35. 混乱
長旅を終えた俺はヒ・イズル国に帰って来た。エルフ村から城へと向かう。街の入り口では皆が出迎えてくれる。
「王様だー」
「王様お帰りなさい」
「王様ばんざーい」
王様が軽い。皆がわらわら寄ってきてあれこれ聞くのをカイラスが嗜める。
「王はやっと帰還されたのだ。話は後日にして、城へ迎えるのだ」
見回りエルフとドワーフ、ヘッポコ兵士二名に囲まれ城に帰る。何だかんだでここは我が家の一部なんだな。やっと落ち着いた気がする。それにしても━━━━ 。
人が増えたと思うんだ、気のせいじゃ無くて。百人も居ない国では見た事ない人はいない。なのに出迎えの時に少ないながらも男がいたし、女性も見ない顔があった。どうやらドワーフが人を集めてたらしい。
少しずつ活気づいて行く様子に嬉しくなる。そして俺は屋上の家に向かう。我が家だ。ここまでくれば本当の意味での帰宅だ。
『主殿~、今回は余り人が増えませんな』
『リベンジじゃあ』
『よっしゃこっちの国にも挨拶おば』
いや帰宅するなり出て来て好き勝手言うなよ。俺は平和主義者だぞ。家の布団は最高だな。
朝、目覚めればささやかながらお帰りの祝福の嵐である。食堂のおばちゃんも張り切ったメニューだ。いつもは品数の少ない朝食も数種類の品が並ぶ。醤油味の和風パスタが美味しい。干し肉を入れて醤油で味付けしたシンプルなパスタ。たっぷりと刻んだ紫蘇が乗っかっている。
川魚の焼いたヤツもある。これは白飯で食べたいが、米は量産していないからな。そう言えばここは海から遠いんだ。刺身とか食べたくなるけどそもそも生魚は食べないんだろうな。
少しすれば直ぐに平和な日常へと戻ってきた。冒険者の真似事をしてみたが、やっぱりインドアには向かない職業だ。当分はこのままで。
『主殿~』
『お出かけもいいもんじゃろ?』
『今度はワシがでるぞい』
………… 暫く放っておいてくれないかな。
「ユキツネはまた旅に出るのだろうか」
テオがそんな事を言ってきた。テオまで何を言い出すのかと思えば。
「森には足の早い獣もいる。馬車を引くならもっと早い生き物が良いだろう。俺なら捕まえられる」
おお!なんと。正直トカゲの旅は時間がかかった。歩くよりはましだが、道中では抜かされてばっかりだったもんな。テオが生きのいい獣を捕まえると言うので、任せる事にした。なおトカゲは城の隅に小屋を作りそこにいる。くず野菜をもりもり食べている。
それからエルフ村では。
「じゃーん!ユキツネ玉子。ちゃんと鳥の玉子だよ」
エレノアが玉子を持ってやって来た。しかしサイズがおかしい。両手で玉子を支えている。
「ユキツネが言ってたから、鳥の飼育を始めたんだよ。この玉子は十日に一度位で取れるよ」
この世界に鶏を期待した俺が浅はかだった。ガチョウの玉子かってサイズだった。見た事ないけどさ。
「またプリンを作るのかなぁ?」
エレノアの期待に満ちた顔を見て決める。プリンは絶対作らん。しかしこれだけの玉子だ。あれにしよう。
すっかり試食する気のエレノアだが、お前は呼ばないとは言えない。子供達の期待を裏切れないからだ。
「ユキツネ、皆来たよ」
翌日の事だ。俺はすっかり忘れていたのだった。
「ええと、凄い多いな」
エルフ村の子供は七人に増えたんだった。六畳間は満員である。そしてDVDをセットする。世界を旅する番組のDVDだ。新メンバーはキャーとかおお、とか賑やかに見ていた。その間に俺はトマトソース作り。
油を引いた鍋にニンニクを入れて玉ねぎ、セロリ、人参を刻んだ物を炒める。肉も入れて炒める。刻んだトマトと月桂樹の葉を入れてひたすら煮込む。醤油、胡椒、味噌を入れて味付け。
フライパンで鶏肉を炒める。ご飯も入れて炒め、更に先程のトマトソース。
別のフライパンに油を引き、溶き卵を入れる。箸でフライパンの隅に纏めたら炒めたご飯の上へ。次々作って最後に残っているトマトソースをかける。オムライスの完成だ。
「おーい出来たぞ」
「やったー、って卵焼き?」
全員の皿を用意し、スープも付けてやる。新しい子も戸惑いつつもスプーンを取る。
「いただきます!」
「い、いただきます?」
先輩住民に習って食べ始める。
「わあ、中のご飯に味がついてるんだ。凄い美味しい」
初めてのオムライスに子供達は夢中の様子。本当はケチャップで作りたかったけど、ケチャップが無いので味付けに苦労した。ケチャップは甘みや酸味があって美味しいよね。
お腹を満たした子供達は暫くワイワイと騒いでいた。新しい子も初めて見るアニメに感心していた。エレノアがどうして絵が動くのと聞くので、ノートの隅に簡単なパラパラ漫画を書いてやった。すると子供達が書いてみたいと言うので、ノートと鉛筆、消ゴムを貸してやる。
思い思いに書いたり消したりして、暫く遊んでいた。新しい子もすっかり馴染んでくれて何よりだ。子供達が帰った後、城を見て回る。平和だ。このままずっとこの平和が続けばいいのに。
好事魔多し━━━━ 。異世界は平和じゃいられない。
「ユキツネ殿大変です。森が今までに無い程騒がしいのです」
今日の見回りエルフがそんな事を言ってきた。櫓から見れば、確かに凄くざわついている。そのざわめきは確かに城を目指していた。今までは好い人ばかりだったけど、次もそうとは限らない。
それにしても、だ。
「何か凄くざわついていないか?」
森の木が倒れる音がする。誰かが魔法を発動しているらしい。暫くするとチラッと人影が見えた。
「人が沢山いるようです。どうしますか?」
「取り敢えず中に入れよう。考えるのは後だ」
壁に作られた木の扉を激しく叩く音がする。エルフが開けると男がなだれ込んだ。その後も人が続く。
「おい、魔物が入って来ないうちに閉めろ!」
最初に入ってきた男が勝手を言う。だが人がどんどん入ってきた。時折魔物が入って来ようとするが、数人が応戦している。その後も人の波が続き、広場は大勢の人で溢れた。明らかに国民よりも多い人数。
「何だってエルフがこんな所に」
「こんな森の奥に国が在ったのか?」
「ここはいったい………… 」
大勢の人間が森の奥までやって来た。それは何故か。一気に人が増えすぎるのは良くない気がする。
混沌と混乱。既に人々は自由に振る舞っている。広場の一等地を陣取るエレノアの店に人が押し掛けていた。
「駄目だよ勝手に持っていかないで!」
「うるさい、俺達は腹が減っているんだ。寄越せ」
俺はどうしていいか分からない。
「テオ、どうしよう」
「人に見つから無いように、元の姿に戻ってこの場を納める」
そう言ってテオが駆け出した。人影がない場所へと。暫くすると獣の咆哮が聞こえる。
「ガォオオイオオ!!」
「ワアッツ!」
「キャーァアアア!」
「魔物だ、退治しろ!」
ブルーブラックの獣が人を掻き分ける。エレノアの元へと歩いて行った。
「エレノア!無事か」
「その獣は一体何だ?」
エルフの二人も混乱している。初めて見る大きな獣を誰もが恐れていた。ヒ・イズル国は嘗てない混乱の渦に巻き込まれた。




