49. 複雑な思い
エルフ村に仲間が増えた。エルフを襲った元凶であるバステドロ国から、捕らえたエルフの一部が解放された。長老達は酷い環境で檻に入れられ、その他は奴隷として扱われていた。
エレノアの話によると、村に連れて帰ったエルフは驚いていた。既にエルフ専用の立派な住居が用意され、まるで襲撃を受ける前のように、仲間が暮らしている。村の子供達の笑顔が全てを物語る。
ジルフィンやエレノアが大変な思いをして、森の奥に分けいった事、更に仲間とはぐれた事、数人は命を落とした事。お互いの苦労を知り、時には涙を流し話し合った。
俺の事も話された。最初の出会いから大きな国に成るまでの経緯。それが精霊の仕業と知れば、エルフは驚愕した。ここまでの力を人のために発揮する精霊。そんなのは聞いたことも無かった。
「奴隷にされていた人は大変だったみたい」
見た目の美しいエルフ族。酷い扱いを受けたようだ。肉体的に傷つけられた者もいる。
「ユキツネには皆感謝しているけど、やっぱり人族を恐れているわ。とても酷い目に会ったのだもの」
まあ奴隷にされたならば、人間不信になるのも当然だろう。俺がいつ手の平返しをして、エルフに危害を与えるのかと不安がってるようだ。
「まあこればっかりは俺にはどうしようもないから、皆でケアしてやってくれ」
「そうね。これからもそんな人達がやって来るのだわ。私が頑張らないと」
村は気に入って貰えたようだ。以前の村より立派な造りのログハウスに、感激していたみたいだ。街と距離を置いてあるのも良かった。
「長老達は感激していたわ。何せユキツネの精霊が整えてくれた村だもの。とっても快適に暮らせるわ」
「そりゃあよかった。精霊も喜んでいるよ。また人も増えるしな」
エレノアの両親は侵略者から逃げたから、今回の奴隷には含まれないだろう。エレノアも色々複雑だ。
その後もバステドロ国からの奴隷が次々やって来て、その度に数人の兵士を返した。最後の馬車が来て、兵士も居なくなる。千人以上のエルフが解放されたのだ。
村は見に行ってはいないが、随分と活気に溢れている模様。昔のように穏やかな生活をおくっているらしい。街にもエルフが増えた。基本は村で暮らすけれど、最初のメンバーで持ち回りしていた、見回りエルフは希望者が務め、兵士を訓練するエルフも、決まった人物となった。
やや体格の良いエルフのダルクが兵を鍛える。以前にも傭兵のような事をしていて、実践で役立つ兵を育ててくれるそうだ。
チビッ子はまた別の人が教える。
大変な思いをし心身共に傷ついたエルフも、それぞれが新しい役割を担って少しずつ馴れてくれればいい。
「これで本当に…… 平和、だよな?」
家でゴロゴロしながらテレビゲームをしている。このゲームも大分やり尽くしたが、家でする事がない。王様?なんの事やら。俺は元々普通の人だった筈だ。
「とーおーくーへー行きたいっな♪」
全然スローじゃないよ俺のライフ。街は活気づいて人が行き交い、物資の心配も無くなった。俺の国には働かない大人はいない。平和な国なはずだ。
最初は誰も居ない街を眺めては、ここが大勢の人で溢れる姿を想像した。だが実際はどうだろう。俺が求めたのは気の良い隣人だったはずだ。俺を見て頭を下げる人を求めてはいなかった。今は街に人が溢れ、活気に満ちている。だけど。
「たーびにーでーたいなっと♪」
『主は旅立ちなさるのかの?』
ドノムが現れた。他の精霊も次々現れる。国民が増えたので彼等の仕事は、街を整備して回るだけだ。
「もう満足だろう。これ以上増やせと言われてもな」
『そんな事は申しませんぞ。我等は主が旅に出てもちゃんと家を護って見せます』
