82. 帰還
今日もいい天気だ。やや雲が多いがまったりとしている。遠くの方から色とりどりの光の玉が飛んできた。あれは━━━━━━
『主殿ぉおおおお!!』
ちっこいオッサン達だ。帰ってきたんだな。凄い勢いで飛んでいる。光の玉は競うようにぐるぐる回って飛んでいた。
『ワシらが、
ワシらが留守にしたばっかりにぃいいいい!!』
『ワシは、ワシは、主ぃいいいい!』
どうやら国内の変化を察知したようだ。各々が到着すると同時に姿を現した。
『今直ぐに、直ぐに参りましょうぞ』
『荒れ地を元に』
『街を、囲いを強化すべき』
「まあ待ってくれ。気持ちは分かるが」
『主殿?』
俺は今回の件で今まで精霊に頼りすぎていたことを伝えた。そのせいで余計な反発を国民にさせた事を。
『ムムッ、確かに今までワシら調子に乗りすぎたかもしれん』
『ついつい楽しくて、あちこちに手を加えてしまったのう』
『うむぅ…… 張り切り過ぎたのじゃ』
「これからは人力で街を作る必要もあると思う。畑はまた力を借りて整えたいけど、大工も育つ国にする必要があると思うんだ」
『主殿、成長されましたのう。いや、一気に大きくしてしまったのは、確かに良くなかった。家を守る精霊が”家“である国を傾けてしまうとは、本末転倒じゃ』
皆が納得してくれた様で良かった。城の畑を整え次の作物を育てる準備をする。既にエレノア達がある程度整えてくれた。少し畑を休ませたら種を育てて貰う。
公園だけは夜中にこっそり行って、綺麗にしてもらおう。癒しの場所が必要だ。
これからは大工も必要になる。だが直ぐに職人が集まる筈もないので育成が必要だ。大工はドワーフの工房が引き受けてくれる事になった。これから職人の希望者を募り、工房を手伝いながら大工の技術を学ぶ。
問題が全て解決したわけではない。俺を襲った魔術師は自白をしたが、それだけで決定的な証拠として魔術師を送り込んだ国に、抗議を申し入れる事は出来なかった。相手が認めなければ魔術師の言葉を信じるのみだ。実際リンドガルディアがメルギデッドの王に説明を求めたが、知らぬ存ぜぬの一点張りだ。
他国の陰謀だと言われてしまえばそれまでなのだ。だが今回の件はメルギデッド国にとっても大きな痛手だ。魔術師は貴重な存在で、それが五人もいなくなれば大きな魔術が使えなくなる。
これ以上ヒ・イズルに攻め入ることは無いだろうとの見解だ。他国にも今回の顛末を知らせて、改めて精霊と霊獣のいる国に容易に手を出すべからず、と触れ回っているそうだ。もやもやした気分だが仕方あるまい。捕らわれた魔術師の処分にも頭を悩ます。
俺はなるべく極刑は避けたいが、前回のように無謀な若者の出来心ではない。王に密かに任務を任され明確な殺意を持って事を起こした。魔力を持っているので早めに処分した方が良いとの見解だ。俺にはそれを決断する勇気がない。
「でしたら私が決断します」
カイラスはそう言ってのけた。昨日の土下座から一転、クールな宰相が戻って来た。
「貴方は何もしなくとも良いのです。この国の影の部分は見なくても、王であればそれだけでいい。嫌な事は全部私のせいにしてください。私は全て受け入れます」
「でも、俺は王様だろう?」
「そうです。ヒ・イズル国に必要なのは貴方だけで、他はどうでも良いのです。そのために宰相になりました。貴方は優しすぎます。それは美徳であり、大きな欠点でもあります。王は優しさでは務まりません。切り捨てるべきは切り捨てるのです」
「カイラスはそれでいいのか」
「私にとって一番大事なのは同胞です。エルフの仲間が幸せに暮らすには、ユキツネ様が王である事が必要です。ですから私にこの国を、王を、仲間を守らせて下さい」
カイラスは辛い思いをした仲間にこれ以上の苦痛を与えたく無いのだと。だから仲間の幸せを守る為になら、どんな非道な真似でもするのだと。ジルフィンも俺が決断出来ない事は、カイラスが全部変われと言っていたそうだ。
「以前にも申し上げた筈です。私達は貴方を失ったらもうお仕舞いなのです。肩書きだけでも構いません。王であって下さい」
カイラスは膝をつき、頭を垂れた。俺の何倍もの時間を生きているエルフが、人族である俺に懇願する。カイラスはどんな気持ちでいるのだろうか。
結局カイラスに今回の件を一任する形で、俺は引き下がってしまった。自分の弱さにも嫌気がさす。結局は何も決断出来ない王様か。弱虫で未熟で優柔不断。きっとこれからも似たような事があれば、決断出来ない。
「はぁ、いっそ世界征服でもすればいいのか」
誰かが俺に囁いただろう?征服しろって。国が一杯あるからいさかいが起きるんだ。一個にしちゃえば問題無いだろ?
「天下統一!!!」
いや、そんなわけあるかい。引きこもりなのに帝王にでも成るのかって。もっとあり得ない。
『あ、主殿………… ワシは、ワシは』
「あ、ドノム?」
『主殿ぉおおおおおお!!そのような盛大な計画をお持ちだったとは。よっしゃああああああ!やるぞ、皆の者』
『おう、ここが踏ん張り処じゃ!』
『あ、主が、せ、世界を』
「ち、違う、違うから。そんなの無理だし。張り切るなよ」
ドノム達は興奮して庭で踊り始めてしまったが、違うんだ。俺が本当にやりたいのはスローライフだから。のんびり田舎暮らし。その後もずうっと踊りは続いた。
もう何にもしないから。




