおおっつ!霊獣様を捉えたぞ。更に網を投げ込めっ!」
「くっ!何をするんだ!霊獣にこんな真似を」
「煩い!四つ耳の分際で霊獣様を独り占めするとは。霊獣様は皆の物だ」
二人の上には幾つもの網が重なった。この所業にテオは怒りを露にした。
「ヴヴッ!グヲオオオオオオオオ!!」
テオの回りに炎が吹き出し、網を焼いた。テオを囲った柵の間から村人がにじりよる。
「霊獣様、大人しくしてください。危害を加えるつもりはありません。ただ、村にお越し頂きたいのです」
勝手な言い分にテオは更に怒りが増した。上空に黒雲が集まり始める。
「な、なんだ?一体」
ゴロゴロと音を立て、カッと閃光が走る。
「うわぁああ!!」
雷が落ちて辺りは静まりかえった。テオは倒れている人を尻目に、ゆっくりと歩く。
「うう…… 霊獣様」
テオの側にいたカイは衝撃が少なかった様で意識があった。
「ごめんなさい、俺のせいで。村人がこんな真似をするとは思わなかったんだ」
テオはもう獣人に関わるのを止めようと思った。まさか捕まえて飼い慣らす事が出来ると、思っていたのか。霊獣は誰にも縛られない存在だ。カイには悪いがもう会わないと決めた。
その後のカイの様子が気になり、村へとこっそり足を運んだ。夜営の松明の元でカイは暴行を受けていた。
「全部お前のせいだ!四つ耳の分際で。お陰で霊獣様の怒りを買ってしまった」
「霊獣様のお怒りを受けた等と、他所に知れたらどうするつもりだ」
「お前さえいなければ」
勝手な言い分にテオは憤った。村人の所業に呆れたが、カイには何の落ち度もない。
「ヴゥルヲオオオオオ!!」
カイの前に飛び出した。テオは軽く振り替えってカイを見ると、カイはヨロヨロと走り出した。
「れ、霊獣様、俺達はただ」
「ウォオオオオ!」
カイに暴行を加えていた連中に飛びかかると、前足で軽くはたいた。それだけで男は地面を転がり傷だらけになる。散り散りに逃げ出すも、テオが跳躍すると簡単に捕まり地面を転がされる。騒ぎを聞きつけ村人が集まってきた。
「おお、霊獣様。わが村に来たくださったのか。これで………… 」
「ウォオオオオ!!!」
誰の目にも解るほど、テオは怒りの感情を村人に向ける。
「昼間はご無礼を働き申し訳なく思う。だが、これも村の━━━━ 」
『黙れ』
初めてくぐもった声でテオが喋った。村人は息を飲む。テオは近くの建物を壊し始めた。
「れ、霊獣様、お止めください」
「ガウゥウウ」
風の魔法を使う。鋭い風が巻き起こり、テオの回りの建物を切り裂いた。
「霊獣様、霊獣様!」
村人はおろおろするばかりだ。ある程度破壊するとゆっくりと村を後にした。村人は黙って立ち尽くした。
人に深く関わると録な事がない。知識ではそう思っていたのに、何故関わってしまったのか。霊獣は孤独な存在だ。だからこれからも一匹で生きて行かなければ。
人と関わるのならば人のふりをしよう。カイの姿を思いだし獣人の姿になった。ふと顔の横に手を当てれば耳が余分に付いている。このままでいい。この姿ならば、人としても深く関わる事も無いだろう。
テオは森を離れて歩き始めた。




