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79. 裸の王様

 

 エルフである私、カナトゥスは本日大変肝の冷える思いをした。他国から王を弑する為に魔術師が送られ、それを霊獣様が捉えたのだ。国王陛下に霊獣が寄り添っているのは聞いていた。

 エルフの村で過ごしていた私は、霊獣様の姿を見たことが無かったのだ。魔術師を見張るために街に呼ばれ、仲間と共に見張りをしていたのだが、国王が急に現れた。


 噂に違わず平凡な容姿。だが、その後ろに控える獣人の姿をした霊獣様。そのお姿に息を飲んだ。何故か四つ耳に変化していて鋭い眼光を放つ。本来の姿で無くとも感じる圧倒的な魔力。それが怒りの感情を伴って私達魔力持ちに突き刺さる。

 囚人のいる部屋に入る直前に獣のお姿になられた。その気配を隠そうともしない圧力は、正直息苦しくなるほどのプレッシャーだ。私達よりも魔力の高い囚人どもにはどれ程の恐怖だろう。


 別室で幼い少女と控えている国王は何も感じていないようだった。魔力を持たないとは言えあれ程の存在を、常に側に置くこの国王陛下は何者であろうか。


 私は他国で奴隷として扱われ、主人に逆らえないように封印を施され働いていた。魔力持ちである私は毎日魔力が枯渇するまで働かされていた。何のために生きているのかと疑問を抱く日々。いつかは隙を見て解放される時を、息を潜めて待ち望んだ。


 その日が訪れたのは突然だった。罪深き帰らずの森と呼ばれる場所に仲間がいるのだと。離ればなれになった仲間は以前よりも立派な村を作っていた。それは精霊の加護を受けた村。この平凡な男ユキツネ・ヒヤマが精霊に望んで作られた村なのだと。


 初めに森にたどり着いた連中は、こぞって国王の素晴らしさを説いた。傷付いたエルフを迎え入れ、ドワーフを助けた。他国で貧しい暮らしをしていた人々を迎え入れ、難民を引き受けた。そうして遂にはエルフの奴隷解放。


 人族によって離ればなれになったエルフが、安心して暮らせる場所を用意してくれたのだ。最初は警戒していた同胞も日がたつにつれ、ここは安全な場所だと悟った。


 あの何者であろうとも寄せ付けない霊獣様を、何でもないように扱う。国王がいきなり霊獣様の尻尾を掴んだ時は肝が冷えた。明らかに怒りを振り撒いている霊獣様に、あのような事をされてはどのような目に会うのかと。私達五人は恐怖で凍りついたが、霊獣様は眉一つ動かさなかった。国王陛下は何時もあのようにされているのだろうか。その精神はどうなっているのだろう。


 ともあれ霊獣様のお力によって彼等の悪事も明らかになった。証拠の映像も魔道具に記録され、糾弾すべくカイラスに報告をする。友好国であるリンドガルディアの力を借りる事に成るのだろう。


 隣国の王は精霊と霊獣を恐れている。リンドガルディアに比べればただの小国に過ぎないヒ・イズルに多大な力を貸してくれる。人族は精霊の力を信じない輩も多いが、通常人に力を貸しているのは精霊の中でも、大きな力を持たない者だ。彼等は常に退屈し、気紛れに気に入った人間に力を貸す。


 例えその結末が大国の崩壊であろうとも、精霊にとっては暇潰しの一環なのだ。嘗て大きな力を持つ精霊に気に入られたエルフがいた。精霊は幼子のように無邪気で残酷なのだと教えてくれた。精霊の友になるには危険と常に隣り合わせなのだ。


 今日の出来事は改めて国王の偉大さを思い知らされる、衝撃的な物であった。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「一応魔術師の件も落ち着いたし、もうすぐ解決だな」


