36. 困惑
俺の国、ヒ・イズル国にかつてない大量の人がなだれ込んできた。壁の内側に招き入れたものの、大勢の人間は好き勝手に振る舞う。
「ヴォォオオオオ!!」
テオが獣の姿で地響きのするような声を張り上げる。エレノアの店に殺到していた人波は引けて行った。
「ウインドカッター!」
突如テオ目掛けて風の渦が飛んできた。だがテオの前で弾かれる。
「くッ、魔獣ごときが。ファイアボール!」
バクッ、テオは火の玉に飛び付き飲み込んでしまった。だ、大丈夫なのかテオよ。
「攻撃をやめろ!俺の国で勝手をするな」
エレノアの方に駆け寄って叫んだ。人がざわざわとこっちを見ている。
「これ以上好き勝手するなら出ていって貰う。俺の名はユキツネ、この国の王だ。暴れる奴は霊獣が黙って居ないぞ」
俺はテオの横にたってその背を撫でた。霊獣と言う単語に人々は戸惑いを見せる。精霊と同じく人前に滅多に顔を出さない存在だ。最も霊獣は魔物と同一視されがちだからなのだけれど。
この連中をどうすべきかと悩むが、エルフの青年二人はエルフの村とドワーフの工房にこの事を知らせるべく走っていった。取り敢えず場が納まった所で俺はエレノアと共に城へと戻る。城に入るとドノムが結界を張ると言ってくれた。
他の人が入らない様に軽く結界を張って奥へと進んだ。いつもは元気なエレノアも人々の暴動に怯えているようだ。街にやって来た人が飢えている様なので、果実を取りに行く。
エレノアとメイド部隊も一緒に先ずは果実、そして野菜を収穫する。
城の門の前に運ぶが、どうやって配るべきか悩む。そこへドワーフ達がやって来た。門の横の小さな扉を開け、ドワーフを迎え入れる。彼等が果物を配ってくれると言った。
武装したドワーフが家具屋に置いてあったテーブルを持って来て、並ぶように促す。そうして果物を配っていった。一先ず落ち着いた集団のいる広場に炊き出しをするために向かう。
俺の横に従うテオを恐れて人々は避けて行く。
食堂のおばちゃんも手伝って鍋を用意。明日の為に作ってあったうどんも少ないながら投入したスープ。暖かい食事で腹を満たした人々。
「済まない、ユキツネ殿と言ったか?話をさせて貰えぬだろうか」
それはテオに攻撃を仕掛けてきた青年であった。
「先ずは知らぬ事とは言え、そちらの獣に攻撃を仕掛けた事を詫びる。私はずっとこの集団を守って来たんだ」
詳しく話を聞くためこの男を城に招いた。男の名はカーヴェル。彼は旅をしていて、今回の事巻き込まれたのだった。
ゼキベア国は優秀な鉱山が採れる国で、国民も潤っていた。だが国王が代替わりしてから話は変わる。
現在の国王は遊び好きで金にだらしなく、他国で多額のギャンブルを行い借金を作ってしまった。その負債を回収すべく国民に重税をかけ始めた。最初は異民族、そして国民へとその対象は移った。増え続ける税金に人々は困窮し始める。
そして暴動が起こった。
国は混乱し、人々は逃げ出した。行き場を失った集団は森へと入った。森に入れば危険があるものの、食料を得られる。大勢の人が難民となり森の奥へと進んで行ったのだった。
ゼキベア国と言えばそう、ドワーフが嘗て所属していた国だ。ドワーフだけでは飽きたらず、全ての国民に重税をかける事により、国民の不満が爆発したのだ。
「私は国民では無かったが、危険な森に入る人達を見捨てられなかった。他にも魔法が使える者が護りつつ、進んで来た」
国の混乱による暴動、それから逃れて来たのだ。街は無法者が支配しあらゆる犯罪が横行していたと言うのだ。そしてこれからも人が増える可能性がある、と。
俺は国民を増やしたいと思っていたが、こんなに一辺に来ると困る。ヒ・イズル国が無法地帯になってしまいそうだ。そこへエルフの集団が到着したとの知らせが入ったので、来て貰う。
「陛下、ご無事ですか」
ジルフィンが駆け寄る。俺は平気だと伝える。彼等は俺の傍らにいる獣に気付き、警戒する。
「その獣は何でしょうか?初めて見ますが」
「これは俺の相棒だ。霊獣って存在らしいぞ」
霊獣と聞いてエルフはざわめく。精霊と同様に珍しい存在みたいだから。
外にいる連中の対応を話し合う事にした。カーヴェルと俺、エルフからジルフィンとカイラス、ドワーフのタロスと言うメンバーで。テオもいい子にしている。
一気に増えた人に対し現在建物が足りていないので、おいそれと建物に入れない方がいいと。面倒だが軽く審査をして振り分ける方針だ。それにしても現在の国民よりも多い人。ざっと二、三百人はいるだろうか。それを振り分け仕事を与えるのも一苦労しそうだ。
夕方は広場の人に有志を募り、食事を作って貰う事にした。食堂のおばちゃんだけでは負担が大きすぎる。女性を中心にしたメンバーで食事を作る。
俺はこっそりドノムに相談すると、一先ず集団を収納する建物を作ると言った。住居も作るが広場を占領された状態は良くないので。
ドワーフが護衛に立ち街の端の方へ行くと、ちっこいオッサンが現れ踊り出す。するとゴウッと地鳴りがして学校みたいな建物が建った。五階建ての大きな物だ。初めて見る現象にドワーフは驚いていた。いきなり建物が現れたのだ。そりゃあ驚くよ。
広場に戻るとたった今現れた建物に集団を案内する。広場の人も急に現れた建物に驚いていた。エルフとドワーフが誘導して何とか人をさばいた。
エルフとドワーフは今日は一旦城に泊まり、明日からの難民の対応に順次する。




