80. 王様、狐になる
昨夜はよく眠れなかった。王様に相応しく無いって現実を改めて思い知らされた。きっと殆どの人がそう思っているのでは。そう考えると階下に赴くのも憚られる。
「ユキツネー!!降りて来ないと燃やしてしまうぞ!」
チビッ子が現れた。人間に化けたドラゴンだ。小さな口から炎が漏れる。器用だな。
カミルに引きずられる形で下に降りて行く。食堂では相変わらずおばちゃんが愛想よく話しかけてくる。生返事をしつつ食事を済ませ、廊下に出れば土下座をした集団が現れた。
「陛下、この度は私の監督不行き届きです。どのような処罰も甘んじて受けますが、業務だけはさせて頂きたく存じます」
カイラスが先頭で土下座していた。その横は補佐を努めるエルフ二人。
「我々が未熟なばかりに、陛下に不快な思いをさせ、大変恐縮にございます。出来ればカイラス様の分も私達に罰をお与え下さい。例え極刑でも甘んじて受けます」
「私も全く同じ考えに存じます」
「いいえ、皆様が居なければ内政はたちまち覚束なく成ります。私達、部下全員の命では賄え切れませんが、それで怒りを納めて頂きたく存じます」
後ろのおっちゃんも何故だか死ぬ覚悟だよ。どうやら昨日の出来事はカイラス達にとっても、大変な事件だったみたいだ。まあ王様のリコールだもんね。
「一同面をあげい!」
一斉に顔を上げる集団。うん、時代劇で見たよこんな場面。
「今回の件は実際に行動を起こした四人の処罰だけとし、他の者は一切の処罰は行わない。極刑も無しだ」
「陛下、それでは余りにも処罰が軽すぎるのでは」
「煩いぞカイラス!王様の決定にケチをつけるなよ。どんなに不満が有ろうとも、俺は王様だ」
「………… 申し訳ございません。重ねて王に楯突く真似をしてしまうとは」
再び深く頭を垂れる。一同が廊下に座り込んでいるので解散して、通常の業務をこなすように命令する。王様の命令は絶対だ。ここでは弱気に振る舞ってはいかん。死ぬって言ったら本気で死ぬよこの人達。
王様の威厳を取り戻すにはどうすれば。………… 俺は、狐になる!
城の門を開き、広場に人を集めさせる。急遽馬車の上にお立ち台を作ってもらって、その上に乗った。俺の手には拡声器。
「あー、テステス。皆聞いてくれ。俺はヒ・イズル国、国王のユキツネ・ヒヤマだ。最近は俺を王様に相応しくないと考える輩がいるようだ」
民衆がざわつきだす。その通りじゃないかとささやく声。負けるな俺のメンタル。
「だが、俺には強い味方がいる。コイツが居れば俺は無敵だ!」
真っ黒な影が俺の前に現れる。怒気を放つブルーブラックの獣だ。
「キャアア!」
「ヒィイイイッ!」
あちこちで悲鳴が上がり、ちょっとしたパニックだ。だが、俺は演説を続ける。
「文句が在る者は、俺の霊獣と戦うがいい!コイツに勝てたら何でも言うことを聞こう」
広場はシンと静まり返った。テオの魔力は魔力の少ない者でもビビるらしい。何時もは押さえている気を放てば、どんな人間でも刃向かう気にはなれない。
「挑戦したい者は門番に申し出てくれ。随時受け付ける」
ざわざわ。そのまま兵士が馬車を引っ張って城まで退場する。これが虎の威を借る狐作戦だ。百パーセントテオの力を利用した荒業だ。テオの姿を実際に見て、挑戦する者はまずいない。広場には腰を抜かした連中もいた。
手荒い真似だがこれ以上の反発は避けたい。時には権力を最大限に発揮せねばならんのだ。城に戻れば不満げな少女が一人。
「私の力をならばアイツら纏めて蹴散らすのに」
「蹴散らすなよ、大事な国民だぞ。大体それこそ大騒ぎで皆が逃げ出すだろう」
このドラゴン、ヤバい。国民をやっつけてどうするんだよ。もういつ正体をばらすのかと、気が気でならない。いっそ早めにばれて欲しいようなそうでないような。今は更なる混乱を招くだけか。
久々の獣姿のテオに城の人間もビビっている。今は気を静めているはずだが、動物園もない世界で大きな獣に出会うのは、そいつと戦う時。城の兵士やメイドも慌てて姿を隠す。人から見られない場所で獣人に姿を変える。正体を知っていても知らなくても怖いものは怖い。無愛想な獣人の方がましだ。
「ユキツネは獣に頼りきりだのう。私の方が役に立つぞ」
「カミルは皆に恐れて欲しいのか?可愛いって思われたいんだろう」
「う、そ、それは…… そうだな」
頭を撫でてやると大人しくなった。魚人の村での事をもう忘れたのか。テオに対抗意識を燃やすなよ。まあ俺を守ってくれる気持ちは嬉しいが、カミルはちやほやされたいタイプだ。嫌われたくは無いだろう。
テオはすっかり嫌われ者になってしまったが、元々恐れられている、と開き直っていた。まあ誰もテオが寛いでいる時の姿を見ていないから、仕方あるまい。この無愛想な男がゴロゴロ言って目を閉じているのは、想像も出来ないだろう。
その後、無謀な挑戦者が現れた。二人ほどだったが当然の如く瞬殺だった。城の前の広場で一般人が見物出来るように、兵士が囲ってその戦いを見守った。だが、予想通り鋭い爪で転がされて血まみれになり、最後は魔力と物理で抑え込むと、意識を失った。
カミルからすれば人間ごときに負ける霊獣はいないとさ。俺も分かっていたよ。この森で最強の生き物だからね。