「ユキツネは気楽だな。直ぐに落ち込んだり上がったり」


「仕方ないだろ。俺は元々後ろ向きな人間なんだ。王様向きじゃ無いんだよ」



 城までは地下通路を歩く。地下通路は俺専用の扉があって安全に出入り出来る。屋上と同じシステムだ。何せ収容所と行き来が簡単になれば城が危ないからな。


 城に戻った俺達は城の中をぷらぷらしていた。すると一人の男が現れた。


「国王陛下にお話があります」


 彼が身に付けている制服は、カイラスの部下の物だ。内政の大半を取り仕切るのはカイラスの仕事だが、細かい業務は部下に任せている。人族にはまだ信頼の出来る人員がいないので、殆どの業務はカイラスがこなしていた。

 だがそれにも限界はある。昔からの知り合いであるエルフ二人と、部下に細かく仕事を振り分けているのだ。本当は人族を多く配置した方が余計ないさかいが起きないのだが、難民であった人間を信用は出来ない。


 彼に招かれて城の一室に入ると、他に三人の人間が控えていた。


「国王陛下にわざわざご足労頂き、恐縮至極にございます」


「我々一同、陛下に直にお目通り願い、お話を聞いて欲しかったのです」


「カイラス殿には反対されましたので、直にお声掛けしたことをお許し下さい」


 うむ、今までカイラス以外の内政に関わる人間と話した事は無かったな。これも国王の務めか。俺とカミルはソファーに腰かけた。一同は目線が下になるように膝をつく。


「で、話とはなんだ」


「ハッ、只今国内は大変荒れた状態になっております。国民は王がお力を失ったのではと疑っているのです」


「もしも精霊が逃げ出したのならば、早めに対処してほしいのです」


 なんだか話の雲行きが怪しくなってきた。精霊が居ないのにどうしろって言うんだ?


「対処、とは?」


「失礼ながらに国王陛下には、その大役が重荷では無いかと存じます。陛下は内政は不心得だと聞き及びました。ならばこの国には新しき王が必要かと考える次第であります」


 なんと、俺が王様に相応しく無いから王様辞めろって話かよ!流石に俺もびっくりだよ。たった数日でリコールされるとはね。何れは交代する予定だが、今はまだその時期ではない。まだまだ国としては未熟な状態で丸投げは出来ないからだ。


「ふざけんなよ。お前らが王様になるつもりか?!」


「いえ、我々ではなく他国より王族を招き入れ、取り仕切って貰うのです。王の何足るかを学んだ人間でなければ、国王等は務まりませんから」


 くっそ、馬鹿にしやがって。つまりは俺は王様なんかじゃ無いよって話だ。そりゃあ王様には相応しく無いけどさ。でも。


 コイツらのにやけた顔は俺を王様って認めていない顔だ。言葉と仕草はうわっぺりの物で、全員が俺を王様と認めていない。知っているさ相応しく無いのは。でもここで逃げ出すほど薄っぺらい王様じゃないんだ。


「お前らよくぞそんな事が言えるのう。なあユキツネ、こんな馬鹿な連中は纏めて山に捨てて来ようか?」


 カミルは怒っている。今ここで俺が王様を辞めたらヒ・イズル国は完全に崩壊する。コイツらは再び難民へと逆戻りだろう。そんな簡単な事も理解出来ないのか。カイラスが信用出来ない訳だ。


「話は終わりだ。お前らの処遇は追って沙汰を出す」


 立ち上がって背を向ける俺に、一人が駆け寄ろうとする。


「陛下!これは国民の為………… 」


 テオがすかさず立ちふさがり、その頭を鷲掴みにした。右腕一本で宙吊りにされた男は、テオの爪が食い込み血を流していた。


「う、あ……」


「ユキツネに近寄るな。王に楯突く者は処分する」


 テオの過激な発言だが、今は彼等を擁護する気になれない。残りの三人は腰を抜かし、失禁する者もいたようだ。コイツらはテオの怖さも知らなかったんだ。


「獣が、狭い部屋で圧を振り撒くな。普通の人間にはきつかろう」


 どうやらテオが放った魔力に怯えているようだ。魔法の使えない俺にはさっぱりなんだけど、この四人には効果的だったようだ。震えながら土下座をして許しを訴えた。このままには出来ないので、牢屋へ入れてどうするかを決める。兵士に連れていかれる姿はすっかり小さくなっていた。


 内部でこんな事が起きるなんて、正直ショックだ。同じことが無いようにせねばならないだろう。







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