『そうじゃ、留守は任せて貰おう』
『但し絶対に見捨てては成りませぬ。主の心が我等から離れれば、この街は衰退致します』
『主には主の生き方が有るんじゃ。だが、この世界での主の家はここだけじゃ』
ここではない何処かへ旅に出たい。人はそれを現実逃避という。都会のしがらみから抜け出したのに、今はがんじがらめな気がする。見えない何かに押し潰されそうだ。
テオはこんな俺をどう思うのか。
「ユキツネの好きにすればいいさ」
うん、予想通りの答えだったよ。このツンデレ生物め。テオは自由気ままな生き物だものな。そこが良いとこだけれども。
取り敢えず一回離れたい。そうして見つめ直す。以前のように逃げ出すのではない。だってもうこれ以上は逃げられないのだから。
翌日の昼に顔を会わせたエレノアに旅立ちを仄めかして見る。
「旅?自分探しってなに?それなら私も」
「大陸を離れて見ようかなーなんて。えっと、結構大陸から幾つか行ける場所があるらしいんだ。行ってみたいと」
「私も行く!」
「大陸から離れたら、両親を探せないだろう?エレノアの旅の目的はそれじゃ無いのか」
「エルフを舐めないで貰いたいわ。エルフには大陸を渡る秘策があるの」
エレノアは乗り気だ。正直テオと二人の旅は不安でもあるが、エレノアはきっと着いてこないと思っていた。何だかんだで仲間思いな奴だ。村で皆のケアをしているし。
宰相のカイラスにも少し旅に出たいと話した。反対されるかと思いきや、見聞を広めるのは王として素晴らしい事ですと、賛辞を送られる。これは只の俺の気分の問題で、見聞とか正直どうでもいいのだが。
前回は嫌々旅だったが、今回は俺が一時的に逃げ出したいだけだ。結局俺って奴はどこへ行っても本質は変わらない、詰まらない人間だから。大した肩書きを貰っても、結局同じ人間だからな。
再び旅の支度を始める。以前は戸惑う事ばかりだったが、もう初心者ではない。しかし再びトカゲを使うべきか悩んでいたのだが、エレノアがドンと任せろと言ってきた。何を任せるかは分からないが、妙に自信ありげである。
旅支度が終わると一旦エルフ村に集合だ。夜明け前に家を出て、三輪車を漕いでいく。エルフ村まで歩くと俺の心が折れるのだ。テオは本来の姿で横を走る。格好いい獣である。
「来たわねユキツネ、こっちよ」
エレノアが俺達を招いたのは、転移小屋だった。
「これは………… エルモニアに行くのか?」
「違うわよ。フフッ、エルフが転移出来るのが、一ヶ所だけなんて甘いわよ」
何とエルフは離れた場所に住む仲間の元へ、行き来出来る様に世界中に転移場所があるのだと言う。近くにエルフが住む場所がある所だけだが、はぐれた仲間も他のエルフに出会って、大陸を渡った可能性もあるのだと。
転移はエルフの誰もが使える訳ではない。エルフ全員で魔力をためて初めて稼働するもので、気楽に行ったり来たりは出来ない。
「でもユキツネの為なら皆協力してくれるわ。ユキツネは私達の王様だもの。私達はユキツネに忠誠を誓ったのだから」
エレノアに魔石を持たせるのも、俺が不自由しないようにとの配慮だった。前回もそんな事言ってなかったのに。
「ユキツネは自分で思っているより、皆にとって大切な存在なのよ。この国の王様はユキツネだけだよ」
現在、転移の魔方陣には毎日エルフが魔力を貯めて、数回は行き来出来る状態になっている。エレノアが魔石を預かっているから、安全に旅が出来る。
「渡るわよ。西の大陸ルドラドへ」
大陸から島を巡る旅を想定していたのに、西の大陸に行くことになっていた。うむ、おかしい。旅の主役がエレノアになっている。




